カテゴリーアーカイブ:社会と政治

「自分たちを規制してほしい」起業家

2023年6月25日   岡本全勝

6月6日の日経新聞オピニオン欄、村山恵一コメンテーターの「新種の起業家アルトマン氏 ルールの破壊よりも生成」から。

・・・「大企業や民間部門の代表者がやってきて『自分たちを規制してほしい』と懇願した例を思い出せない」。5月16日、米議会の公聴会に出席した議員は「歴史に残ることが起きている」と語った。
視線の先には、生成AI(人工知能)のChat(チャット)GPTを開発した米オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)がいた。
同氏はこの日、高度なAIの開発や提供にライセンス制を導入するよう政府に提案した。国際原子力機関(IAEA)を引き合いに出し、世界的な規制の必要性にも踏みこんだ。
自社の手足を縛りかねない主張を堂々とする。確かに、そこにはかつてない起業家の姿があった。

異端、独走、破壊……。スポットライトを浴び称賛される起業家は長らく、そんな単語で形容されてきた。規制についても「政府は引っ込んでいた方がいい」というのが基本姿勢だったろう。
「言論の自由の絶対主義者」を自称し、巨額で米ツイッターを買収すると、荒っぽいかじ取りをみせた米起業家イーロン・マスク氏がひとつの象徴といえる。

アルトマン氏はどうか。人より賢い汎用人工知能(AGI)がもたらす恩恵を説く一方、リスクも素通りしない。人類絶滅を危惧する共同声明にも署名した。
しかるべきルールの整備があってこそイノベーションは実現する。そう信じているはずだ。世界の政策担当者との対話に時間を割いている。4月に来日し、5月には欧州の各国を巡った。
「オープンAI株は持っていない。好きだから(この仕事を)やっている」。種類株で支配的な議決権を握る米グーグルや米メタの創業者とはこの点も異なる。
2015年に共同創業したオープンAIは当初、非営利だった。広く社会のためになるAIをつくるためだ。研究開発に費用がかさむと知ると、営利企業の性格もそなえたハイブリッド組織に改め、米マイクロソフトと手を組んだ・・・

こども誰でも通園制度

2023年6月20日   岡本全勝

6月3日の朝日新聞東京版に「「誰でも通園」10分で100人超 文京区事業へ申し込み殺到、面談予約停止に」が載っていました。

・・・文京区で、幼稚園や保育園に通っていない子どもを週1〜2回、保育所で定期的に預かる事業が7月に始まる。区が今月1日に利用申し込みを開始したところ、初日だけで100人以上の申し込みがあり、事前に必要な面談の予約を一時停止する事態になっている。
区によると、国が「異次元の少子化対策」として挙げている「こども誰でも通園制度(仮称)」の実施に向けたモデル事業で、来年3月まで期間限定で実施される。認可保育園のように、保護者が就労しているかどうかなどといった状況にかかわらず定期的に利用できるのが特徴だ・・・

考えてみたら、そのような需要はありますよね。

マイナンバーの構造

2023年6月2日   岡本全勝

5月25日の日経新聞に、大林尚・編集委員が、「マイナ失策に15年前のトラウマ 個人情報、分散管理あだに」を書いておられました。

・・・健康保険証の機能を載せたマイナンバーカード(マイナ保険証)に他人の情報がひもづけられている事例があると、加藤勝信厚生労働相が記者会見で明らかにしたのは今月12日だ。厚労相は「いま一斉にチェックし、こうしたことが起こらぬよう入力時に十分に配慮してもらうことを徹底させる」と対応策を述べた。
他人の情報が誤入力されたケースは2021年10月~22年11月に7300件あまり。健康や医療に関する情報は個人情報のなかでも極めてセンシティブだ。誰もが赤の他人になど絶対にみられたくあるまい・・・

・・・実は、ミスが表面化することは政府自身が予見していた。マイナカードの発行やマイナンバーシステムを運用する地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が2月に自治体向け文書で警告した。
マイナンバーシステムの情報連携で他人の情報を連携(ひもづけ)するケースが頻発しており「追記処理」と呼ぶ訂正作業を急ぐように、との指示だ。

ミスは情報提供ネットワークシステムがマイナンバーや個人を特定する基本4情報(氏名、住所、性別、生年月日)を介さずに「みえない番号」を使ってやりとりしているという事情に起因する。ひもづけをする担当者は個人を特定する情報に接しないので、照会した本人の情報かを確認するすべがないのだ。
なぜこんなやり方か。万一、情報が漏れてもプライバシーを守れるというのが表向きの政府の立場だ。だが真の理由は、総務省が違憲訴訟を避けたいがために個人を特定できる情報をシステムに流さない方針を徹底させていることにある。

歴史をひもとこう。住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)はプライバシー権を侵害し違憲だとして、住民が同省などに個人情報の削除を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁は2008年「住民サービスの向上や事務効率化という正当な目的で使われ、情報漏洩などシステムの欠陥もない」として住基ネット合憲の判断を示した。その際の条件が「行政事務で扱う個人情報を一元管理できる主体が存在しないこと」だった。
欧州各国の番号制度は一元管理が主流だが日本はこの判例がトラウマになり、総務省は一元管理の回避を最優先してきた。個人情報は保有機関ごとに分散管理し、それぞれに「みえない番号」をつけるやり方だ。
以来15年。この間にデジタル技術は長足の進歩を遂げ、プライバシーの「守り方」もデジタル時代に即したやり方が適用されつつある。人手による情報のひもづけを変えないかぎり、いくら確認を徹底してもミスは完璧には防げまい。一元管理への移行を検討するタイミングではないか。
むろん堅固なセキュリティー対策が必要なのは言うまでもない。デジタル・警察両庁はマイナカードに運転免許証の機能を載せる計画のピッチを速めようとしている。万人がマイナカードを安心して使うのに足りない視点は何か。政府を挙げて再考するときだ・・・

見なくなったストライキ

2023年5月19日   岡本全勝

5月9日の朝日新聞オピニオン欄、後藤洋平・編集委員の「パリのストと日本のメーデーで考えた 「便利さよりも大事なこと」」から。

・・・8年前に放送と兼務ながらファッション担当になり、コレクション取材のため、継続的にパリを訪れるようになった。流行ブランドのファッションショー取材といえば最先端の服を誰よりも早く間近で見ることができ、世界中からセレブたちも駆けつける。華やかな現場だと思っていたが、実際は過酷だ。朝早くから夜遅くまで、10近いブランドのショー会場を連日ハシゴする・・・

・・・しかし、落とし穴もある。たびたび行われるストライキだ。今年1月中旬から下旬に開かれたパリ・メンズコレクション期間中の同19日も、年金の受給年齢引き上げに反対する労働者たちが大規模なストを打ち、ほとんどの公共交通機関がストップした。
私はルイ・ヴィトンやヨウジヤマモトなど8ブランドのショーと一つの展示会取材、1件のデザイナーインタビューを予定していた。広場ではマクロン大統領を批判するデモが開かれ、封鎖された主要道路もあった。中心地を避けるルートの主催者バスと徒歩で乗り切ると、携帯アプリが記録した1日の歩数は2万3931。夜はもちろん即気絶した。
「こんな観光地で、世界中から人々が集まる時期に、なんでやねん……」
担当してから数回目のスト遭遇までは、そう思っていた。しかし、2018年に始まった「黄色いベスト運動」を含めて何度かストを経験し、パリに住む知人たちが「不便だけど、これは仕方ない。もっと大事なことがあるから」と理解を示していることも知って、考えが変わった。「労働者が団結して主張し、行動しているのは、うらやましい」と・・・

・・・いま47歳の私が幼かった頃、ストライキで電車の運行が止まることがたまにはあった。しかし、海外ではこの8年間で何度か直面しているのに、私は日本では数十年経験がない。厚生労働省に聞くと、21年の労働争議(経営側と労働組合などとの間で生じた紛争)の総数は297件で、うち実際にストなどの行為を伴ったものは55件だったという。
総数が最も多かったのは1974年の1万462件で、この年は紛争行為を伴った件数が9581件だったというから、ものすごい激減ぶりだ。
もちろん、労働環境が向上したという見方もあるだろう。だが、日本の会社員の平均年収は何年もの間、ほぼ横ばい状態だ。それでも争議件数は近年も減少傾向にあり、統計で最も新しい一昨年は19年に次いで過去2番目に少なかったという・・・

宇奈月温泉引湯管事件

2023年5月18日   岡本全勝

5月9日の朝日新聞夕刊に、「民法の「聖地」、お守りでPR 富山・宇奈月温泉、「権利ノ濫用除」」が載っていました。

・・・権利を振りかざしてあなたを害する人物や出来事をよけ、良い縁を結ぶ。そんなお守りが、トロッコ電車で有名な黒部峡谷(富山県黒部市)にある宇奈月温泉で生まれた。その名も「権利ノ濫用除(らんようよけ)お守り」。モチーフになったのは、法律を学んだ多くの人が知る歴史的事件だ。
今年100周年を迎えた宇奈月温泉は1923年に開湯し、黒部川上流の黒薙温泉から引湯管(木管)で湯を運んでいた。しかし、木管がかすめる約2坪の土地について、利用の承諾を得ていなかったという。
このことを知った人物が土地を購入し、温泉を運営する黒部鉄道(現在の富山地方鉄道)に対し、木管を撤去するか、隣接する土地を含めて高額で買い取るよう要求。
黒部鉄道が断ると、木管の撤去と立ち入り禁止を求める訴えを起こした。最高裁の前身である大審院は35年、双方の利益を比べ、土地所有者が権利を行使する目的を踏まえて「権利の濫用」として訴えを退けた。

宇奈月ダム湖の湖畔には、事件の舞台であることを示す石碑があり、今も法学生や専門家が訪れる「聖地」だ。だが、黒部・宇奈月温泉観光局の石田智章さん(39)は「学術的価値が認められているものの、一般には知られていなかった」と話す。事件を題材にした町おこしの話が出ても具体化しなかったという・・・

民法の授業で必ず出てくる引湯管事件です。私も習ったのですが、富山勤務時代に現地は何度も通りながら、現場には行きませんでした。