カテゴリー別アーカイブ: 復興10年

地域づくり、3つの意味

大震災からの復興で、町の復興には、インフラ復旧だけでなく、産業と生業の再建、コミュニティ再建が必要だと、私はくり返し主張しています。「町づくり」と言っても、道路など都市施設と住宅を造るだけでは町にならず、そこに住民の暮らしが成り立つようにするのが町づくりです。「町のにぎわいの3要素

その点で、興味深い事例を教えてもらいました。厚生労働省の社会福祉施策です。
社会福祉法を改正し(2017年、2020年)、支援を必要とする人たち(高齢者、子ども、障害者、生活困窮者など)に対し、地域で包括的な支援体制を作ろうとしています。
そこに、「地域共生社会」「地域づくり事業」が出てきます。地域づくり事業とは、世代や属性を超えて住民同士が交流できる多様な場や居場所を整備することです(社会福祉法第 106 条の4第2項 第3号)。厚労省資料「社会福祉法の改正趣旨・改正概要」43ページほか。
ここでは、地域づくりが、公共インフラでなく、人のつながりになっています。菊池馨実著『社会保障再考〈地域で支える〉』(2019年、岩波新書)

地域おこしとして、多くの地域で町の活性化に取り組んでいますが、それらは産業振興が主です。まち・ひと・しごと創生法が、「それぞれの地域で住みよい環境を確保」することを目標とし、「まち」を「国民一人一人が夢や希望を持ち、潤いのある豊かな生活を安心して営める地域社会の形」としました。
さらに進んで、社会福祉法では、住民のつながりが掲げられました。ここに、地域づくりについて、インフラ、産業、コミュニティの3つの面がそろいます。

町の復興、高台移転とかさ上げの違い

過大な町づくり批判」を考えていて、気がつきました。高台移転と、かさ上げ(区画整理)では、同じ町の復興でも、内容は違うのです。

高台移転では空き地が比較的少なく、かさ上げ(区画整理)で空き地が生まれした。その理由の一つでもあります。
高台移転は多くの場合、住宅だけです。それに対し、区画整理は町の中心地で行われ、住宅以外の商業用地なども含まれています。高台移転では、予定者数が減った場合、それは住宅の戸数減であり、その分だけ宅地や住宅の工事を止めれば良いのです。ところが、町の中心部を復興する場合は、そうはいきません。

民間出向者による産業復興支援

復興庁が、「岩手/宮城/福島 民間出向者による東日本大震災被災地産業復興支援事例集2012-2020」を制作しました。

復興庁では、民間企業から職員(139 名)を派遣してもらい、「政策調査官」として、知見を活かした産業復興支援を行っています。私が、産業再開支援で人とノウハウの支援として紹介する「結の場」も、彼ら彼女らの発案と実行でできたものです。そのほか民間連携
本事例集では、奮闘の様子や苦労話などを、関係事業者との対談形式で紹介しています。

政策調査官の成り立ちは、事例集の5ページに漫画で載っています。私も、お礼の意味を込めて、寄稿しました。46ページです。
職員を派遣してくださった会社は47ページに、支援した事業者は48ページに載っています。ありがとうございました。

「民間事故調最終報告書」

アジア・パシフィック・イニシアティブ(船橋洋一代表)著『福島原発事故10年検証委員会 民間事故調最終報告書』(2021年、ディスカバー・トゥエンティワン)を紹介します。民間事故調報告書(2012年)に続く、第2弾です。民間事故調が「備え」に焦点を当てたのに対して、今回の第二次民間事故 調は「学び」に照準を合わせて検証しています。
私は原発事故には関わっていないのですが、船橋さんに呼ばれて、インタビューを受けました。少しだけですが、発言が載っています。復興過程においての話です。船橋さんは、ほかに『福島戦記 10年後のカウントダウン・メルトダウン』上・下(2021年、文藝春秋)も出版しておられます。

原発事故については直後に、国会、政府、民間の事故調査委員会が、詳しい報告書を出しました。しかし、まだ抜け落ちている問題、十分には検証されていない問題があると思います。それぞれの事故調は、なぜ事故が防げなかったか、冷温停止ができなかったかという、原発内の作業と官邸の指揮に焦点が当てられています。それは最も重要なことですが、原発の外で起きていた問題が十分に取り上げられていません。

一つは、事故当時の住民への避難誘導、国民への説明です。放射線で死んだ人はいないのですが、避難作業が適切でなく、避難途中で何人もの人が命を落としています。この責任を、明らかにすべきです。
もう一つは、避難指示区域の設定、賠償、復興についてです。これはまだ進行形ですが、10年経った今、一定の検証をしておくべきです。
政府が自ら検証しないとすると、国会や報道機関に期待するのでしょうか。