カテゴリー別アーカイブ: 政治の役割

行政-政治の役割

繋がり失われ根なし草、民主主義の危機

8月23日の読売新聞、宇野重規・東大教授の「民主主義って本当は楽しい」から。

・・・世界的な選挙イヤーの今年、大きな変化が起きている。英国では14年ぶりに政権交代し、米国では現職のバイデン氏が大統領選から撤退した。そして、日本では岸田首相が自民党総裁選に不出馬を表明し、来月の総裁選は 混沌こんとん としている。現職の相次ぐ退陣で政治に新しい風は吹くのか。民主主義研究で知られる東京大学の宇野重規教授(57)に聞いた・・・

宇野  大国でなぜ、この2人しか候補者がいないのか。日本でもなかなか清新な政治家が登場せず、民主主義は大丈夫かがテーマでしたね・・・
・・・候補者難の背景には政党の機能不全があります。支持基盤である組織が融解し、政党の顔としてふさわしい候補者を育てる能力、有権者に売り込むプロモーション能力が失われているからです。

――政治不信から、首相が退陣表明した日本も同じ?
宇野  はい。今、自分の 拠よ り所になる組織や団体に所属する人がどれくらいいるでしょう。人との 繋つな がりが失われ、人々は根なし草のようです。それが政治への無関心を広げ、米国の一部では、選挙結果を認めないという民主制への憎悪まで生んでいる。

――宇野さんが研究する仏の政治思想家トクヴィル(1805~59年)は『アメリカのデモクラシー』で、代議制より、自分たちでやれることは自分たちで決め、責任をとる自治の精神を重視しました。彼が今の日本を見たら……。
宇野  民主主義はないと言うかもしれません。地域組織は崩壊寸前。労組加入率も低く、盛んだった小学校の学区単位の活動も衰えている。

――外で遊ぶ子どもの声がうるさいとされる時代です。
宇野  結婚し、子を持つ家庭は勝ち組として反感の対象にすらなる。しかも、どの組織でも非正規の比率が高くなり、帰属意識が低い。これは東大などの大学も同じです。
「あなたの声で社会を変えよう」と言われ、何年かに1度投票しても、選挙が終われば忘れられる。それでは民主主義に失望するはずです。

――読売新聞の7月の世論調査では無党派層が54%と半数以上になっています。
宇野  しがらみのない社会こそ個人の自由と思われてきたのに、気がついてみたら社会から孤立した人ばかり。

酷暑対策補助金の不十分な説明

8月15日の朝日新聞夕刊、三浦惇平記者の「(取材考記)説明ちぐはぐ 補助金再開、理由は酷暑だけ?」から。

・・・政府が「酷暑乗り切り緊急支援」と称して、電気・ガス料金の補助を再開させた。岸田文雄首相自らが記者会見で表明した肝いりの政策だ。ただ、急ごしらえ感は否めず、「酷暑対策」は後づけにも映る。

補助は、8~10月使用分が対象だ。8月は標準世帯の使用量だと、電気(400キロワット時)が1600円、ガス(30立方メートル)が500円ほど安くなる。
首相と側近議員が主導して決めたとされ、場当たり的で「バラマキ政策」との見方も出た。いったんやめた補助を復活させることに、制度を所管する経済産業省は、妥当性を示すのに苦心したようだ。それは、ちぐはぐな説明にも表れていた。

補助はもともと、ロシアのウクライナ侵攻に伴う燃料の高騰を受けた対策として2023年1月に始まった。ただ、燃料価格が落ち着いたとして、今年5月に打ち切った。斎藤健経産相は「予期せぬ国際情勢の変化などにより国民生活への影響を回避するため緊急対応が必要になった場合」に再開を検討するとした。
だが首相が再開を決めたのは、その1カ月後。とても「予期せぬ国際情勢の変化」が起きたとは言いがたい。一方、斎藤氏は以前の対策とは目的が違うとして、「再開ではない」と主張するが、補助の仕組みも予算枠も同じだ。

首相が言う「酷暑対策」だとしても、疑問が残る。
今年は7月から全国各地で猛暑日が相次いだが、支援が始まったのは8月から。都市ガスも対象とすることにも、違和感がある。経産省の担当者は、ガスの冷房を使う商業施設があることを理由として挙げるが、家庭向けは夏場に需要が減るからだ・・・

首相を目指すには志と参謀が必要

8月20日の朝日新聞オピニオン欄「去る首相、逆風の自民は」、久米晃・元自民党事務局長の「志も参謀も欠き、不信拭えるか」から。

――岸田内閣の支持率が持ち直すことができなかったのはなぜですか。
「岸田さんは悪い人ではないです。しかし『諸課題に取り組んで結果を出す』と繰り返し言うばかりで、結果をまったく出していないと多くの国民は受け止めています。派閥の裏金問題でも中途半端なことしかやっていないので、政治不信が相当に高まりました」
「政治不信というのは、実は政治家不信なんです。政治というシステムへの不信ではなく、政治家に対する不信です。そもそも日本では、多くの人が政党に対して投票するのではなく、政治家という人間、個人に投票をするのです。岸田首相がしっかりと発信し、国民の不満や不安をしっかりと減らすような結果を出していれば、こうはならなかったわけです」

――政治不信の責任は岸田首相にあると。
「それが政治家たる首相の責任ですよ。この国でずっと投票率が下がっているのも、政治家に対する不信が続いている表れじゃないですか」

(総裁候補への心配について)
「岸田首相の次の総裁を目指す人とも実際に意見交換をしていますが、皆共通して自分を支える参謀たちが不在です。それが実は岸田政権にとっても最大の問題点でした」
「かつての自民党のリーダーには竹下登元首相を支えた『竹下派七奉行』だとか、安倍晋三元首相のお父さんの晋太郎さんを首相にしようとしていた『安倍派四天王』のような参謀のグループがありました。政策を練りあげるだけではなく、落としどころをさぐって政治の流れをつくる人もいました。いま岸田首相を含め、しっかりとした参謀グループを持っている政治家は残念ながらいません」

――政治家の質が変わっているのでしょうか。
問題となった裏金をもらうために集まっているような派閥ではなく、そのリーダーを首相にするために政治家が集まってくるような集団が派閥でした。また明治期や戦後、つい最近まで、どのような経歴を経て、何を実現させたくて政治を志したのかといった『個人の物語』を持った政治家がいました。世襲政治家が多いこともあり、国民に広く共感されるような物語をもった政治家はなかなか見つかりません」

――総裁選には期待できないでしょうか。
「まだ時間はあります。ただ、『選挙の顔』として一時的に衆院選で勝てるかどうかだけではなく、国民の不満や不安を取り除き、危機に対応できる政治家だということを訴えてほしいと思います。いま総裁選は事実上、内閣総理大臣を選ぶ選挙でもあるからです。南海トラフ地震などの自然災害、ウクライナでの戦争で浮き彫りになったこの国のさまざまな弱点や問題点、異次元の少子化など、国民の間にはもう長きにわたって不信や不安が積み重なっています。政治家にとって一番重要なことは、危機に対する対処をすることと、将来に対する展望を示すことです」
「総裁選で国民に『私ならこの問題に対してこうやります』ということを具体的に示してほしいのです。国民がそれに納得すれば、その人が自民党の総裁になり、首相になる。逆にそうした人が出てこないのであれば、自民党の再生はできないでしょう。そして野党を含め、政界の人材不足はとても深刻です」

財政を平時に戻せ

8月9日の日経新聞経済教室は、井堀利宏教授の「財政健全化、将来世代へのツケは最低限に」でした。原文をお読みください。

・・・経済社会がコロナ危機の非常時から脱して、平時の経済状態に戻っているにもかかわらず、また欧米ではインフレ抑制のために財政・金融の両面から引き締め政策が実施されているにもかかわらず、日本では相変わらず非常時という名目で積極財政派の圧力が強い。
岸田文雄政権は、1年限りの減税(1人4万円の定額減税)を6月から実施した。さらに岸田首相は通常国会会期末の記者会見で突如、8~10月に電気・ガス料金の補助金を復活させるとともに、年金世帯や低所得世帯への給付金支給を検討すると表明した。コロナ危機を契機として財政規律が緩んだままの政治環境の中で、苦し紛れのばらまき政策を模索している・・・

人権の再発見

最近、基本的人権を考える事例が相次いでいます。
一つは、旧優生保護法で不妊手術を強制されたのは憲法違反だとして、被害者らが国に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁判所が同法を違憲と判断し、国に賠償を命じたことです。この基本的人権侵害は、半世紀も続いていました。同様の事例では、ハンセン病患者が、旧らい予防法による強制隔離について国を訴え、国が受け入れた件があります。(日経新聞8月5日、大林尚編集委員「苛烈な人権侵害に向き合う 強制不妊、責任あなたにも」)

もう一つは、性的少数者の権利を認めるいくつかの判決と、自治体などでの対応の変化です。(朝日新聞8月5日、遠藤隆史記者「記者解説 性的少数者の権利と司法 不利益正す判断続く、社会の変化影響」)
・・・性的少数者の権利を後押しする司法判断が相次いでいる。
日本に限らず、世界中で「男・女」の二分論と異性愛を前提とする社会制度がつくられてきた。その枠組みからはじかれた人たちが、当たり前のように扱われてきた制度を裁判で問い直している。
そして、裁判所の判断はケース・バイ・ケースながら、おおむね前向きに応じるようになっている。最近の司法の動きからは、そんな大きな流れが見てとれる・・・
・・・流れを読み解くもう一つの鍵は社会の認識の変化だ。それが端的に表れたのが、性同一性障害特例法をめぐる大法廷決定だった。
この決定の4年前、やはり生殖不能要件の違憲性が争点になった別の裁判で、最高裁第二小法廷は「現時点では違憲とは言えない」と判断していた。
23年の大法廷決定は、最高裁が4年で判断を変えるに至った理由は明示していない。
ただ、この4年間で性的少数者の権利侵害への認識は確実に広まった。呼応するように、同性カップルの関係を公的に認める「同性パートナーシップ制度」を導入する自治体も大きく増えている・・・

時代とともに、基本的人権が変わるのですね。気になるのは、憲法学者がこれらの点について、判決の前に問題を捉えてどのような発言をしているかです。解釈学でなく立法学としてです。不勉強で発言してはいけないのですが、新聞を読む限り発言はあまり取り上げられていないように思えます。
憲法学者である棟居快行教授の反省を、紹介したことがあります。
・・・遺憾にも私を含む憲法学者の大半は、研究の相当部分を占めるその人権論にもっとも救済を必要とする人々への致命的な死角があることについて、ハンセン訴訟の新聞記事等に接するまで自覚していなかった・・・「優生保護法と憲法学者の自問