岡本全勝 のすべての投稿

世界の変化とアメリカのパワーの低下

久保文明ほか著『オバマ・アメリカ・世界』(2012年、NTT出版)の続きです。
・・オバマ政権の高官は、クリントン国務長官をはじめとして「スマート・パワー」ということをことさら主張しますが、これはたんにスマートなパワーの行使が規範的に望ましいということではなく、アメリカが力を効率的に行使しようとすれば、そうする以外に方策がないという認識です。それはいわば、アメリカ後の世界におけるアメリカ外交のかたちを探ろうとする試みでもあります。こうした問題意識を具体的に展開したスピーチをクリントン国務長官が行っています・・
この演説の中で、クリントンは世界は否応なしにつながってしまったことを強調し、アメリカは単独では解決できない問題群に直面していることを認めます。それは、アメリカの力の低下というよりも、直面する問題の性質の変化によるものであり、このような世界にあっては、協調行動の基盤を積極的に形成していく以外にない。クリントンは、そのような世界を「マルチパートナー世界」と呼びます。それぞれの極が対立しあうような世界とするのではなく、それぞれの極が協力して問題を解決していく世界とでも言えばよいのでしょうか。
ゲーツ前国防長官も(若干別の文脈ではありますが)アメリカにとっては「ビルディング・パートナー・キャパシティ」が非常に重要だと繰り返し述べています・・(p22)
条件の変化を認識し、これまでの戦略では通用しないことを、自ら認識する。そして、次なる戦略を立てる。当然のことですが、なかなかできることではありません。しかも、国内問題ではなく、全地球的問題についてですから。

国会答弁案作り、その3

「国会答弁案作り」の記事に、何人かの人から、批判が来ました。
Aさん(自治体職員)
「私の職場では、押し付け合いに勝利した管理職が、『できる管理職』と称されるようです・・」
Bさん(国家公務員)
「国会答弁を引き受けても、何もメリットはありません。特に各省協議が必要な場合は、面倒だし、明け方までかかるので、いやです。がんばって答弁を書いても、上司は評価してくれません・・」など。
「いやな仕事を断る上司が、良い上司」「面倒なだけで評価されない仕事なら、しない方が『賢い』公務員」。
職員から見ると、そう見えるのでしょうね。この状態を打破するには、面倒な仕事を引き受ける職員を、正当に評価することが必要だということですね。
プロ野球で、送りバントを成功させた選手を、年俸査定の際に評価するのと、同様な仕組みが必要でしょうか。

アメリカ大統領選挙、どちらが日本にとって得か

久保文明、中山俊宏、渡辺将人著『オバマ・アメリカ・世界』(2012年、NTT出版)から。この本は8月に出ているので、大統領選挙の前です。久保先生の発言です。
・・アメリカ大統領選挙の年になると、よく受ける質問がある。「民主党政権と共和党政権のどっちが日本にとって得か、教えてほしい」というものである。そして多くの場合、とくに経済界や政界の場合、共和党政権の方が日本にとってよい、あるいは日米関係は改善するという認識があるようだ・・日本では、アメリカ大統領選挙の時に、既述したようにほぼ決まって「どちらが日本にとって得か」を尋ねる傾向が強いが、それと同程度に重要なのが、日本が何をするかである。本来、日本の総選挙の際、どの政党が日米関係強化にもっとも積極的であるか、あるいはそのための良案を携えているかも、問うべきであろう。G・W・ブッシュ(子)時代に、日米関係がいい状態であった一つの理由は、日本側が既述したような貢献をしたからであるということを、忘れてはならない・・
ケネディ大統領の名言を借りれば、「アメリカが日本に何をしてくれるかを尋ねてはなりません。日本がアメリカのために何をできるかを考えてほしい」ですかね。

国会答弁案作り、その2

さて、職員が答弁案作成を嫌がるのは、次のような質問でしょう。
まず1つめは、これまでにない質問、取り組んでいない課題についての質問などです。
「これまでにも出た質問」は、前例通りに、そしてその後の進展を加味して、簡単につくることができます。これまでにない質問の場合に、困るのです。
普段にどれだけ「想像力を活かして、考えているか」が問われます。質問が出てから(それはしばしば夜になります)考えていては、間に合いません。
すると、答弁原案は、これまでのいきさつが長々とかかれ、「今後適切に対処して参りたい」という、内容のないものになります。これでは、答弁する大臣も総理も困るでしょうし、質問した議員も、腹が立つでしょう。
もう1つは、1つの課に収まらない質問が出た場合です。「それは、私の課の担当ではない」と、押し付け合いが始まります。ようやく分担が決まって、各課で作った文章を持ち寄り、足し合わせます。すると、できあがった答弁案は、各課が行っている事実が羅列された、ポイントのないものになります。これまた、大臣が満足するものにはなりません。
このような「これまでにない質問」「いくつかの課にまたがる質問」のときに、上司の力量が問われます。
各課で押し付け合いが始まる場合には、主たる責任者を決めるか、あるいは自分で執筆の方針を示します。各課に任せておいて、出てきた答弁案を見てから怒っていては、時間の無駄です。かつて岡本課長補佐が押し付け合いをしていて、局長に一喝されたことは、『明るい係長講座』に書きました。
総理の立場や大臣の立場に立って、「良い答弁案」を作ることができるのは、それら各課を統括している地位にある人です。もちろん、総括課の課長や補佐は、それを代行することができます。
しかし、これまでにないことを聞かれた場合は、責任者と方針を決めてからでないと、書けません。それは、局長や統括官の仕事です。中には、私だけでは決めることができない場合もあります。その場合は、2つの案を作って、翌朝に大臣に相談することもあります。
多くの府省おいて、答弁案作成は、課長(参事官)が責任者です。課長補佐や係長が原案を書いて、課長が手を入れ、局長(統括官)に上がってきます。しかし、いくつかの課にまたがる質問、これまでにない質問にあっては、上司が早々と「出て行く」必要があるのです。
もちろん、部下の教育を優先して、できの悪い答弁案が出てくるのを待ってから、指導する方法もあります。しかし、それは、労力と時間の無駄だと、私は考えています。
みんなが気持ちよく仕事ができて、早く帰ることができて、かつ大臣も満足する案を作る。そのためには、どうしたらよいか。
そこで、国会開会中は、私は毎日夕方に国会班のところに行って、「私が書く質問はないか?」と御用聞きに行くのです。早く寝るために。

国会答弁案作り

今日、国会が解散されました。国会答弁案作りも、しばらく休業です。国会班の皆さん、ご苦労様でした。さて、いつかこのホームページに載せようと、下書きしてあった文章を載せましょう。
国会での質問が出たとき、答弁案の作成をいやがる職員がいます。私には、理解しにくいことです。
私は、国会答弁案の作成が、大好きです。審議が予定されている前日の午後には、国会班のところに顔を出して、「質問はまだ出ないの?」と催促します。
まず、質問が出ることが、うれしいです。私たちが取り組んでいる仕事に、国会が興味を持っているのです。
私たちの仕事は、「人知れず、ひっそりと」「世間を離れて、秘密裏に」という仕事ではありません。日本社会を相手にしているのですから、国民や世間の人にわかってもらって「なんぼ」です。取り上げてもらうということは、私たちの仕事が、それだけ認知されているということです。
かつて課長補佐の時に、「国会質問の数に応じて、各課に職員と予算を配分すべきだ」と、極端な主張をしていました(苦笑)。
もちろん、国会質問は、ほめていただくことは少なく、お叱りを受けることの方が多いです。そこはつらいですが、私たちがやっていることが誤解されているなら、訂正できる良い機会です。
もし、議員の指摘が正しければ、是正する良い機会です。変更や改革をいやがる関係者に対して、「いや~、国会でも指摘されまして。是正しておかないと、次の国会でもたないのですわ・・」と、説得できます。
また、夜遅くに質問が出てきたり、どの省庁が書くのか割り振りでもめて深夜になることを考えれば、早く質問が分かって、早く書いて寝る方がうれしいです。
この項続く。