消防の専門誌『近代消防』2013年11月号に、関係者による座談会「3.11における東京消防庁作戦室の教訓」が載っています。新井雄治消防総監(当時)をトップとする座談会です。その主たる内容は、また追って紹介するとして、今日はその中から、ちょっと違った視点から、記事を紹介します。
2011年2月(大震災の1か月前)に、ニュージーランドのクライストチャーチで、直下型の地震が起きました。建物倒壊で日本人も犠牲になったので、覚えておられる方もおられるでしょう。その際にも、日本から国際消防救助隊が派遣され活動しました。派遣された五十嵐副参事の思い出(教訓)です。
・・1つの公園を、海外からの応援部隊の逗留地にしていました。我々が行ったときは、小さなテントで食糧を配給していましたが、最後にはサーカスのような大きなテントを張って、フードコートができあがりました。文化の違いだと思いますが、救助隊に対するケアが手厚く、休憩をしっかり取っていました。日本では、全力で働いて、ヘロヘロになったら交代するという感じです。ニュージーランドでは、休憩のテントの中にシャワーやマッサージルームもありました。我々が3.11の被災地でサッカーをしていたら、大変な騒ぎになります。職を失いかねません。それくらい、オンとオフの考え方が違うのです・・
う~ん、この違いは、何が生むのでしょうか。もちろん、西洋の流儀が全て良いとは言いません。しかし、火事場の馬鹿力は、長続きをしません。そしてそれを、職員全てにかつ長期間求めるのは無理です。
私が大震災被災者支援本部の責任者に指名されたとき、遡ると総理秘書官になったときに心したのは、上司や部下の心身の健康をいかに保つかです(これについて、なぜそれを勉強したかは、別途書きましょう)。緊急時には、みんな、ふだん以上の力を発揮します。しかし、それを持続させる必要があるのです。
この一週間、国会答弁案作りと別の用務で、多くの職員を連日徹夜させました。上司として、反省しています。朝自宅のメールを見たら5:56とあったり、職場に置いてある資料には「31時30分提出」(翌朝7時30分)と書いてあります。出勤して資料に触ると、まだ温かいです(コピーしたばかりということです)。
今日昼間に、ある職員のところに行って、「睡眠術をかけるぞ」という前に、いすに座りながら「意識不明」になっている職員がいました。私はすごい催眠術師かと思いましたが、当該職員の部下たちも「私もできます」と笑っていました。今日は寝たかな、H参事官、T補佐・・。
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生き様-仕事の仕方
セクハラ、セ・パ交流戦
職場でのセクハラ(セクシャルハラスメント)や、パワハラ(パワーハラスメント)が、しばしばニュースになります。「私には関係ない」と思っていると、危ないですよ。
人事院のサイトに、「セクハラの診断書」があります。「理解度チェック」と「意識度チェック」。試してみてください。
自分自身が気がつかないうちに、部下に対してセクハラやパワハラをしている危険があります。さらに、前にも書きましたが(2013年2月2日)、職場で、セクハラやパワハラ、個人情報保護、部下のメンタルヘルスなどの事故が起こらないように気配りをする必要があります。いずれも、私たちが習ってこなかった項目です。良い教科書もないようです。
先日、駅のプラットフォームで、会社員たちが大きな声で会話していました。
A:あの部長って、パワハラがひどいよな。
B:そうだなあ。
C:彼は、セ・パ交流戦だから。
A:何それ?
C:セクハラもひどいから。
A:それで、セ・パ交流戦か。
敵は後ろに・続き
アメリカ政府の債務上限額を引き上げることと、新年度予算を巡って、大統領・民主党対共和党が対立しています。ニュースが大きく伝えています。
野党共和党が多数を握っている下院のベイナー議長(共和党)が、ここまで強硬路線を貫き、話合いが進みませんでした。しかし、債務不履行を回避するために、上院が主導して、与野党が打開策をまとめました。その過程を、17日の読売新聞は、次のように伝えています。
・・米議会は16日、上院の与野党トップ主導で危機回避策の合意に向けた協議が進んだ。下院で過半数を握る野党・共和党の指導部は、党内の強硬派に押されて妥協案をまとめられず、当事者能力を失った。予算を巡る危機を盾に取り、オバマ政権に妥協を迫る下院共和党の戦術は失敗に終わりつつある・・
・・共和党の下院議員232人のうち、強硬派議員は40~80人程度だ。それでも、ベイナー議長は党分裂を避けるために強硬派への配慮を続けた結果、現実的な妥協案を作れなかった。
オバマ大統領は15日の米テレビへのインタビューで、ベイナー議長が過去にも、大統領との交渉で合意しても、党内の反発で覆してきたと指摘し、「彼は党指導部をまとめられない」と突き放した・・。
「敵は後ろにいる」の好例ですので、紹介します。ベイナー議長の敵は、前にいる大統領と民主党でなく、自らの共和党内にいました。
責任者は何と戦うか、その11。自分と戦う、2
さて、自分との戦いに、もう一つの場面があります。評価と判断を間違わないことの前に、それを作る環境を整えることです。
責任者は上に行けば行くほど、忙しくなります。しかし、1日は24時間しかありません。限られた時間を、どのように割り振るか。何を自分で処理し、何を部下に任せるか。そして、誰に任せるか。この判断です。
全ての書類に目を通し、全ての会議に出席し、全ての面会希望者に会い、全ての電話に応対する。全能の神ならぬ身、そんなことはできません。すると、秘書官・補佐官に、その割り振りを委ねなければなりません。
また、全ての分野に通暁することも、全知の神ならぬ身、それは困難です。その分野に詳しい者に、処理を委ねるか、問題点の整理を行わせます。誰に、それを任せるか。
さらに、すり寄ってくる人たちの内、意見の違う人の提案を退けなければなりません。八方美人はできません。
時間の割り振り、仕事の割り振りと切り捨て、取り巻きの割り振りと切り捨て。これもまた、難しい決断です。
責任者は何と戦うか、その10。自分と戦う
「責任者は何と戦うか」シリーズは、8月末から始まって、断続的に続いてきました。取り上げた敵は、事態の把握、周囲の評価、決める仕組み、身内、議会と世論、敵を見抜く、部下と続いてきました。
最後は、自分との戦いです。これまで取り上げた「敵」をご覧になって分かるように、私は、責任者の敵は正面にいるのではなく、実は後ろ(身内)にいるのだということを、主張したかったのです。そして、最後で最大の身内は、自分自身です。先に取り上げた敵のうち、事態の把握、周囲の評価、敵を見抜くことなどは、本人が正しい評価と判断ができていないことなのです。
周囲の意見に惑わされ、あるいはこれまでの固定観念や思い込みに縛られ、客観的な状況評価を誤り、正しい判断ができないこと。都合の良い解釈に従って、あるいは私情に左右され、厳しい決断ができないこと。困難をおそれ、決断を先延ばしにすることなどです。対立する意見の採択について、判断を先送りしたり、両論併記をしたり。
何度か、日露戦争と太平洋戦争を例に出しました。2つの結果を分けた指導者の違いは何か。それは、明治の指導者たちは、「日本は危うい」と危機感を持っていたのに対して、昭和の指導者たちは、「日本は強い」と驕りを持っていたことでしょう。そして、希望的観測に基づく戦略、負けた実績を隠す大本営発表が続きます。事実に基づく冷静な判断ができなくなっています。さらに、適性を考え司令官を更迭した明治海軍に対し、失敗した作戦の責任を取らせない昭和陸軍と海軍。
もちろん、「勝てば官軍負ければ賊軍」とやらで、勝った場合は全てが良く評価され、負けると全てが悪く評価されることも、考慮しなければなりません。
責任者は、その場限りの対処でなく、また保身でなく、「何が正しいことか」を決断しなければなりません。そしてその決断は、時には孤独なものです。威勢は良いが後先を考えない強硬派や、単なるゴマスリの取り巻きに、惑わされてはなりません。「評価は未来がする」と腹をくくり、歴史の審判を待つのでしょう。