自由の国の不安、アメリカのデモクラシー

渡辺靖著『アメリカン・デモクラシーの逆説』(2010年、岩波新書)が、勉強になりました。渡辺教授は、文化人類学者です。社会学から見たアメリカ政治とアメリカ社会論です。自由と自助(自己責任)を信奉する国民、自らの出世や富を求め激しい競争を続ける国民、そして課題を解決するために結社をつくり政治を動かす国民。そのエネルギーが今日のアメリカをつくり、世界の憧れとなってきました。しかし、その一方で、格差、差別、対立も生んできました。自由が行き着いた先の、孤独な個人主義もです。
教授は、ジョセフ・デュミット教授の論文を紹介し、新しい病が増えていることを指摘されます。米国精神医学会による『精神疾患の診断・統計マニュアル』で見ると、1986年に182だった分類は、1994年には294へと細分化され、病が増えているのだそうです。国立健康統計センターの報告(2007年)では、情緒・行動面で問題があると親に見なされた就学年齢の子ども(4~17歳)は、14.5%にもなります。うち3分の1が処方薬の治療を受け、ほぼ同数がカウンセリングなど処方薬以外の治療を受けています。国立精神衛生研究所の報告(2004年)では、18歳以上のアメリカ人の4分の1以上が、精神疾患を患っているとしています。
渡辺教授は、「今日の新自由主義的な文化や制度のもとでは、自らの精神性や身体性という、個人に最も直近なはずの領域でさえ、自らの責任や判断によって統治・所有することが困難になっているという逆説に他ならない」と述べておられます。
自由と豊かさにおいて、日本はアメリカの後を追いかけてきました。日本社会は、このような事象も後追いするのでしょうか。