連載「公共を創る」第69回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第69回「日本は大転換期―善の基準を教える村と宗教の機能低下」が、発行されました。

「善き生き方」という考えがあります。善いと考えられる行動を取ること、そしてそのような人生を送ることです。
この善の基準は各人で異なり、唯一決まったものはありません。世界観(世界とはこういうものだ、その中で人はこう生きるものだという、世界と人生に対する見方)や、価値観(何に価値があると認めるかという物の見方。善と悪や好ましいことと好ましくないことを判断するときの基準)に基づいて人は行動します。それは、人によって異なるのです。かつては、伝統的な村の教えと宗教が、それを教えてくれました。

ところが、近代の完成とともに、それを教えてくれる人がいなくなりました。西欧近代に生まれた自由主義立憲国家は、市民に生の意味や目的を与えません。というより、それらについて違った考えを持った人たちが共存するためにつくったのが、近代立憲国家です。
善き生き方のうち、共同生活に必要な道徳は学校で教えることにしました。道徳教育は、社会での行動の決まりは教えてくれますが、生きることの意味は避けます。
他方で、村の教えと宗教は力を失いつつあります。生きる意味や人生の意味を教えてくれる人がいなくなりました。

怪しい言説「日本製造業衰退論」

1月7日の日経新聞経済教室、藤本隆宏・東京大学教授の「山積課題の全体最適解探れ 危機克服への道筋」から。

・・・だが一方でネット上では短い魅力的なフレーズが急速に拡散し、支持率や株価にさえ影響する。よって産業リーダーや言論界の側には、ややこしい連立方程式を一本一本にバラし、不都合な制約条件は無視して、シンプルなキャッチコピー的言説を多数発信したいとの誘惑が存在する。一つ間違えば、重大な見落としを伴う個別解の乱発となる。
こうした根拠の怪しい言説は、例えば後述する日本製造業衰退論や電気自動車(EV)礼賛論、インダストリー4.0周回遅れ論(ドイツ側の20年代予測を10年代の現実と混同した誤解)など、かなりの数にのぼる。

日本製造業衰退論はこの30年間、浮かんでは消えを繰り返した。だが結局、平成末の日本製造業の付加価値総額は100兆円強で、平成初頭に比べほとんど減っていない。約1千万人の就業者で割った付加価値生産性も約1100万円だ。仮に非製造業もこの生産性を達成すれば日本の国内総生産(GDP)は700兆円を超える。これが中国との賃金差が当初約20倍という強烈なハンディを、物的生産性を5年で5倍にするような生産革新で跳ね返してきた日本製造業の「30年戦争」の成果だ。衰退論の多くは、統計的分析も現場観察も理論的考察も欠落している。

EV礼賛論も地球温暖化防止という大目的に対し目的と手段を混同している。現世代リチウムイオン電池のエネルギー密度の限界、発火・劣化・充電時間などの弱点、材料調達・コスト問題、各国政府の政治的思惑などをすべて勘案しないと全体解は見えない。現在のEVは発電・製造段階で二酸化炭素(CO2)を出すことも無視できない。中国政府は、EVなら技術キャッチアップが容易との産業政策的判断もありEV化を推進するが、石炭火力発電の多い現体制では温暖化対策として限界がある。
加えて内燃機関のない純粋なEVの世界シェアは、新車市場の約2%(18年)、保有車両や総走行距離ベースなら1%以下だ。期待される次世代全固体電池の本格的普及が30年前後と予想される中で、30年時点のEV普及率は10~20%と専門家の多くは予想する。各国政府は普及政策の強化を企図するが、補助金をやめるとスタートアップ企業の倒産が相次ぎ、慌てて再開しようにも財政的に維持困難という問題に直面し、全体解は簡単に見つからない・・・

リチウムイオン電池の回収

年末に、電気カミソリの調子が悪くなりました。充電しても、すぐに電池がなくなるのです。電気屋さんに相談して、買い換えました。使っていたのは2011年製なので、9年近く使いました。もちろん、回転刃の部分は、この間に何度か買い換えました。店員さん曰く「長く使いましたね」ということで、電池も寿命が来たようです。

問題はここからです。
「この古いカミソリの電池は、捨てたらダメなんでしょう」と聞くと、「リチウムイオン電池なので、リサイクルに出してください」とのこと。
「じゃあ、お宅の店に置いていくわ」というと、「うちでは回収していません」との返事。「え~、あんたのとこ、大手の会社じゃないの」。大手家電量販店の新宿店での会話です。
インターネットで調べて、回収してくれる場所を探しました。

これには、続きがあります。
捨てに行く前にスイッチを入れたら、元気よく動きます。
???
キョーコさん曰く、「捨てられると知ったら、捨てられないように頑張るのよ」。
う~ん。それなら、買いに行く前に、古いカミソリに話しかけるべきでした。「頑張らんと、捨てるぞ」と。カミソリは答えるでしょう「あんたも、気をつけないと・・・」と。

増える家庭内暴力

1月13日の読売新聞が「増え続ける家庭内DV、19年度が過去最多で20年度は1・5倍で推移」を伝えていました。

・・・内閣府は12日、2019年度に全国の配偶者暴力相談支援センターに寄せられた家庭内暴力(DV)の相談件数が前年度比4795件増で、過去最多の11万9276件だったと発表した。20年度の件数が19年度同期と比べて約1・5倍で推移しているとの途中集計も明らかにした・・・
・・・内閣府は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛の影響で増加したとみている・・・

内閣府の公表資料「配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数等

大震災の検証、原発事故後

朝日新聞が、1月12日から「東電「国有化」の実像 原発事故から10年」の連載を始めました。「(東日本大震災10年)「原発事故、起こるべくして起きた」 東電元エース社員の告白」、13日「東電「国有化」の実像:1 事故免責求めたが「通りませんよ」」。
既にウエッブ上では6回の連載が掲載されています。
・・・10年前、放射能を大量に放出する未曽有の原発事故を起こした東京電力はなぜ破綻を免れ、国に救済されたのか。政府の隠れた意図を浮き彫りにするとともに、実質国有化までの知られざる攻防を明らかにする・・・

重要な検証だと思います。
原発事故については、国会・政府・民間などの事故調査委員会が、事故が起きたことと、直後の対応について詳しい検証を行いました。しかし、その後の検証は十分に行われていません。
原発の冷温停止や廃炉作業ではなく、避難指示と避難行動、避難指示区域の設定とその後の解除、賠償、避難者への償いと支援といった、原発敷地外の対応です。東電と政府の対応が良かったか、足らなかったかです。事故が起きた後、そして敷地外での避難者対応の検証です。

津波被災地での避難者支援と復興については、被災者支援本部と復興庁が、検証に耐えるようにできる限りホームページで情報を載せ、記録してあります。私も後世の教訓になるように、なるべく取材に応じお話ししています。
ところが、原発事故のその後の対応は、きちんとしたホームページもなく、検証も不十分です。事実の評価とともに、関係者の証言が必要かつ重要だと思います。