政治の役割15

22日の産経新聞「正論」、伊藤憲一さんの「イラク戦争は戦争ではない」から。
イラクで起こっている現象を、「戦争」という既成概念でとらえるのは、誤りである。戦争は社会現象の一種にすぎず、それを成立させている社会基盤が消滅すれば、それに伴って消滅する。戦争は、国際システムの誕生と軌を一にして誕生した社会現象であった。第二次世界大戦終了後、国際システムは急速に根本的な変質を遂げ、いまや不戦時代に移行しつつある。戦争に代わって、新しい挑戦として「紛争」という社会現象が重大問題化しつつある。
いま世界と日本にとって問題なのは、戦争でなく紛争である。それに対処するために、これまでの「日本さえ戦争に巻き込まれなければ」という一国平和主義や「あれもしない、これもしない」という消極的平和主義でなく、「世界の平和が即日本の平和だ」という国際平和主義や「あれもする、これもする」という積極的平和主義に転換しなければならない。
イラク紛争(戦争)の本質は、米国がイラクを侵略して、それを併合しようとしていることにあるのではない。それは国家間戦争ではなく、国民国家を形成しきれていないイラクの部族間紛争である。われわれ国際社会は、これを解決するために関与するのか、それとも手を引いて放置するのか、という問題である。(1月27日)

(EECから50年)
19日の日経新聞経済教室は、庄司克宏教授の「ローマ条約50年とEU法規制。企業も作成段階で参加を」でした。3月25日で、EUの前身であったEEC設立を決めたローマ条約調印から、50年になります。今や、27か国、総人口5億人の規模です。次のようなことを指摘しておられます。
EUは、国家ではなく、他に類を見ない超国家的統治体である。それは、複数の国家が共通機関を設立し、主権の一部をプールして共同行使する統治の枠組みをいう。
2004年の英国下院資料では、すべての英国立法のうち、EU法に基づくものは7~9%。しかし、EU規則は国内法化の必要がなく、EU指令の国内実施が行政措置でなされる場合、数字には表れない。英国で2005年に行われた食品規制立法100件のうち、EU関連立法は75件にもなる。
EU立法過程の特徴に、企業やNGOなどの利害関係者とのオープンな事前協議を重視する点がある。これを、参加民主主義と称して奨励し、ロビイングも日常的に展開される。(3月21日)

(遅れた裁判は、裁判の拒否に等しい)
17日の産経新聞に、宗像紀夫元東京地検特捜部長が、次のように書いておられます。
ライブドア裁判(堀江貴文被告)は、公判前整理手続が取り入れられ、極めて迅速な裁判が行われた。昨年9月4日の初公判から今年1月26日の弁護側の最終弁論まで、およそ4か月半の超スピード審理だった。公判回数も28回で、被告が全面否認する事件としては、空前絶後の短期公判だった。リクルート事件(江副浩正被告)の裁判は、平成元年の起訴から14年余り、322回の公判を重ね、有罪となった。あまりの長期裁判で、事件は完全に風化してしまった。(3月21日)

(知日派の育成)
19日の日経新聞「人脈追跡」は、「自衛隊で学べ、留学生続々」でした。防衛省の研究機関や自衛隊の教育機関(防衛大学校など)に、外国からの留学生が来ています。そして彼ら卒業生が、知日派として母国との橋渡しをしてくれるのです。「同期」意識は強いでしょうから。これは、大きなソフトパワーだと思います。(3月21日)

(産業再生機構)
23日の日経新聞経済教室は、産業再生機構社長の斉藤惇さんでした。産業再生機構は、破綻企業を再生させる会社です。国がつくったことに、特徴があります。先日、業務を終え解散しました。
本来、個別企業の設立・運用・解散は、市場の自由主義経済で行われるもので、政府活動とは別の世界にあるものです。よいものが生き残り、だめなものは淘汰される。それが、自由主義経済です。「官と民」という区分の中で、反対側にあるものです。官がすることは、企業一般の設立や解散のルールづくりです。
しかし、この機構(会社)は、平成15年に政府が主導してつくりました。個別の破綻した企業を再生するための会社を作る。その会社を政府が作ったのです。それほど、日本の市場主義経済は、危機・混乱に陥っていたのです。もっとも、この機構自体は、民間の市場原理で運用されました。国家と市場、官と民という観点からは、この機構は興味深い実例だと思います。私は、岡本行政学のなかで、どう位置づけるか悩んでいます。
この論文では、企業の社会的位置づけを述べ、社会の理念との乖離が起こりうること、破綻事例は金融機関と事業会社が社会的使命から外れることで起きたことを指摘しています。そして、事業のリスクを社会がどのように分散し、収益を上げるべきかが述べられています。(3月23日)

(責任ある政治)
読売新聞は23日から連載「付加価値税増税、ドイツ報告」を始めました。ドイツは、1月から付加価値税(日本の消費税)の税率を3%引き上げ、19%としました。現在のメルケル首相が引き上げを主張し、総選挙に勝って政権を取ったのです。これについては、かつて紹介しました(2005年7月13日の項)。
ケルンの主婦は、「日本の消費税は5%? 信じられない。でも、ドイツも生活を圧迫するほどではないわ」と発言しています。別の人は「年金の先行きを考えると、一定の税負担は仕方ないという考え方が浸透している」と指摘しています。(2007年3月23日)
読売新聞連載「付加価値税増税、ドイツ報告」中・下は、24、26日に載りました。
2005年9月の総選挙は、当時与党だったSPDが所得税の最高税率を3%引き上げることを主張し、野党だったCDU・CSUが付加価値税率を2%引き上げることを主張するという、異例の展開となった。ドイツの財政赤字がGDPの3.3%に達し、3%以内にとどめるというEUのマーストリヒト条約に抵触する事態になったことがきっかけだ(このルールについては「地方財政改革論議」p26を見てください)。
選挙後、SPDとCDU・CSUは連立協定を結んで、付加価値税率と所得税率の双方を3%引き上げることで合意した。付加価値税率3%の引き上げのうち、2%分を財政再建に、1%分を失業保険料軽減に充てることとした。そこには、「不人気な政策でも、国民のために必要ならやる」(ドイツ財務省の広報担当者)一方で、国民の理解を得るための施策も同時に実施していくという政治の姿勢がある。
また、ドイツ政府は1月、2007年の実質経済成長率見通しを、昨年10月時点の1.4%から1.7%に引き上げた。ドイツ財務省の担当者は「経験から言えるのは『成長なくして国家財政は強化できない』ということだ」と解説する。しかしそれは、増収に頼るということではなく、成長を見込める時が、財政再建のための増税の好機という意味だ。「経済が上向きな今改革せず、いつできるのか」と、理解を示す財界人も多い・・・。(2007年3月26日)

(日本のソフトパワー)
3月29日の朝日新聞「新戦略を求めて」は、「ソフトパワーを磨け」でした。イギリスBBC放送の調査によると、多くの国で、日本は世界によい影響を与えると評価されています。例えば、アメリカでは日本が良い影響を与えるが66%、悪い影響を与えるが15%です。イギリスでは63対19、ロシアでは56対15、インドネシアでは84対9です。しかし、韓国では31対58、中国では18対63と、大きく悪くなります。隣国での評価が、特に悪いのです。
ソフトパワーは、相手国が持つ印象ですから、一朝一夕には好転しないでしょう。しかし、かつて対日印象が悪かったインドネシアも、好転しました。それは、日本企業、観光客、アニメなどの影響だと考えられています。多くの国から、日本は良い国だ、信頼に足る国だ、あこがれの国だと思われるよう、努力の積み重ねが必要ですね。個人が社会で評価されるように。(4月2日)

(アマチュアリズムと改革)
11日の読売新聞「ウイークリー時評」、牧原出教授の「あいまいな美しい国、アマチュアリズム百家争鳴」から。
・・首相の著書「美しい国へ」では、「どこかうさんくさい」「どこか不自然」と「どこか」が繰り返される。政敵を猛然と攻撃するのでも、決然と切り捨てるのでもない。そして突然「闘う」と唱える・・・もやもやとした疑念と唐突な「闘い」の開始という特徴は、一面で素人くさく、他面で初々しくもある。そこには政治のアマチュアリズムとして、国民から歓迎される要素が含まれている。安倍内閣は、アマチュアリズムによって専門家を攻撃することで、世論を味方につけるという戦略を、とりつつあるようにみえる。
教育改革は、教員・教育専門家への疑念が、改革の原動力である。公務員制度改革も、官僚への不信感が、改革の原動力となっている。また、大臣の多くは、所管分野の専門家とは言い難い。そして、経済財政諮問会議が公務員の天下り規制を議論するのは、筋違いというものである。
ふりかえれば、90年代までは、専門家による自己改革の時代であった。小泉内閣はアマチュアを諮問機関に多用したが、「構造改革」という経済路線は明確であった。だが、安倍内閣では「美しい国」というあいまいな目的の下で、アマチュアリズムが百家争鳴状態を作り出している。
恐れなければならないのは、こうした改革のパターンが、改革能力を劣化させることである。改革の政治に必要なのは、アマチュアと信頼に足る専門家との統合である・・・