カテゴリー別アーカイブ: 政治の役割

行政-政治の役割

政党、密室での政策形成

5月18日の読売新聞解説欄に、若江雅子編集委員の「個人情報保護法 見直し デジタル政策作り「密室化」」が載っていました。少々込み入っているので、原文をお読みください。

・・・個人情報保護法の3年ごと見直しを巡り、IT業界のロビー活動が激しさを増している。これに呼応するように自民党デジタル社会推進本部や霞が関のデジタル庁も規制強化への警戒を強め、同党が近く政府に提出する「デジタル・ニッポン2024」の素案には個人情報保護委員会の執行と政策立案の権限を分離させる提案まで盛り込まれた。国民には見えにくい「密室」での政策形成について考えた・・・

・・・「経済界が望まない課徴金の話が、なぜ出てきたのか」
4月4日、東京・永田町の自民党本部。デジタル社会推進本部の会議で、個情委の幹部らは同席した経済団体の関係者の前で議員から問い詰められていた。
経済団体は数か月前から、個情法見直しに絡む不安を議員らに訴えてきたという・・・

・・・「どのくらいの規模感を想定しているのか。個情委の腹の中が知りたいのに、彼らは我々と対話をしない。これが一番不満だった」。業界側のあるロビイストはこう打ち明ける。「党のデジタル本部の方がよく聞いてくれる」
彼らの声を代弁するかのように、議員らは「民間と対話をしないのは良くない」と繰り返した。同席していたデジタル庁の幹部も、「前はもっと経済団体と議論を重ねた」「今の個情委は『保護』に振れすぎ」と同調したという。
ただ、今回の見直し作業では、個情委は昨年11月以降12回にわたり関係団体や有識者のヒアリングを行っており、経済団体は13団体が呼ばれ、このうち経団連や新経済連盟など4団体は2度も呼ばれている。消費者団体はたった1団体で一度きりだ。
それでも先のロビイストは「正式なヒアリングはこちらが意見を述べるだけ。非公式の場で腹を割って話し合いたいのに」と訴える。
だが、長年、情報通信分野の消費者問題に取り組んできた長田三紀・情報通信消費者ネットワーク代表はこう嘆く。「日本の目指すデジタル改革は『経済界のためのデジタル改革』なのか。せめてオープンな場でやってもらわないと消費者側の意見がどこからも出てこない」・・・

・・・憲法が専門の東大教授、宍戸常寿氏は「法律の執行機関がその執行を踏まえて法律を見直すのは当然で、個情法の立案と執行は個情委が所管すべきだ」と指摘する。その上で「内閣のデジタル政策全般の調整は、デジタル版の経済財政諮問会議のような会議体を作って公開の場で行ってはどうか」と提案する。意図するのは議論の可視化だ。
自民党のデジタル社会推進本部は、20年10月に特別委員会から昇格して本部になったばかりだが、企業や団体、有識者や官僚を頻繁に呼んで情報収集し、近年、急速に影響力を増している。ただ、そこは交わされた会話の記録さえ情報開示の対象にならない非公式な空間だ。国民の目の届かない「密室」にデジタル政策の形成の場が設けられることには危うさを感じる。
宍戸氏は「いまは与党と民間事業者と行政機関の間で、我々市民には見えない形で政策の調整がなされている。『非公式な影響力』が肥大化しすぎないよう、政策調整を公のプロセスの中に組み入れ、透明化をはかる必要がある」と話す・・・

なし崩し的政策変更

昨日の記事「人手不足」の続きになります。5月4日の朝日新聞「人手不足「感じる」7割 不安の最上位「医療・介護」80% 朝日新聞社世論調査」には、次のようなことも指摘されています。

・・・人手不足の業種を対象とした政府の外国人労働者の受け入れ拡大方針については、2018年11〜12月の郵送調査でも尋ね、賛否は44%対46%と拮抗していた。5年余りで大きく賛成へと傾き、特に18年調査で消極的だった高齢者の賛成が大幅に増え、60代では35%だった賛成が63%へと急増した・・・

5年間で、国民の意識はこんなにも変化するのです。ある程度の予測がつく近未来についても、人は現状を変えることに消極的で、現実が変化すると「気がつく」ようです。
国民だけでなく、日本政府もこのような意識の上に成り立っているようです。移民政策を正面から掲げず、なし崩し的に事実上の移民受け入れを進めています。「建前は変えず、現実の変化を容認する。そして現実の変化が一定程度を越えると、建前を変える」のです。建前を守るために、現実の変化を阻止しようとはしません。成り行きに任せると言ってもよいでしょうか。

5月17日の朝日新聞夕刊、久保田一道記者の「人手不足 外国人労働者、確保の鍵は共生」に、次のような話が載っています。
・・・労働力不足を背景として、国内の多くの産業に欠かせない存在となった外国人労働者。この春、今後の受け入れをめぐる議論が相次いで節目を迎えている。
一つが、2019年に導入された在留資格「特定技能」の労働者の受け入れ枠を広げる政府方針の決定だ。制度導入時に34万5150人と設定した5年間の受け入れ枠を大きく拡大し、今後5年で82万人とした・・・
制度導入に向けた議論では、与党内から「事実上の移民政策だ」と反発の声があがったが、政府が見直しの方針を説明した今年3月の自民党の会合で、正面から異を唱える議員はいなかった。ある自民議員は「地元の経営者の話を聞けば、外国人労働者の必要性は明らか」と実情を語った・・・

なし崩し的な移民受け入れは、就労目的以外で入国させ労働者として働かすことが多く、正面玄関からでないことから、「バックドア」「サイドドア」からの移民と呼ばれます。コンビニ、工場、水産業、旅館・・・いろんな職場で外国人労働者が働いています。今や彼らなしには、産業が成り立たないでしょう。
なし崩し的政策変更も一つの手法ではありますが、正面から移民を認めないことは、彼らを受け入れる各種の制度が不十分になります。教育、医療保険、地域社会への包摂などです。

財政規律

5月3日の日経新聞「私が考える憲法」、大田弘子・政策研究大学院大学学長の「財政再建、改憲ありきに反対」から。

ー日本国憲法は第7章で財政について定めます。様々な立場で政策決定に関わり、憲法にどんな問題意識がありますか。
「憲法に財政規律条項を入れるべきだとの主張がある。日本の財政規律が弱いのは憲法に問題があるからではない。財政規律を維持しようとする政治的意思が弱いからだ。1997年に(歳出削減目標などを示す)財政構造改革法ができたが、翌年停止になった。景気がよくなってから復活させる動きもなかった」
「今のままでは、たとえ憲法が改正されたとしても財政状況は変わらないだろう。やるべきなのは5年程度の中期で予算や財政を管理することだ。危機感が薄くなり視野が短期的になっている」

派閥はなくならない

自民党の派閥の裏金事件で、解消することを決めた派閥があります。それも一つの対応ですが、派閥はなくならないでしょう。それは人間の性(さが)であり、総理の座を競う集団には必須の機能だからです。

まず、人間の性格です。「人間3人集まれば派閥ができる」とは、大平正芳元首相の言葉です。2対1に分かれるからです。

次に、政権=総理を競う集団の原理です。そこには、派閥が必ず生まれます。代議制民主主義、議院内閣制では、総理になるためには国会議員の多数の支持が必要です。そこで、政党が生まれます。日本国憲法には政党は規定されていませんが、政党の存在を否定する人はいないでしょう。その際には、「総理を目指す多数派を作る」という力の面と、「総理になったらこんな政策を行う」という政策の面があります。通常は、両方を主張します。政権を取ると、主張していた政策の実現と、党内構成員に政府の役職を配分します。

同様に、政党の中、特に人数が増えた政党の中で、党首を目指す競争が起きます。「小政党」ともいうべき派閥が生まれるのです。この派閥を禁止しても無駄なことです。名前は変わっても、多数派を作る作業と、政策を実現する手段として、派閥はできるのです。
政党を認めるなら、派閥も認めるべきでしょう。また、数百人の構成員が小集団を作らずに、全員を党の代表や執行部が把握することはできません。もしそうなると、代表の独裁に近くなるでしょう。

問題は、裏金を作ることです。これは、派閥の機能とは別のものです。派閥の参加者を増やすために、構成員に資金を配ることも起きるでしょう。それは政党と同じように規制し、透明化すればよいのです。もっとも、裏金はそういうところには出てこない金なので、このような規制をしてもずるをする人は出てくるかもしれません。

ドイツに学ぶ財政監視

5月2日の朝日新聞夕刊、寺西和男ベルリン支局長の「GDP逆転 独に学ぶ、財政監視のあり方」から。

・・・昨年の名目国内総生産(GDP)で日本を抜いて「世界3位」になったドイツに高揚感はない。GDPを押し上げた主な要因はインフレだ。エネルギー高に、高齢化による人材不足が重なり、取材した企業経営者からは長期低迷が続く「日本化」を懸念する声も聞かれた。現状だけをみると、「強いドイツ」の姿は浮かんでこない。
ただ、それを差し引いても、考えないといけないことがある。経済対策で歳出を膨らませてきた日本と違い、ドイツは経済が少しぐらい弱くてもすぐに「成長のために財政拡大」とならない点だ。昨年秋から年明けにかけての出来事はその典型だった。

ドイツには基本法(憲法)で財政赤字を一定割合までに抑える「債務ブレーキ」という財政ルールがある。2021年にコロナ禍の緊急対応でルール適用を一時停止し、政府は600億ユーロ(約10兆円)の予算を確保。それが余ったため、翌年に基金に移し、別の用途に使うことにした。
だが、憲法裁判所は昨年秋、この転用を違憲と判断した。基金は廃止になり、議会では歳出削減策が議論され、補助金の削減対象になった農家はデモで反発した。

独メディアは騒動を「予算危機」と報じたが、私は議会で予算の使い道の議論を重ねる様子に感心した。
裁判所に訴えたのは転用を批判してきた最大野党。予算案を審議する議会予算委員会の委員長も慣例で最大野党が務め、財政に目を光らせる。国民の代表である議会が予算をチェックする「財政民主主義」の意識の高さを感じた。
国際通貨基金(IMF)によると、日本は名目GDPに対する政府の債務(21年)の割合は255%、ドイツは69%。数字が歩みの違いを物語る・・・