幸福度の底は48.3歳

11月2日の日経新聞に「「幸福度の底」は48.3歳 日本も」が載っていました。いろいろな要因が分析されています。ここでは、その一部を紹介します。

・・・「48.3歳」が近年注目されている。世界各国で年齢と幸福度の関係を調べた研究で、48歳前後が幸福の底になることが分かった。日本では就職氷河期世代に当たるが、幸福度はやはり低いのだろうか。

米ダートマス大学のデービッド・ブランチフラワー教授が145カ国のデータから幸福度と年齢の関係を分析したところ、幸福度はU字型の曲線で推移し谷底の平均年齢は48.3歳だった。
内閣府の「満足度・生活の質に関する調査報告書2024」からも、40〜64歳のミドル層の生活満足度の低さが明らかだ。20年は40〜64歳と39歳以下の差は0.03だったが、24年には0.32に広がった。ミドル男性は「家計と資産」「子育てのしやすさ」の満足度が23年から低下した。

子育てが大変なのだろうか。「残酷すぎる幸せとお金の経済学」を書いた拓殖大学教授の佐藤一磨さんによれば、13歳以上の子がいると既婚女性の生活満足度は低くなる。子宝とはいえ、子どもも数が多いと負に作用する。お金がかかることや夫婦関係の不満が背景にある。
20年国勢調査では当時40代だった夫婦の8割が子持ちだ。人口動態調査を遡って父母の平均第1子出産年齢を調べると、現在48歳の女性は2005年前後に29歳で、男性は07年前後に31歳で、第1子が産まれていた。子どもはいま17〜19歳で、母親の幸福度が下がる年代と重なる。
この分析では父親のデータはないが、一般に男性の方が幸福度は低く出る。中でも35〜49歳の子持ち男性の幸福度は2000〜10年代に低下したという。「共働き増加で家事・育児負担が男性にものしかかるようになった。男性が大黒柱という考えもまだあり板挟みになっている」と佐藤さんは分析する。
一方で、配偶者の有無別で見ると最も幸福度が低いのは独身男性だ。20年の国勢調査によれば現在48歳の男性の未婚率は調査時点で27%。10歳上の21%から増加していることも見逃せない・・・

・・・苦労を重ねてきた世代に希望はないのだろうか。
幸福学を研究する慶応義塾大学教授の前野隆司さんによれば、勉強のように自分を成長させる活動は幸福度を上げる。意外なことに、学ぶ人の幸福度は旅行や芸術鑑賞に熱中する人と同じくらい高いという。前野さんはさらに高齢期に向けた幸福の条件として、複数の人間的なつながりを持っていることも挙げた。
内閣府の20年度の国際比較調査では、日本の単身高齢者は調査した4カ国中「人との会話がほとんどない」が最多の25%だった。生きがいを「あまり感じていない」「まったく感じていない」も計29%で最も多く、孤独・孤立対策が政策課題にもなっている・・・

コメントライナー寄稿第20回

時事通信社「コメントライナー」への寄稿、第20回「日本を支えた意識の劣化」が11月18日に配信され、19日にはiJAMPにも転載されました。

最近の電車で座っている人たちは、居眠りをしているか、スマホを操作しているかで、全く周囲に関心がないように見えます。足の悪い人が乗ってきても、席を譲ろうとしません。災害時の日本人の助け合いは、世界が称賛しています。他者への思いやりと共助の精神が弱くなると、安心・安全な社会は壊れます。

資源に恵まれない日本が、世界有数の経済成長を遂げたのは、向上心と勤勉のたまものです。この30年間の経済停滞の大きな理由は、この向上心と積極性の低下でしょう。発展途上時代は「努力すれば暮らしは良くなる」という社会の現実と通念が、国民を勤勉へと駆り立てました。しかし成熟社会になると、向上心や挑戦心は低下したようです。

これまでの日本の強みは、このような他者への信頼と向上心であり、関係資本と文化資本いわゆるソーシャルキャピタルでした。
昨今の無関心の広がりは関係資本の劣化であり、新しいことへ の消極性は文化資本の劣化です。このままでは、先祖から引き継いだ強み を、私たちは子どもたちに引き継ぐことができません。そして日本は 弱くなります。

SNS疲れ

10月30日の日経新聞に「Z世代に再び「閉じた」SNS」が載っていました。

・・・ごく親しい友人とだけ交流するSNSが、Z世代(1990年代半ば以降生まれ)やα世代(2010年以降生まれ)の間で広がっている。スタートアップのパラレル(東京・港)はゲームや動画を見ながらチャットする機能を提供する。多数の人から見られる「SNS疲れ」を回避するプラットフォームに、各社は若い世代を誘導。ターゲットを絞った広告配信にも乗り出した・・・

・・・若い世代は1つのSNSで複数のアカウントを持ったり、SNSを複数使い分けたりする傾向がある。SHIBUYA109 lab.の調査によると1都3県に住む15〜24歳が持つSNSの平均アカウント数はインスタグラムが2.28個、Xが2.45個だった。趣味やコミュニティーなど用途に応じて使い分ける。
背景にあるのが若い世代で見られる「SNS疲れ」だ。返信の義務感や多くの人に投稿を評価されるような「映える」画像など情報量の多さに嫌気が差す人が増加。SHIBUYA109 lab.調べでは疲れを感じる人が半数にのぼる。

日本でSNSが本格的に出てきたのは2004年。日記を投稿する「mixi」などが登場した。「フェイスブック」や「ツイッター(現X)」が08年に国内サービスを開始。11年の東日本大震災以降に、連絡手段として対話アプリ「LINE」が定着した。
その後、写真共有の「インスタグラム」や動画共有の「TikTok」が普及。会員制の閉じられたSNSが中心だったのが、10年代後半以降は多くの人に見てもらう開かれたSNSが台頭した。
現在、限られた仲間で気兼ねせず交流するSNSが再び台頭している・・・

・・・LINEは自治体から災害連絡が届くなど、公的な連絡手段として幅広い世代に定着した。そのため、若い世代ではLINE以外で距離の近い友人とやりとりできるプラットフォームを探している。博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所の森永真弓上席研究員は「LINEと併用できる別のSNSを探しており、口コミなどで新しいSNSが広がっている」と指摘する・・・

JICA「強靱な国・社会づくり」講師3

今日は、JICA「強靱な国・社会づくり」講師、その3回目に行ってきました。
研修生たちは一連の講義と視察を終えて、明日は各人が成果を発表します。今日はその前の、質問時間でした。

2時間にわたって、災害復興、日本の危機管理、中央政府と地方政府の関係、政治家と官僚との関係、日本の経済発展の課題など、多種多様な質問を受けました。
私のこれまでの経験と連載「公共を創る」などで考えていたことを基に、伝わるように、わかりやすく答えました。このような内容なら、私もお役に立つことができます。
研修生の皆さん(各国の政府幹部候補)が国に帰って、今回の研修が今後の国づくりに役立つとうれしいですね。
第2回」「第4回

中年の孤独

10月23日の朝日新聞くらし欄「『孤独』を飼いならす:下)、宮本みち子・放送大学名誉教授の「ミドル期世代、「親密圏」づくりを」から。

・・・高齢者だけでなく、都心でひとり暮らしする35~64歳のミドル期世代も、「孤独」がもたらすリスクにさらされている――。社会学者で放送大学名誉教授の宮本みち子さんは、こう指摘する。リスクを減らすには、何が必要なのか。「東京ミドル期シングルの衝撃」を出版した宮本さんに、孤独とのつきあい方を聞いた。

宮本さんによると、東京区部ではミドル期人口の3割弱がシングルで、この数は今後も増えることが予想されている。一方で行政は、現役世代をリスクを抱える政策対象と見ていないため、この層への支援が抜け落ちていると指摘。地域から孤立し、将来に不安を抱える人が増えている現実に目を向けるべきだと話す。

体調不良をきっかけにひとり暮らしのリスクに気づく人もいた。ある女性はがんの治療後、体調が優れず、ときどき友人が食事を持って訪ねてきてくれるが「孤独と不安を感じる」と回答した。
厚生労働省が補助する24時間電話相談事業「よりそいホットライン」で相談が一番多い年齢層は、40代だという。「お金、健康、仕事、家族関係が絡み合った相談内容が多く、つらい悩みを抱え孤立している人たちがこんなに多いのかと驚きます」

また、ひとり暮らしは孤立・孤独の問題を抱えやすいが、その傾向は男性でより顕著だったという。女性は実家の親と連絡をとりあい、男性より友人や知人との関係を築いている人が多くいる。ところが男性は、職場関係に限られる傾向が強く、困った時に頼れる人を挙げることができない人が多いと指摘する。
「仕事があり、友人がいて、親も元気なうちは、社会からの孤立や孤独をあまり感じないかもしれません。でも、それを維持できなくなったときにどうするかを前もって考えておく必要があります」

解決策の一つとして、結婚という形を選ばなくても、それに代わる「親密圏」をつくることを提案する。親密圏の範囲は工業化が進むにつれて狭くなり、夫婦と子どもによる核家族へと収斂していったが、近年、さらに狭まっているという・・・

この本では、35歳から64歳を指してミドル期世代と呼んでいます。ここでは「中年」と表現しておきます。
私が孤立・孤独の問題に関心を持ったのは、内閣官房で再チャレンジ政策を担当したときです。その際に、宮本先生にお教えを請いに行きました。それまでは、このような分野は門外漢だったので、新鮮でした。そこから、成熟社会の問題を考えました。
「再チャレンジ支援施策に見る行政の変化」図表・再チャレンジに見る行政の変化