朝日新聞11月17日オピニオン欄「見過ごされてきたもの」、渡部恒雄・笹川平和財団研究員の発言から。
・・・今回、重要な役割を果たしたのは白人中心の「忘れられた層」でした。所得層の最下層は今回も過半数はクリントン氏に投票していますが、その上の中流の過半数がトランプ氏を支持した。彼らは「現在の不満」と「将来への不安」を抱えていました。
ニクソン、レーガン、ブッシュ親子というこの半世紀の共和党政権は、この層を取り込んできましたが、実際に不満や不安を取り除く有効な政策を何もやってきませんでした。彼らは共和党主流派には希望を託せないことも肌で感じ取っていました。そこにトランプ氏という門外漢が出てきて、共和党の主流派にも矛先を向けた。「どんな政治をするのか分からない」というリスクは、この層も分かっていましたが、むしろ「旧来の共和党とは違う変化をもたらす」可能性に賭けたのでしょう・・・
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真実をつかんだトランプ候補
朝日新聞11月17日オピニオン欄「見過ごされてきたもの」、エマニュエル・トッドさんの「真実語っていたトランプ氏」から。
・・・歴史家として見るなら、起きたのは当然のことです。ここ15年間、米国人の生活水準が下がり、白人の45歳から54歳の層の死亡率が上がりました。で、白人は有権者の4分の3です。
自由貿易と移民が、世界中の働き手を競争に放り込み、不平等と停滞をもたらした、と人々は理解し、その二つを問題にする候補を選んだ。有権者は理にかなったふるまいをしたのです。
奇妙なのはみんなが驚いていること。本当の疑問は「上流階級やメディア、大学人には、なぜ現実が見えていなかったのか」です。
選挙戦では、候補個人について多くのうその応酬がありました。しかし、社会について語る場面では、真実を口にしていたのはトランプ氏の方でした。
彼は「米国はうまくいっていない」と言いました。ほんとうのことです。「米国はもはや世界から尊敬されていない」とも言いました。彼は同盟国がもうついてこなくなっている事実を見ています。そこでも真実を語ったのです・・・
トランプ大統領、「アメリカの強さ」意味の違い
日経新聞電子版11月11日、ファイナンシャルタイムス提携記事「トランプ氏の「米国第一」、退廃と衰退の始まり」から。
・・・ケネディのビジョンの寛大さと広大さ、力強さはトランプ氏の宣言――我々の計画は米国が最優先となり、グローバリズムではなくアメリカニズムが信条となる――の狭量な国家主義との悲しいコントラストを描く。この2つのビジョンの違いは計り知れないほど大きく、不吉だ。米国の戦後世代が世界中の自由を守ると固く誓うようになったのは、理想主義からだけではなかった。ケネディが述べたように、この世代は「戦争によって鍛えられ、つらく苦い平和によって自制心を培った」。トランプ氏に投票した世代と好対照を成す。すなわちファストフードによって太らされ、テレビのリアリティー番組によって幼稚化された世代だ。
ケネディ世代は大恐慌と第2次世界大戦から厳しい教訓を学んだ。あの世代は「アメリカ・ファースト(米国第一)」――米国を広い世界の問題から隔絶しようとする政策――が最終的に、経済と政治の大惨事につながったことを知っている。だから1945年以降、共和党、民主党双方の新世代の指導者たちは世界のために経済と安全保障の構造を築いた。米国のリーダーシップと、北大西洋条約機構(NATO)、国連、世界銀行といった国際機関、同盟関係を軸とする構造である・・・
・・・中東での戦争にへきえきし、国際貿易が国内経済に問題を引き起こしていると説得されているようにみえる国では、「米国第一」政策に誘惑されるのは無理もない。米国には、経済を支えるだけの巨大な国内市場があり、国の安全も大西洋、太平洋という2つの大海で守られている。だが、もし世界から身を引けば、米国はやがて、今より貧しくなり落ちぶれるだろう。そして1930年代と同じように、最後には米国自体の安全と繁栄も、国際貿易の崩壊と権威主義者の復活に脅かされることになる公算が大きい・・・
原文をお読みください。
トランプ氏勝利、クリントン候補と共和党の敗北
11月10日の朝日新聞オピニオン欄「トランプ大統領の衝撃」、久保文明・東大教授の発言から。
・・・その白人中間層が「とにかく現状を変えてくれ」というギャンブルに近い思いを込めた票が、トランプ氏に結集したのでしょう。
逆に、元大統領夫人であり、上院議員や国務長官を経験したクリントン氏は、既存の政治を嫌い、変化を求める有権者の流れに押しつぶされてしまいました。
ある意味、敗者はクリントン氏と民主党だけではありません。自由貿易、国際主義を掲げ、国際秩序を支える立場の政党だった共和党は見る影もありません。トランプ氏という反自由貿易主義、孤立主義でアメリカ第一主義の前に、これまでの共和党主流派は敗れ去りました。明らかに共和党の政策の限界を示すものでしょう・・・
・・・クリントン氏が民主党の予備選でサンダース氏に苦戦した通り、全体として、米国のエリートが米国政治の方向性をコントロールする力がだいぶ弱くなっているのかも知れません。これは英国でもそうでしょう。欧州連合(EU)からの離脱を決めた「ブレグジット」がそうでした。また、トランプ氏がこの選挙戦を通じて行ったことは有権者の不満に火をつけることで、人種や民族などの集団間の対立、分断を促進することでした。これから米国のリーダーとして、分断、対立ではなく、融合と統合を行えるのか、集団と集団を隔てる壁ではなく、架橋になることができるかが重要です・・・(2016年11月10日)
アメリカ社会と政治、大統領の限界
アメリカ大統領選挙は、接戦の末、トランプ氏に決まったようです。
渡辺将人著『アメリカ政治の壁―利益と理念の狭間で』(2016年、岩波新書)が、勉強になりました(かなり前に読んでいたのですが、ここに書くのを怠っていました。何事も、思い立ったときに、しておかなければなりませんね。反省)。著者は、マスコミ記者やアメリカでの政治事務所での経験をもつ、北海道大学准教授です。
8年前、熱狂的に迎えられたオバマ大統領が、なぜ思うような政治ができなかったか。その政治・社会的背景が描かれています。
分析視角として、民主党と共和党との対立や、大統領より強い議会という構造だけでなく、その対立をさらに複雑にする社会の分裂を指摘します。一つの補助線は、「利益の民主主義」と「理念の民主主義」です。これが、宗教、マイノリティー、経済・貿易などの争点で、支持政党とは違う分裂を生んでいます。オバマ大統領の敵は、共和党ではなく、民主党内にいるのです。新書という分量に、わかりやすく書かれています。是非、本をお読みください。
新しいアメリカ大統領もまた、国民の政治的意識の分裂の中で、難しい舵取りを迫られます。自らの主張を実現しようとすると、法案を議会で成立させる必要があり、その議員たちは有権者の意向を無視できません。
オバマ大統領が、1期目に早々と求心力を失う模様は、ボブ・ウッドワード著『政治の代償』(邦訳2013年、日本経済新聞出版社)が生々しく描いています。
ところで、かつて日本では、決められない政治を打破するために、大統領制にすべきという主張もありました。しかし、構造的には、衆議院が必ず与党優位になる議院内閣制の方が、大統領の与党が必ずしも議会で優位にならない大統領制より、強いはずなのです。現に、今やアメリカより日本の政治の方が「決めることができる」政治になっています。
さて、海の向こうの大国の政治も重要ですが、我が日本の政治はどうか。利益と理念の政治はどう対立し絡み合っているか。考えさせられます。
社会の亀裂の状況が、日本とアメリカでは大きく違います。アメリカでは「全員がマイノリティなのです」という指摘があります。日本ではかつて、「単一民族、一億層中流」という説明が受け入れられていました。しかし、そのような時代は過ぎ、正規非正規、子どもの貧困といった「亀裂」が大きな課題になっています。それを、政治・政党がどう拾い上げるか。その役割の差もあります。(2016年11月9日)