カテゴリーアーカイブ:政治の役割

キッシンジャー著『国際秩序』

2017年1月4日   岡本全勝

キッシンジャー著『国際秩序』(2016年、日本経済新聞出版社)を、お勧めします。
第2次大戦後の国際秩序が揺らいでいます。それは、主権国家による調整であり、戦争を回避し、貿易の自由化を進めるというものでした。米ソ対立を抱えつつ、いくつもの地域紛争を引き起こしましたが、これまでの時代に比べ比較的安定した時代を持つことができました。主要国家間では、大きな戦争はなかったのです。
キッシンジャー博士は、現在の世界秩序の基礎を、1648年のウエストファリア体制に求めます。ここで、国際関係が、主権国家を単位に行われることが確立したのです。ナポレオン、ヒットラー、ソ連共産主義などがこの秩序に挑戦しましたが、結局、この体制に戻っています。
正義や信仰を問うことなく、主権国家間の均衡を保つ=秩序を維持する。それがウエストファリア体制のミソです。戦争や条約、国際機関などの取り決めも、主権国家が単位になっています。従わない国は、アメリカを中心とした国々が「制裁」を加えたのです。そして、WTOなどの国際取り決めやEUは、主権国家の権限をさらに国際機関に委ねる方向に進んでいました。

国際社会は、力で解決する「戦国時代の日本のような状態」から、「武力統一された統治」へと進んでいると思われていました。しかし、宗教や民族の対立抗争が激しくなり、テロも激化しています。アメリカを中心とした国家による「警察行為」「抑制」が、利かなくなっています。そもそも、国内を統治できていない(刀狩りが終わっていない)国家・地域もたくさんあります。よく見ると、「安定した国際秩序」ではなく、「覆い隠されていた不安定な国際関係」だったのです。現在の世界秩序が不変のものではないこと、世界政府へ単線的に進まないことが見えただけなく、それどころか不安定になり、どのような秩序・世界関係が生まれるのか不明なのです。
本書は、世界を鳥瞰し、不安定要因を分析しています。ロシア、イスラム、イラン、中東、中国、そしてアメリカの引きこもり、核・テロ・サイバー。さすが、キッシンジャー博士の著です。1923年生まれ、90歳を超えてこれだけの本を書かれるのですね。
私は高校生でしたが、米中国交回復をお膳立てされたことに、感銘を受けました。どうしたらそのような発想ができ、大統領の信頼を得ながら秘密交渉ができるのか。著書の『外交』も名著です。世界の歴史が神様が作るものでもなく、自然と流れでできるものでもなく、人間が作るものだと考えさせられます。

残念なのは、翻訳におやっ?と思う「日本語として通じないか所」があることです。原書に当たれば、すぐに分かることなのですが。ほかの本を読むのが忙しく・・・。

林・前駐英大使の新著

2016年12月28日   岡本全勝

林景一・前駐英大使が、『イギリスは明日もしたたか』(2016年、悟空出版)を出版されました。
イギリスは、今年6月の国民投票で、EUからの離脱を決めました。今年の驚きの国際ニュースの一つでしょう。もう一つは、トランプ大統領候補の当選です。
林大使は、2011年から今年まで、5年間にわたって駐英大使を務められました。その視点からの分析です。イギリスのEU離脱の意味、なぜそうなったか、イギリス人はどう考えているか、この後どのようになるのかといった、イギリスのこれまでとこれからのほか、現在の国際関係が鳥瞰されています。アメリカ、ドイツ、ロシア、中国など。

イギリスの国民投票とトランプ候補の当選は、事前予想を裏切る結果で、識者には大きな驚きです。その共通の原因として、国民の国際化への反発、移民への反発、エリートへの反発などが挙げられていますが、イギリスとアメリカでは、意味合いがかなり違うようです。イギリスでは、必ずしも国際化への反発ではなく、EUによって「主権が侵される」ことへの反発が大きいようです。もともと、統一通貨ユーロには入っていないのです。
この本は、話し口調で書かれているので、読みやすくわかりやすいです。しかし、世界を見渡しかつ歴史から説き明かす内容は、深いものがあります。著者の学識ならではです。紀伊国屋新宿本店でも、新書のコーナーに平積みされていました。

私が総理秘書官を勤めていたとき、林先輩は内閣官房副長官補(外政担当)で、ご指導をいただきました。私の帽子のお師匠さんでもあります。イギリス紳士然として、格好良いのです。ちなみに、本の帯に顔写真が写っています(帽子はかぶっておられません)が、「福島民報社提供」とあります。イギリスのウイリアム王子が福島を訪問されたときに、同行されたときの写真でしょうかね。

明治維新の意義、北岡伸一先生。2

2016年12月17日   岡本全勝

北岡伸一・JICA理事長の「明治維新150年、開国と民主的変革に意義」の続きです。
・・・日本は戦前とは違って、軍事大国ではないし、経済大国としても一時のような勢いはない。しかし、このように先進国への道を歩み、伝統と近代を両立させてきたことでは、世界に並ぶ国はない。
こうした経験を、その過程における失敗の数々とともに、世界と共有することが、日本が世界に最も貢献できる点だと思う。
日本は、政府開発援助(ODA)でも、最も成功した国である。1950年代においては、西欧諸国が援助の対象としたサハラ以南のアフリカ諸国と、日本が援助の対象とした(日本以外の)東アジア諸国の経済水準は、ほぼ同じだった。現在、両者の間には、巨大な差がついている。
その原因の一つは、日本のODAだったと言っても、それほど誇張ではない。
現在、世界の大学、大学院で開発学(development studies)の本場はイギリスだということになっている。しかし、本場は日本であるべきだ。日本を開発学の本場として、世界に貢献することが、日本の義務ではないだろうか・・・

明治時代の意義、北岡伸一先生

2016年12月16日   岡本全勝

12月11日の読売新聞1面「地球を読む」は、北岡伸一・JICA理事長の「明治維新150年、開国と民主的変革に意義」でした。
・・・大正元年(1912年)9月、若き日の石橋湛山は、明治時代について次のように述べている。多くの人は、明治時代を戦争と植民地の拡大の時代だったと見るだろう。しかし自分はそうは考えない。国民は軍事費の負担にあえいでいるし、これらの戦争は、時勢上やむを得ず行ったものだ。その成果は一次的なものであって、時勢が変わればその意義を失ってしまう。
そして石橋は、明治時代の最大の事業は、戦争の勝利や植民地の発展ではなく、「政治、法律、社会の万般の制度および思想に、デモクラチックの改革を行ったことにある」(『東洋時論』「評論」)と述べる。私は石橋の議論に強く共感する・・・

・・・私は国連大使として国連で世界の紛争に関する議論に参加し、また国際協力機構(JICA)理事長として、途上国の発展に関わっている。その度に痛感させられることは途上国の発展の難しさである。
紛争を起こさず、あるいは収束させ、国家的統合を維持し、経済的、社会的、政治的に発展していくことがいかに難しいか。経済発展はできても、そこから民主主義へと発展していくのは極めて難しい。
したがって、多くの途上国にとって、非西洋から先進国になり、自由、民主主義、法の支配といった近代的諸価値と伝統を両立させている日本という国は、まぶしいようなすごい国なのである・・・

最高裁判所の違憲判断を支えるもの

2016年12月12日   岡本全勝

12月2日朝日新聞オピニオン欄「憲法の価値を守るもの」、見平典・京都大学准教授の発言から。日本の最高裁判所が、アメリカなどと比べて、違憲判断に消極的だったことについて。
・・・二つめが「規範的資源」です。積極的な違憲審査の根拠となるような、法理論、判例、司法の果たすべき役割に関する共通理解がどの程度存在しているか、ということです。日本では米国と比較して司法が議論の分かれる社会問題の解決にどの程度踏み込むべきかについて狭く理解されてきました。
三つめが「政治的資源」です。最高裁が違憲判決を下したときに最高裁を政治的攻撃から守る政治勢力のことです。米国では法曹集団や訴訟団体、公益団体が裁判所を支えてきました。政治指導者も、連邦と州が対立した時や立法による政策実現が困難な場合などに、しばしば積極的司法を支持してきました。しかし、日本ではこうした基盤が欠けていました。
近年、婚外子の相続分規定や投票価値の格差に関する判決にみられるように、最高裁は従来より積極的に違憲審査に取り組んでいます。司法制度改革で立法・行政に対する司法のチェック機能の強化に政治的正統性が付与されたことや、裁判官・調査官の世代交代と努力が背景にあるとみられます・・・
原文をお読みください。

この記事は、12月11日に書いています。新しいホームページ作成ソフトには、「公開予約機能」がついているので、12日17時半過ぎに公開するように設定しました。「土日の投稿が多いですね」との、読者の意見があります。時間があるときに書くので、どうしても休日の執筆が多くなります。そこで日曜に書いて、公開日をずらしました。うまく行くかな?