意図や目的のない人工知能

生成人工知能(チャットGPTなど)が、評判になっています。私の理解では、コンピュータが過去の膨大な文章を蓄積し、利用者の求めに応じて、そこから答えを出してくれる仕組みです。
なかなかの優れもので、わからないことを調べたり、一定の指示で文章を書いてくれます。大学入試だと、過去問に強いのです。仕組みからして、当たり前ですね。

東大出版会の宣伝誌「UP」7月号に、千葉滋・東大教授の「プログラミングはAIに奪われる仕事だってさ」が載っています。面白い例えをしておられます。「酔っ払いと話をしているような気になる」とです。
すなわち、話していることの部分部分は正しく、間違っていると指摘すると修正してくれます。ところが、全体として何を言いたいのかわからないのです。頭に浮かんだ考えの断片を、浮かぶがままに口にしているだけなので、本人だってわからない状態です。
私も、何度も経験があります。その時々は、しっかりして話している(と思うのですが)、あとで考えても、全体で何を話題にしていたかが思い出せないのです。多分、その時点で「今何を話題にしていますか?」と聞かれたら、答えられないでしょう。

これは、わかりやすい例えです。聞かれれば、過去の蓄積から答えを出してくれますが、自分から何かを考えることはありません。機械は、意図や目的は持っていないのです。
「あなたは何をしたいですか」という問いに、人工知能はどう答えるのでしょうか。「条件を与えてくれないと、答えられません」と言うのかな。

助けを求める声を受け止める

6月27日の朝日新聞「追い詰められる女性たち第2部2」「SOSの受け手側、見えた課題 杏林大・加藤教授、患者聞き取り」から。

・・・困ったら相談を――。繰り返し呼びかけられている言葉だ。しかしSOSが出されても、それを受け取る側がどうするかで状況は大きく変わる。そこにもっと目が向けられることが必要だ。
困った女性たちの多くはSOSを出し、役所にも相談している。にもかかわらず、わずかに条件と異なるだけではじき飛ばされたり、「大変ですね」と慰められながらも具体的な助けを得られなかったりしている。大学病院の救命救急センターで30年以上、精神保健福祉士として自殺を図った人々と向き合ってきた杏林大の加藤雅江教授は、どう見ているのか。

加藤さんはある時、治療にあたる医師たちから「なぜこれほど自殺未遂が多いのか。救命して体を治療して退院させるけど、意味があるのか」という疑問の声を聞いた。そこで加藤さんは入院患者に聞き取りをした。
話を聞いたのは年間100人程度、10~60代の年齢層。そのほとんどが、落ち着いた子ども時代を送れていなかった。虐待、性暴力、DV(家庭内暴力)、非行、ヤングケアラー……。これらを何度も経験し、不登校や引きこもりなどをへて、実社会とのつながりが希薄になっていた。
「支援につながらなかったとか、嫌な思いをしたから支援なんて受けても仕方ないとか、そういったことがインタビューを通じて見えた」
加藤さんは、支援が十分に行き届かない理由について、「支援する側が助けたいと考えていることと、支援を受ける側の困りごとがずれています。意識しないと、支援者は自分の尺度で測ってしまう」と指摘する。
また、支援する側が「成果」を求めがちで、食料不足や不登校、親の病気といった目に見える困りごとのほうが支援されやすいという・・・

復興とレジリエンスの政治社会学研究会

今日、7月15日は、復興とレジリエンスの政治社会学研究会で、東日本大震災の経験を話しました。原田博夫・専修大学名誉教授のお招きで、政治社会学会の活動の一つです。オンラインでした。

専門家の方々なので、質問も高度でした。想定外の危機が起きたときの対応のコツについて、大津波、原発事故、新型コロナでの対応の違いを説明しました。

自殺者2万人

6月26日の朝日新聞「追い詰められる女性たち第2部1」「年2万人「消えたい」と感じさせる社会 清水康之氏に聞く」から。

・・・日本では毎年2万人超が自殺で亡くなっている。主要7カ国(G7)の中で自殺率が高く、女性の自殺者数はトップだ。その背景や自殺対策の現在地などについて、NPO法人「ライフリンク」の清水康之代表に聞いた。

――昨年の自殺者数は2万1881人でした。1日に60人弱の方が死を選んでいます。現状をどうみますか?
2003年に自殺で亡くなる人は、3万4千人と最多になり、06年に自殺対策基本法ができて、その後2万人台まで減りましたが、下げ止まっている状況です。
日本社会に、「死にたい」「消えたい」と思わせるような悪い意味での条件が整っている。この視点を強調して発信し続けなければならないと思っています。

――ライフリンクによる自殺者523人の実態調査から見えてきたこととは?
その多くが「追い込まれた死」でした。自ら死を積極的に選んでいるわけではない実態が見えてきました。その人らしく生きるための条件が失われていたのです。
自殺で亡くなった人は平均で四つの悩みや課題を抱えていた。理由が複合的であることも分かりました。と同時に、じわじわと自殺に向かって追い詰められている。自殺の行為だけでみると瞬間的ですが、そこに追い込まれていく過程をみるという捉え直しが必要なのです。
さらに重要な発見は、職業や立場によって、自殺に追い込まれる状況には一定の規則性があることです。例えば失業者であれば、失業したことで生活苦に陥り、借金を抱え、精神的に追い込まれて自殺に至る。働く人なら、配置転換などの職場環境の変化で過労に陥り、人間関係の悪化も重なりうつになり自殺に至るといったものです。
こうした自殺の典型的な危機経路が明らかになってきました。原因が社会性を帯びているのです。自殺は個人的な問題であると同時に社会的な問題として捉えるべきです。
毎年2万人台前半が自殺で亡くなっています。1年間、この社会をこのまま回していくと、2万人が「もう生きていられない」状況に追い込まれる社会構造とも言えます。

――国内の自殺対策の現在地は今どこになりますか?
10をゴールとすれば、今は5だと思います。06年に自殺対策基本法が施行され、16年の大改正で都道府県と市町村で地域自殺対策計画をつくることが義務づけられました。
市町村単位で自殺者の性別、年代、職業、原因、同居人の有無など細かいデータを把握することができ、それに基づき計画をつくり、関係機関が連携して対策にあたるようになりました。研修も行い、首長がその旗振り役を担うという自覚も生まれています。計画を策定しているのは都道府県すべてですし、市町村も95%にのぼります。
検証も進められ、自殺総合対策大綱が見直される度に地域自殺対策計画策定のガイドラインも見直されることになっており、ようやく日本の自殺対策のPDCA(計画・実行・評価・改善)が循環する状態まできました。
ただ自殺者は下がる傾向とはいえ、2万人台です。まず、課題としては、子どもの自殺の実態解明をして、それに基づき総合戦略を立て、関係機関が連携し、対策を推進する流れをつくらなければいけません。もう一つの課題は、社会全体の自殺リスクを減らすために、社会保障や介護制度など大枠の制度も変える流れに持っていく必要があると思っています。

まだ2万人を超える人が亡くなり、子どもの自殺が増えています。そこの課題が残る5の部分だと思っています。
自殺というのは孤立というより、生きる場所がないということが大きな問題だと思っています。そこにアプローチできる社会にしていかなければなりません・・・

連載「公共を創る」第155回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第155回「「生活者省」設置の提言─「安全網」への転換を明確化」が、発行されました。

前回に引き続き、行政の手法の転換を説明します。企画にあっては、先進国に学ぶ「追いつき型」から、国内の課題を拾い上げ対策を考える「試行錯誤型」に変わります。そして、手法は「モノとサービスの提供」から「人への支援」「人の意識への働きかけ」に変わります。また「社会の通念を変える」ということも必要です。

これらを踏まえると、行政の役割は、これまで「社会の先導者」であったものから、「困った人を支える社会の安全網」に変わります。
明治以来の省庁を見ると、富国強兵、生産と公共サービス提供に重点を置いてきたことが分かります。「安全網」への転換を明確にするため、私は「生活者省」の設置を提唱しています。