朝日新聞「ふるさと納税見直しを」

8月13日の朝日新聞社説は「ふるさと納税「官製通販」見直しを」でした。

・・・ふるさと納税は、寄付額の多寡にかかわらず、自己負担は実質2千円だ。高所得者ほど返礼品を多く受け取れるうえ、税の優遇も大きい。コロナ禍による格差の是正が政策課題になるなか、不平等な仕組みをこれ以上放置することは許されない。
総務省によると、寄付額の45%が返礼品の購入費や、返礼品を選ぶ民間のポータルサイトへの手数料などに費やされている。昨年度の寄付額から換算すると、全体で約3千億円の税収が失われることになる・・・
・・・ふるさと納税の当初の趣旨は、寄付を通じて故郷に貢献してもらうことだった。しかし現状では「官製通信販売」になってしまっている。NTTグループの昨年の調査では、「出身地への貢献」のために制度を利用した人は12%しかいなかった・・・

冷戦長期化は有益

8月5日の日経新聞経済教室経、経済安全保障の論点、國分俊史・多摩大学教授の「冷戦長期化は有益の視点を」から。

・・・米中冷戦は30年以上続くと聞くと、多くの企業人はけげんな表情を浮かべる。しかし冷戦が長期化する方が、日本および世界にとって有益という考え方に人々は気付いていない。冷戦が実際の戦争(熱戦)にならない状態こそが平和な状況という理解に乏しいのだ。
急激に力の均衡が崩れる方が、戦争リスクは高まる。新しい現実への準備が紛争当事国のみならず、周辺国にもできていない状態で勢力均衡が大きく崩れると、新秩序が台頭するまでに混乱が生じる。これを機に現状変更を仕掛けようとする勢力の動きも活発になる。

冷戦を引き起こさない努力と、起きてしまってからの努力では、力の投じ方が全く違う。米中冷戦が起きないことを願ってきた人々は、起きてしまった状態に早く蓋をして、沈静化したいという思いに駆られて早期決着を望みがちだ。だがそれこそが緊張を急激に高めて最悪の結果を招く・・・

子どもや若者にとっての居場所の重要性2

子どもや若者にとっての居場所の重要性」の続きです。「「孤立」が子どもや若者を苦しめる。だから私たちは「居場所」をつくる 下」(7月13日掲載)から。

・・・私たちが2011年に「たまり場」を作ったのは、(1)学校や社会の「階層格差によって作られたトラック」で競争に耐えられなくなった子どもたちが一時的にでも避難や休息ができ、他者からの視線に耐える力を育てること、(2)異なる価値観をもつ人が集う場で人間の連帯を体験し、社会で協働の機会を得る「場」を創設することが、多様な価値観が交錯する社会で生きていく上で必要だと考えたからである。
(3)居場所に多様な若者たちが集まり、交流することで受容し合える力を若者たちに育てなければならないとも考えた。さらに、(4)外国人の若者が日本の同世代の若者と最初に交流できる場にもなっていた。様々な目的で日本にやってきて、不安の中で暮らす外国人の若者たちが日本語の習得や仲間づくりに利用できる場になっていた・・・

・・・さいたまユースが運営する居場所は、学校や家族の中で孤立し、仕事や学校で躓いた若者たちが利用している。中には精神疾患や障がいで悩んでいる若者も少なくない。
「学校は勉強ができるか、運動がうまい人のためにある」と話した「ルーム」に通う若者がいたが、この言葉を否定する説得力のある言葉を私たちはもっていない。
また「ぼくはみんなと違う。同じようには生きられない……」。この言葉も今の若者を象徴する言葉だ。多くの学校も職場も「みんな同じでなければならない」という同調圧力の中にある。日本の若者たちは日々、この空気の中でプレッシャーを受けながら生きている。
「たまり場」や「ルーム」は、支援する側・される側に拘わらず、日本社会で生きにくさを抱えた人々の社会的居場所となっている。利用者の多くは、生活保護や障がい者支援制度の枠から外れた若者がほとんどだ。「たまり場」と「ルーム」はそんな若者たちが生きがいや社会での役割を見つけ、生きる意欲を探す場所として機能してきた。

若者たちに居場所が求められる背景に、学校での競争がさらに低年齢化し、緊張と不安の中で子ども世界の歪みが大きくなっていること、そして子ども世界のいじめも社会的にも大きな話題になり、教員たちが懸命に対応しても一向に収束する気配はないことがある。
「競争教育」の深刻化と貧困と格差の拡大が進み、子どもや若者たちの社会(他者)に対する信頼感が失われていく中で起きている現象なのである。教育の市場化が進行し、勝者のない、しかも社会的弱者が切り捨てられる状況を目の当たりにしながら、子どもや若者たちの中に社会への信頼や他者への信頼など生まれるはずがないのである。努力しても報われないとあきらめの中で若者たちは社会への関心を失っていく。しかし、人間は他者の存在なくして生きてはいけないこともまた事実であり、そのはざまで若者たちは居場所を求め続ける・・・
連載「公共を創る」で孤立問題を取り上げているので、現実を知ってもらうために、紹介します。

子どもや若者にとっての居場所の重要性

朝日新聞のウエッブ論座に、青砥 恭・さいたまユースサポートネット代表の「「孤立」が子どもや若者を苦しめる。だから私たちは「居場所」をつくる」(7月12日掲載)が載っています。

・・・北海道内の貧困対策の学習支援団体の調査では、利用する子どもの親の約2割が仕事が減るか、なくなったという。低所得家庭では生活費が減り、給食もなくなり、子どもにどう食事を与えるかという親たちの不安が高まっている。2020年の小中高校生の自殺者数は過去最多となる479人だった(文部科学省)。
大学は対面での授業がなくなり、入学以来、友だちが一人もできないと訴える大学生は多い。昨年春に入学して以来、実習以外は大学に行くこともなく過ごした、私たちと共に活動する学生ボランティアもいる。
オンライン上で知人の顔を見つけると、最初に出てくる言葉は「会いたいね!」である。身体性抜きのSNS上の関係だけでは人は満足できないのである。子どもはなおさらだ・・・

・・・学校が休校の間は、ほとんどの生徒は自宅で過ごしていたが、保護者の中には精神疾患を持ち、食事や学習など子どもの生活に関われない家庭もあり、昼夜逆転になっていたり、学校の課題を全く取り組めていなかったりする生徒も多かった。学校での給食がなく、この3か月間で体重がへったという子どもたちも少なくなかった。

ほぼ半数の生徒や親からは、Wi-Fiやタブレット、パソコンがなく、学校から連絡があった「オンライン授業」への不安の声も出ていた。私たちの学習支援の対象である貧困世帯では、半数を超える生徒たちが電話と手紙しか、連絡方法がないのである。「親の経済力は子どもの学力と健康に大きな影響がある」ことはここからも見えた。
2020年2月27日の「休校要請」で、ほぼ全国的に休校になった3月2日から登校が再開された6月7日まで3か月の間、子どもたちは学校という「学習」「友だちづくり」「運動」のためのかけがえのない居場所を失った。

ある小学校低学年の子どもを持つ親は、自分は生活のために働かざるを得ず、1日中、子どもを家の中に置いたままにすることへの不安を訴えていた。子どもも3か月間ひとりで家の中にいたのである。親も子もストレスを増大させながら過ごしてきたことになる。
DVや虐待も報告されている。小中学校の子どもたちは全国で約1千万人である。文科省の2月28日の通達では障がいを持った子どもは、登校させてもやむをえない、という措置をとった。障がいを持つ子どもたちだけでなく、すべての子どもと親たちにとって学校を閉じることで発生した孤立によるストレスが何をもたらしたのか、これから検証が行われなくてはならない・・・
この項続く

日本は貧しい国に逆戻り

8月4日の日経新聞1面連載「通貨漂流ニクソン・ショック50年」は「円安頼み「貧しい日本」生む 円の実力、48年前に逆戻り」でした。そこに、次のような記述があります。

・・・経済協力開発機構(OECD)によると主要国の平均年収は00年以降1~4割上昇し、日本だけが横ばい。ドル建ての賃金水準は韓国より1割近く低い。90年代にに日銀で為替介入を担当したJPモルガン・チェース銀行の佐々木融市場調査本部長は「賃金水準では新興国に近づいている」と懸念する。日本人の購買力は落ち、貧しくなった。

貿易量や物価水準を基に総合力を算出する円の「実質実効レート」はニクソン・ショックからピークの95年まで2.6倍になった。その後は5割低下し、73年の水準に逆戻りしてしまった。円の弱体化は世界の中での日本経済の地盤沈下をそのまま映し出している・・・