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閉ざされた組織が、知の創造を断つ・その2

引き続き、野中郁次郎先生のインタビューです。
「経営の近代化とは、暗黙知をマニュアルのような形式知にして科学的に経営することだ、と多くの人は考えていませんか」という問に対しては。
・・それは間違いだと思います。全部チェック、チェックと過剰にやったらチェックリストになってしまう。これでは、「マニュアルに書かれていないものがあるのではないか」「このようなマニュアルになった背景は何か」などと、現場で状況や文脈に応じて適時適切に判断する「実践知」が働かなくなる・・
すべてを科学的に分析し、経営することは不可能でしょう。
私もかつては「経営は科学だ」という旗を振っていた一人でした・・いまでもこの考え方は主流で、ビジネススクールでも客観的に分析的にルールやモデルを作らなければいけないと教えています。しかしそこから何が起きるのか。
人としての倫理、会社な何のために存在するのか、といった主観の部分が抜け落ちてしまいます・・

ご指摘の通りです。マニュアル化できる部分は、できる限りマニュアル化すべきです。「私も先輩のやり方を見て、見よう見まねで覚えたから、あなたもがんばってね」という「体育会系後輩育成論」は、私の最も嫌いな流儀です。
しかし、マニュアルの限界は、明らかです。マニュアルに沿って仕事をしている人は、それを外れた事態に対処できません。そして、新しいマニュアルは、書けないのです。さらに、その仕事は何のためにやっているのかという、目的意識がなくなります。
決められた仕事をする従業員は、マニュアルに沿った仕事で良いのです。しかし、管理職やリーダーは、マニュアルにない事態が生じたときそれを処理すること、マニュアルを書き換えること、マニュアルにないことを考えることが仕事です。法律に基づいた仕事をすることと、問題が生じたので法律を書き換える仕事の違いです。「前例がありません」と言うのか、「前例がないので、こうします」というのかの違いでもあります。

避難自治体復興への取り組み方針

今日、原発事故避難12市町村を対象とした、「国の取り組み方針」を発表しました。これら自治体から、「将来像を描く際の基本となる要素(グランドデザイン)を示してほしい」との要請があり、作ったものです。
概ね10年後に向けたこの地域の復興の姿と、それに向けた国の取組姿勢を示すものです。今後、これを素案として、各自治体ごとに、国と県とも一緒になって検討を進め、施策を実施します。
放射性物質で汚染されたという困難な条件とともに、この地域の雇用を支えていた原発(3.5万人の内1万人)がなくなりそれに代わる産業を考えなければならないなど、難しい課題があります。
この地域全体で考えなければならないこととともに、地域内でも違った事情にあるので、それごとに考えなければならないこともあります。
前者は、例えば高速道路の開通に向けた作業、病院や高校など地域で共通に提供していたサービスなどがあります。
後者は、12市町村の中には、すでに帰還が始まっている地域、これから帰還が始まる地域、しばらくしてから帰還が始まる地域、そして、当分帰還できない地域があります。インフラ復旧や産業再開も、その条件によって違ってきます。他方、当分の間は帰還できない地域の住民には、住宅の提供など生活支援が必要です。

毎日忙しいのに、なぜ達成感がないのか

先日、「8月も終わりです」と、書きました。なぜ、「いつの間に、8月が過ぎたのだ」と、いうような発想になるのか。思い当たりました。それは、最近、リズムに欠ける、あるいは節目の少ない仕事の仕方をしているからです。
皆さん、今年の夏は、何をしましたか。いくつかの出来事や成果を、挙げることができるでしょう。では、手帳を見てください。手帳に、それは書いてありますか。
私が指摘したいのは、そのことです。毎日の予定は、手帳に書いてあります。「何時から会議」「何時から、誰某と会う」とか。でも、1か月かけて仕上げた仕事は、手帳には出てきません。毎日の事件を書き連ねても、1か月や1年の成果はわからないのです。
私は、若いときから、このことを不思議に思っていました。「これだ」と思いあたったのは、フェルナン・ブローデルを知ったときです。拙著「新地方自治入門-行政の現在と未来」p256「時間の枠組み」をお読みください。

小さな時間の出来事を書き連ねても、その夏の、あるいはその年の成果はわかりません。もっと、中長期的な視点が必要なのです。そして「連続して流れる時間」に、「節目」をつくる必要があります。日記では、この夏の成果や、今年の成果はわかりません。そして、毎日の忙しさと、1か月間の成果とは比例しません。また、1か月後の満足感とも比例しません。
例えば、総理の毎日の日程が、新聞に載ります。でも、それを書き連ねても、総理の業績は出てきません。さらに言うと、何をしなかったかも、わかりません。
社会人や組織では、「今年の夏に、なすべきこと」「今年中に、成し遂げるべきこと」といった「目標」を、自ら設定しなければなりません。そして、9月になったら、どこまでできたかを、評価すべきです。小学校の時は、目標設定と達成度評価は、先生と両親がしてくれました。社会人になったら、自分でするか、上司がする必要があるのです。