カテゴリーアーカイブ:政治の役割

ヨーロッパ、政治の両極化

2018年12月19日   岡本全勝

12月8日の朝日新聞オピニオン欄「蒸発する欧州の中道」。詳しくは、原文をお読みください。

イギリスの社会学者アンソニー・ギデンズ氏の発言から。
・・・欧州の中道左派の政治理念は、既存の政府機関と協力しながら、富の再配分や福祉政策を重視して、より人道的な政策にしていく考え方に基づくものです。1990年代から20年、欧米で大きな成功を収めてきた中道左派勢力ですが、いまや蒸発しつつあります。

デジタル革命が起きていることが最大の理由です。産業革命よりも急速かつ地球規模で広がり、個人生活を含めてあらゆるものに本質的な変化が起きている。通貨の大半は電子マネーになった。製造業は海外移転によって急速に衰退した。ドイツ車の製造工場では自動化されたロボットが車を造っています。英国でいま製造業に従事しているのは全人口の8%、農業は1%に過ぎない。残る大半の人はサービス業に従事しています。

ツイッターなどSNSを通じて直接民主主義的な動きが広がったことも極めて注目すべき点です。トランプ米大統領がどれだけツイッターを使っているか。デジタル的な直接民主主義の広がりで、旧来型の民主主義の手続きが回避されるようになった。高齢者や貧困層が変化に取り残されて社会への帰属意識が失われ、国の行く末が見えなくなっている・・・。

・・・旧来の社会民主主義的な考えを持つ人たちが「不平等を減らそう」と言って、グローバル資本によって生み出された不平等に立ち向かおうとしても非常に難しい。国家にもはやそのような力は備わっていないからです。現代の政治が抱えているジレンマの多くがここにあります・・・

ベルリン自由大学研究員クリストフ・ニューエン氏の発言から。
・・・一方で、中道の政治システムは、左右の中道政党が経済の基本政策で一致しています。このため連立の有無にかかわらず、有権者には政策を選ぶ余地がほとんどありません。有権者にすればCDUに入れても、中道左派の社会民主党(SPD)に入れても、実施される政策はあまり変わらないことになる。「新たな中道」を掲げたSPDのシュレーダー政権(98~2005年)は、市場経済を擁護しながら、弱者も保護する政策を目指しました。経済は潤ったが、弱者たちは十分に保護されたとは感じなかった。こういう有権者をどう取り込むかは、CDU、SPD双方の課題となってきました・・・

・・・根本的な問題とは何か。これまで労働者ならSPD、比較的裕福で保守的な有権者はCDUに投票してきた。ところが産業構造の変化で、多くの人は自分が労働者階級だと感じなくなりました。同じ企業内でも高い給与を得る正社員と、不安定な派遣労働者がいるからです。人々は経済的な格差より、移民や同性婚の是非など社会的な価値観をより重視するようになってきた。富の再分配に賛成し、経済的にはリベラルな志向を持つ労働者が、移民受け入れや同性婚に賛成とは限りません。

「経済格差」問題を軸に対応してきた大政党は、「社会的価値観」という新たな対立軸に対応しきれていません。もし私が移民に反対なら、新興右翼政党AfD(ドイツのための選択肢)に、開かれた社会を望むなら「緑の党」に入れるでしょう。有権者の関心に応じて政党が分裂すれば、自分の意見が反映されると、より多くの人が感じるかもしれません。でも、次の段階でその少数政党が連立政権をつくるには、政策の妥協が必要です。人々は再び不満を感じることになります・・・

国会による行政の監視

2018年12月18日   岡本全勝

12月17日の朝日新聞、国分高史・編集委員の「国会空洞化、「新たな専制」へ道」に、興味深い指摘があります。通常、法律で基本的な事項を定め、詳細は政省令に委ねることが多いです。しかし、単純に政省令に委ねるのではなく、国会がそれを監視するのです。

・・・法で大枠を定め、詳細は政府が定める政省令に委ねる政策が増えているのは各国に共通の傾向だ。ただ、欧米では議会が政省令を審査し、不適切と判断すれば拒否できる制度がある。一般に「議会拒否権」と呼ばれている・・・

・・・この制度に詳しい田中祥貴・桃山学院大教授(憲法)によると、その仕組みや経緯は次のようなものだ。
例えば、改正入管法には外国人労働者の受け入れ業種などを含め「法務省令で定める」との記述が約30カ所もある。議会拒否権制度のもとでは、法の根幹にかかわる政省令を発効させるには議会の承認が必要だとあらかじめ条文に書き込んでおく。重要度が低い政省令は、一定期間内に議会が否決しなければ自動的に発効を認める。

なぜこんな制度があるのか。英国では20世紀初頭から政府が定める政省令が急激に増加。これに伴う政府の権限拡大は議会制民主主義を形骸化させ、政府による「新たな専制」につながりかねないとの警戒感が議会に強まった。議会がこれを克服する工夫を重ね、第2次大戦後に制度として確立したという。

「改正法の関連省令を国会で審査するのは一歩前進だ。ただ、日本社会のありようや外国人労働者の人権にかかわる重要法であることを考えれば、省令を成立・発効させるには国会承認を要件とするなど、もう一歩踏み込むべきだった」と田中教授は話す・・・

『公卿会議』

2018年12月16日   岡本全勝

美川圭著『公卿会議―論戦する宮廷貴族たち』(2018年、中公新書)を読みました。平安貴族たちが、どのように議論をし、国政を動かしていたかです。

天皇制、律令国家の時代です。建前は律令に従い、天皇が決裁します。三権が分立していませんから、立法・行政・司法のすべてを所管します。もちろん重要な案件は、徴税であり、治安であり、貴族たちの昇任です。
しかし、日本の天皇制は多くの場合、天皇独裁ではなく、その部下たちがおおむね決めて、天皇が裁可します。法皇が権力を持つ場合もあります。
すると、その部下たちと天皇との力関係、さらには部下の中での権力の所在が問題になります。摂政・関白が大きな力を持つのか、この本で取り上げられた公卿会議が機能するのか。そして、武家が入ってきます。

その力関係の変化が、解説されています。千年も前の資料が、よく残っていたものです。欲を言えば、具体の会議の内容を知りたかったです。ある案件を取り上げて、どのように会議が進められたかです。もっとも、資料の制約があります。

誰が、何を、どのようにして、決めているか。これは、政治学や歴史学の大きなテーマです。
現在の日本では、日本国憲法に従い、国会が国権の最高機関です。しかし、国会議事録を読んでも、実際の政策の決定過程はわかりません。また、閣議が内閣の決定の場ですが、この記録を見ても、現実の政策決定過程はわかりません。
会議の多くも、そうでしょう。議事録を見ても、誰がその課題を議題に載せたか、事前にどのような調整がされたのか、誰の意見が通ったのかは、わからないのです。会議に載らなかった重要案件も、大きな意味をもちます。
制度と運営の実態は、別物です。

倒産防止かゾンビ企業延命策か

2018年12月11日   岡本全勝

12月9日の朝日新聞連載「平成経済 リーマンの衝撃12」「大変革迫られた中小企業」から。

・・・政府は中小の倒産を防ぐために、手厚い政策をとった。その一つが、2009年に施行した中小や住宅ローン利用者の借金の返済猶予を促す「中小企業金融円滑化法」だ。中小からの求めがあれば、貸し付け条件の変更に応じるよう金融機関に求めた。13年までの間、約30万~40万社が貸し付け条件の変更などをしたとされ、全国の中小の約1割にあたる。

「運転資金としてお金を借りるのは初めての経験。『禁断の実』に手をつける気持ちやった」。工作機械や航空機部品をつくる「大阪工作所」(東大阪市)の高田克己会長(74)は振り返る。1億5千万円の機械を購入できるほど業績は安定していたが、リーマン後は赤字続きで、金融機関から約1億円を借り入れた。「国に助けてもらえなければ、消えていたかもしれない」。新入社員の採用を再開するなど、経営は軌道にのりつつある。

08~09年に1万5千件を超えた倒産件数は、17年には8400件まで減った。円滑化法の効果があったとされる一方で、政府が技術力もない中小を延命させたという「ゾンビ企業」批判もつきまとった。
関西の中小企業団体幹部は「企業数が温存され、業界によっては消耗戦が続く。力のある企業の競争力を奪っており、ゾンビ企業が残った弊害だ」と指摘する・・・

難しいところです。各種の政策には、副作用もあります。それは、薬も同じです。その際に、どれだけ副作用を小さくするかが、課題になります。
また、緊急時は、副作用を知りつつ、強行する必要がある場合もあります。しかし、平時になっても、緊急時と同じことをしていると、批判が出ます。
アダム・スミスの時代のように、経済や産業に国家が介入しない時代なら、こんな問題は生じなかったのですが。国家と経済の関係、国がどこまで介入するかは、永遠の課題です。

税金を逃れる国民

2018年12月7日   岡本全勝

日経新聞12月5日のオピニオン欄、The Economistの翻訳「中国、所得課税強化の皮算用」から。
「「もちろん払っていませんよ。私はバカじゃありませんから」。個人所得税を納めたことがあるかと聞かれて、北京の運転手リュウ・ヨンリ氏(仮名)はこう答えた。同氏の所得は納税が免除される水準を大きく超えているが、税逃れをしていてもとがめられたことはない、としゃあしゃあと語った」という書き出しです。

・・・中国の昨年の全税収に占める個人所得税収は、わずか8%にとどまった。彼のような強い思い込みをしている人が少なくないことがその一因かもしれない。ちなみに一定規模の経済国家のグループである経済協力開発機構(OECD)加盟国における個人所得税収の全税収に占める比率の平均は24%だ。

中国財政省の推計では、個人所得税を納めるべき国民は1億8700万人に上る。だが2015年に実際に個人所得税を納めたのは2800万人と全人口の2%にすぎないと財政省のある元職員は言う。中国政府は現在、中国共産党機関紙「人民日報」によれば歴史的に「最も抜本的」な個人所得税改革を進めている。だが、その抜本改革は理論的には税収基盤を拡大するのではなく、縮小するものだ。

10月1日から所得税の課税最低限を月収3500元(約5万7000円)から5000元に引き上げたのだ。この結果、財政省は課税対象者が6400万人に減ると見込んでいる。その一方で、財政省は、納税義務が生じる国民には確実に納税させる決意を固めているようだ。政府のこの方針転換は、政治的に極めて大きな意味を持つ可能性がある・・・