政権交代のために、長期ビジョン提示が必要

11月30日の朝日新聞オピニオン欄「立憲民主、立て直せるか」、松井孝治・慶応大学教授の発言「批判の前に長期ビジョン」から。

・・・1998年にできた民主党は「与党批判だけでは政権は取れない」と考えていた旧社会党の議員、「自民党では改革できない」と自民党を飛び出した議員らで結党されました。その精神は、既得権益に縛られた自民党に代わり、官僚主導の政治を変えるというものでした。しかし今は、もっぱら与党のスキャンダルを追及する野党というイメージが定着しています。
この変質は2000年代後半、小泉内閣のときに起こり始めていた、と私はみています。当時の小泉純一郎首相の「改革」の演出が巧みだったため、むしろ自民党の方が改革を進めている、という印象を国民に与えました。そんな自民党に対抗し、選挙で勝つために、民主党は与党の新自由主義などを批判する「批判政党」へと次第に変質し、今に至っているのです。

しかし、こうした政治手法では「どんな日本社会を作りたいのか」という政党としてのビジョンを国民に示すことはできません。
かつて民主党は、子ども手当を創設するチルドレン・ファースト(子ども第一)、高校無償化なども含む「コンクリートから人へ」、それに「新しい公共」といった自民党が掲げないような政策理念を掲げました。今後の立憲民主党も、若い世代のために何をするのかということを軸に、長期的な将来ビジョンを示すべきです・・・

市町村アカデミー、新しい研修

市町村アカデミーでは、1年間に90ほどの研修を行っています。内容は大きく分けて、市町村行政の基本的知識と技能(法制執務、地方税など)、地域と時代の新しい課題、市町村長・幹部・議員向けなどがあります。
このうち「新しい課題」は、自治体からの要望や学内での検討によって、毎年入れ替えています。

今年は新しく「感染症の危機管理対策」のほか、今月も「事業推進のためのデータ活用」を実施しています。
これらの課題は、まだ進行中のものなので、定番の教科書や研修課程はありません。どのような内容にして誰を講師に呼ぶのか。それぞれ手探り状態です。もっとも、市町村現場からすると、その状態を知りたいでしょう。政府の方向はどうなっているか、最先端の情報は何か、他の市町村はどのように取り組んでいるか、他の市町村も何に悩んでいるかなどです。
事態の推移、研修生たちの要望、今回の研修結果の評価、担当省庁の考えなどを踏まえて、改善していきます。デジタル化は、今後も力を入れる必要があります。

来年度も、いくつも新しい研修に取り組みます。「研修一覧
私の経験を踏まえて、「政策の最先端」(地域社会課題群とその取り組みの最新情報)「管理職の必須知識講座」(近年、管理職に必要となった知識の一覧)を教授陣に提案し、新設してもらいました。詳しい内容は検討中です。乞うご期待。

国内の学会と海外学会

11月30日の日経新聞教育欄、恩蔵直人・早稲田大学常任理事の「人文社会科学の学会、世界での競争不可避に」から。

・・・国際的に活躍する研究者の中には積極的に海外学会で活動する人もいたが、言語や地理的な壁や研究テーマによって、国内学会と海外学会はすみ分けがされていた。
ところが近年、海外学会とのすみ分けが崩れ始め、海外での報告が優先されるようになっている。
グラフは、ある国内学会における研究報告件数である。報告件数は開催都市などによっても左右されるので単純に比較はできないが、10年前と比べて減少傾向にあることは確かだ。こうした傾向は、他の国内学会でも確認できる。研究者たちの間で、報告をするなら海外学会でしたいという流れがあるようだ。理由はいくつかある。
まず有益なコメントを得やすいこと。海外学会は世界から研究者が参加する。当該分野の第一人者が参加することも多く、有益で価値あるコメントは自らの研究のブラッシュアップに役立つ。
また、一部の研究分野では、学会報告が評価対象としてカウントされるという背景もある。この場合、同じテーマによる複数回の報告は制限されており、国内学会よりも海外学会の方が高い評価を得やすい。
さらに海外学会では、査読と呼ばれる事前審査があり、一定水準に到達していない報告は受け付けてもらえない。こうした制度が整っていることも、海外学会の支持に結びついている。競争は厳しくても評価が明確な場を求めるというのは、スポーツの分野において、一部のプレーヤーが海外での活動を選ぶのに似ている・・・

・・・海外学会での報告にしても海外論文誌への投稿にしても好ましい傾向であり、我が国の研究水準の向上には不可欠である。研究活動がいちはやく国際化した医学分野、理工学分野、経済学分野などでは、ここで述べたような問題は過去のものかもしれない。しかし、依然として国内での研究トピックが存在している多くの人文社会科学分野の学会は大きな転機を迎えているといえよう・・・

横山晋一郎・編集委員の付記
・・・日本の大学の世界ランキングが振るわない一因は、人文社会科学系の評価が低いことだといわれる。論文の多くが日本語で書かれ、研究対象も日本特有の事象が少なくないからだ。
大学の国際競争が激しくなると、いつまでも〝内弁慶〟でいることは許されない。海外学会志向の強まりは当然といえる。
問題は、それが国内学会の衰退を招きかねないことだ。全ての大学が国際舞台で活動するわけではないように、全ての研究者が海外学会に所属する必要もない。学会は若手研究者養成の貴重な場でもある。恩蔵氏の問題提起の意味は重い・・・

「世界は「関係」でできている」

カルロ・ロヴェッリ著『世界は「関係」でできている: 美しくも過激な量子論』(2021年、NHK出版)を、本屋で見つけて読みました。
量子論の話なので、私には理解できないところもあると思いつつ、物理学以外の分野にも話が及んでいそうなので、挑戦しました。読みやすい文章と訳文なので読むことはできたのですが、やはりすべてを理解して納得するまでにはいたりませんでした。
新聞の書評欄で、相次いで取り上げられています。私と同じように「すべては理解できなかった」と書かれているものもあり、安心します。

「物理学以外の分野に」と書いたのは、次のような問題関心からです。
連載「公共を創る」でも書いているように、私たちが暮らしている社会は、人と人とのつながりでできています。施設や財物というモノも暮らして行くには必要なのですが、他人とのつながりがないと、暮らしていけません。家族、友達、知人、職場の同僚・・・。それは一緒に暮らす、困ったときに助けてもらうことであり、それがないとどんなにさみしいでしょう。
携帯電話や電子メールでしきりにやり取りしているのは、知識を得ること以上に、つながりを求めているからです。
宇宙から「人のつながりが見える」特殊な写真機で地上を写すと、一人ひとりがたくさんの人とつながっている線、そして全体では膨大な数の線が見えるでしょう。
他方で、仮設住宅や高齢者の一人暮らしに見えるように、孤立と孤独があります。
経済成長でモノの豊かさは達成しましたが、人とのつながりの安心は低下しました。孤独問題にどのように取り組むのか。それを考えています。この本は、そのような関心とは別の話でした。

あわせて、同じ著者による『すごい物理学講義』(2019年、河出文庫)も読みました。これは、分かりやすい物理学の解説書、全体像をつかむには良い本でした。

機能していない社外取締役

声を上げない社風」の続きです。11月30日の朝日新聞「形ばかりのガバナンス改革 社外取締役、機能せず「お飾り」 相次ぐ企業不祥事

・・・みずほFGも三菱電機も東芝も、社外取締役が多数を占め、先進的なガバナンス体制といわれる「指名委員会等設置会社」だ。改正会社法により導入され約20年になるが、東証に上場する約3800社中、移行したのは約80社にとどまる。人事も報酬も監督も社外取締役を中心に進めるガバナンスの「優等生」に不祥事が目立つのはなぜだろうか。
みずほの社外取締役には元最高裁判事や元大手監査法人トップ、元富士通社長などそうそうたる顔ぶれがそろう。三菱電機や東芝も同様だ。繰り返す不祥事をみれば、金看板はただの「お飾り」になっていたといわれても仕方がない。
社長や業務執行を兼ねる取締役を監督するのが社外取締役たちの役目だが、社内にネットワークがあるわけではない。生え抜きの社長や会長らに情報が集まり、社外取締役との間に「情報格差」が生まれるともいわれる。むしろ、金看板は、社長たちの考えの追認機関となり、監督機能をきちんと果たしていないのではないか。

社外取締役の起用を求める2015年のコーポレートガバナンス・コードの導入で、独立社外取締役が全取締役の3分の1以上を占める東証1部上場企業は7割を超えた。ただ単なる数合わせでは意味がない。不祥事があった場合には社外取締役にも報酬返上を促すなど、企業統治の要として責任を厳しく問うべきだ。

内輪の論理が強くなり過ぎると、社会が企業に期待するものと衝突しかねない。その利害関係を調整するのもガバナンスの大切な役割だ。カーボンニュートラルなどの環境対策をはじめ、賃上げや投資の好循環、労働者の人権問題など、企業には持続的な成長だけではなく、より多くの社会への還元が求められるようになった。形ばかりのガバナンスを続けているようならば、やがて社会への「裏切り」を招くことにもなりかねない・・・