職員が、大臣報告資料を持って、説明に来ました。説明に入る前に一言、「資料の前に、何を言いたいか、紙を1枚付けました」と。11月5日の記事「上司への説明資料の作り方」を、読んでくれたようです。私は即座に、「100点、いや120点」と合格点を付けました。
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生き様-明るい課長講座
上司への説明資料の作り方
私が失敗したことや、上司はどのような資料を作って欲しいかかなど、経験を元に、若手職員に仕事の仕方を伝授することは、先輩の務めです。『明るい係長講座』は、そう思って書いたものです。その後も、笑いながら(職員が萎縮しないように)、資料の作り方や説明の仕方を、「指導」しています。復興庁の職員は上達が早く、わかりやすい資料を作ってくれます。1枚にまとめること、結論を先に書くとか。
最近、さらに上級編を、指導しています。大臣説明資料を、事前に私に説明に来てくれます。資料は良くできています。パワーポイントを使ったりして。しかし、私に言わせると、それは「別添資料」なのです。その資料を基に、職員が口からつばを飛ばして説明してくれます。そこで、私は一言。「この資料は良くできている。でも、もう一声や」「今、私に言ったことを、この資料の前に1枚付けてくれ」。
この資料は、何を言いたいのか。すなわち、大臣に了解を得るのか、大臣に報告するのか。この資料は、大臣が会議などで使う資料なのか、単に大臣に理解を得るための資料なのか。発表事項なら、いつどのようなかたちで発表するのか。それらを1枚目に書いて、彼らが作った資料は「別添1」や「別添2」になるのです。
合格点をもらえるかどうかの判断は、簡単です。「大臣に説明する時間が取れないときに、大臣に渡して、新幹線の中で読んでもらって、わかってもらえるかどうか」です。口からつばを飛ばさなくても、目を通せばわかるかどうかです。パワーポイントの資料の前に、「送り状」が必要なのです。
相手に通じないカタカナ語、2
昨日書いた「相手に通じないカタカナ語」に、何人かの方から、反応がありました。
マスコミの方からは、「私も、現場で苦労しています」とのこと。なるほど、霞が関だけでなく、取材の現場でも、カタカナ語に振り回されているのですね。読者に伝わらないような記事では、没になりますわな。
相手に通じないカタカナ語
10月18日の日経新聞別刷り「プラス1、何でもランキング」は、「知ってるようで知らないカタカナ語」でした。
第1位は、オンデマンド。第2位以下は、アーカイブ、アセスメント、イノベーション、ダイバーシティ、ガジェット、サムネイル、リノベーション、アナリスト。第10位にはアウトソーシングが入っています。このほかに、「聞いたこともない」という言葉もあります(笑い)。
私は何度も書いているように、カタカナ語が大嫌いです。霞が関は、カタカナ語の先進地です。しゃべっている本人は英語のつもりなのでしょうが、相手に通じていません。
最近よく見かけるものに、「ショート・ノーティスですが」という文があります。わかりますか。インターネットで検索してください。私もこの文を見ると、「締め切りまで時間がないことを、カタカナ語でごまかすなよ」と、言いたくなります。では、「マミートラック」「マタハラ」は知っていますか。
言葉は、相手に通じてこそ、意味があります。関係者だけで通じる「業界用語」なのでしょうが、国民相手の仕事の際にそのまま使ってはいけません。
私は、公文書や説明資料に、市民権を得ていないカタカナ語が出てきたら、書いた職員に「広辞苑に載っているか?」と聞きます。載っていないカタカナ語は、「日本語に言い換える」か、「原語(アルファベット)を表記しろ」と指導します。辞書に載っていない言葉は、調べようがありません。
仕事の段取り
私たち官僚にとって、「仕事の段取り」は非常に重要です。目標を与えられた場合、あるいは目標を立てた場合に、いつ何をして、目標を達成するかです。内容をサブ、段取りをロジと呼ぶことがあります(もっとも、ロジは会議などの段取りの準備を指すことが多いです)。
その際に、内容を固めて上司の了解を得ることと同様に、そのほか誰に了解を取るか、関係者対策も重要です。マスコミには、どのように公表するか。マスコミに聞かれたらどう答えるかといった想定問答作り。関係者には、事前事後にどのように報告、根回しするかなどです。
自然科学の大発見と違い、私たちの仕事の多くは、関係者に納得をいただくことが「成果」です。どんなに良い内容でも、上司、関係者、マスコミ、国民に、理解と賛同を得られないと落第です。
段取り(の準備)には、いくつかのものがあります。まずは骨太の粗々したもの、いつ何をする必要があるかを確認することです。これは紙1枚。「工程表」と呼ばれます。次に、それをより詳しくしたもので、それぞれの段階で、誰が何をするか。対外的には、何をもって、誰が誰に根回しに行くか。役割分担表です。責任者たちでこの段取りを共有するために、漏れ落ちがないか確認するために、そして作業員が間違わないように、紙にする必要があります。
作戦本部長または参謀長は、この工程表と役割分担表を作ること、あるいは部下に作らせた原案を加筆修正することが仕事です。毎年の定例行事(予算、法案作成など)なら、前例があるのでそれを参考にします。しかし、初めての課題なら、一から作る必要があります。
私は最近の自分の役割を、「回転寿司のベルトコンベア」と呼んでいます(笑い)。
皿の上には、さまざまな寿司(仕事)が乗るのですが、それは部下が考えてくれます。私はその皿(できあがった説明資料)を、適切な時期に必要な人に届けること、届け先と時期を間違わないように指示を出すことが任務です。
これは、偏差値よりも、経験の多さと人間関係の熟知が、ものを言います。「俺は聞いていない」と言われないように、また「あの人に事前に報告をすると、新聞記者に漏れるわなあ」とか。
そして、発表や会議がうまく行ったときに、次に忘れてはならないのが、報告とお礼です。しばしば、これを忘れます。うまくいったので、うれしくなって打ち上げに行ってしまいます。そこにたどり着くまでに、陰で汗をかいてくださった人たち、また「俺はこれについては関係者だ」と思っている人に、まずは電話で第一報を入れ、お礼を言う必要があります。
いくつも失敗をした先輩の、反省談だと思って読んでください。しかし、このようなことは、失敗してみないとわからないのでしょうねえ。