カテゴリーアーカイブ:政治の役割

勢力均衡や覇権でない国際秩序・その2

2015年10月4日   岡本全勝

引き続き、ジョン・アイケンベリー教授の主張です。
リベラルで民主主義的な世界秩序は、戦勝国アメリカが主導したものです。それは、いくつかの原則によって成り立っています。
1つは、経済の開放性です。1930年代のイギリス、ドイツ、日本によるブロック経済と世界経済の崩壊を、再び起こさないためです。平和で安定的な世界秩序のために、経済の開放性は必須だとアメリカは考えました。
2つめは、西側政治経済秩序を共同で管理するという原則です。これも、1930年代の経験から学びました。一国による押しつけや、相互の敵対的競争ではなく、制度やルールを作り、参加各国によって共同管理するのです。
教授はまだいくつかの原則を挙げていますが、ここでは主要な2つを紹介しておきます。

そして教授は、戦後アメリカの国際的なパワーは、一方的な力の行使ではなかったと主張します。
すなわち、リベラルで民主主義的な世界秩序は、西側各国の参加による共同の管理によって成り立っています。制度やルールづくりがアメリカによって主導されたのは事実ですが、多国間の条約による安全保障と貿易、多くの国が参加するいくつもの国際機関によって成り立つこの秩序は、大国にとっては「面倒くさい」ことです。小さな国も、超大国アメリカと一応は対等の立場に立って、交渉します。
しかし、超大国がその力を背景に一方的に押しつける秩序は、相手国に不安と不満を生みます。それよりは、双方の合意による秩序は、強固です。戦後、圧倒的はパワーを持ったアメリカは、使おうとすればできたパワーを抑制し、西側各国を安心させ、味方につけたのです。
勢力均衡や覇権主義でない、共同管理の秩序であり、ルールによる支配です。そのルールを、参加各国が作ります。小さな国にも、発言権があります。もちろん、すべて平等ではなく、大国が拒否権を持ったりします。この手続きには、手間暇がかかります。
武力や経済力による「力の押しつけ」ではなく、「制度や場」による権力です。スーザン・ストレンジが提唱した「関係的権力」と「構造的権力」と、同様の見方です。
権力が一元化した「世界政府」がない、主権国家の集まりである現在の世界政治では、これが最良の策なのでしょう。

とこで、この本では、日本とドイツは「半主権的な限定的大国」と位置づけられています。NATOや日米安保条約によって、この2国は、国際条約の下で行動や軍備に制限を受けます。それによって、戦前のような軍国主義・冒険主義に走ることを防いでいます。
その見返りとして、アメリカは両国の防衛を一部肩代わりし、安全を保障します。それは日本とドイツにとってのメリットだけでなく、アメリカとともに、日独の周辺国にも安全をもたらします。そのような見方もあるということですね。

皆保険50年

2015年9月26日   岡本全勝

昭和36年(1961年)に、国民健康保険ができ、国民皆保険が達成されました。それから半世紀になります。9月24日の朝日新聞は、それを記念したシンポジウムを特集していました。興味深い点を紹介します。詳しくは、原文をお読み下さい。
ファインバーグ米国医学研究所理事長の発言から。
・・日本は、保健分野で世界最高の成功を成し遂げた国の一つだ。中程度のコストでこれだけのことを実現できたこの国から学びたい・・
より質の高い健康を実現するには、効率的なシステムをつくらねばならない・・課題は様々だ。公的負担と私的負担のバランスをどうとるか。看護師や薬剤師といった専門職の役割分担をどうするか。最も効率の良い組織をつくるにはどうした良いか、医療の質をどう維持するか。システムを継続していくにはコストをどう抑えていくかなどがあげられる・・
日本は、皆保険を世界に先駆けて達成し、維持してきた。今度は21世紀型の保健改革をどう遂げていけるか。どのような選択をとり、どういった行動をとるのか、見せていただきたい。

池上直己教授の発言から。
医療の抜本改革と言われるが、日本は抜本改革をしたこはなく、漸進的調整を繰り返してきた。皆保険達成の第1期は健康保険法が成立した1922年から敗戦まで。社会保険が設立された目的は、社会主義運動の阻止と、国力増強のための労働者の健康増進だった・・国民の保健加入率は、戦争中の43年に70%までいっていた。次は戦後期。敗戦後、福祉国家の構築が目標になった・・61年に最後の市町村に国民健康保険が設立され、漸進的なアプローチによってついに皆保険が達成された・・
ところが、その後、人口の高齢化が進み、医療費に占める高齢者の割合がそれを上回って増加した。2005年には高齢者は人口で20%だが医療費の半分を占め、25年には人口で30%になるが、医療費においては3分の2にもなる。そうなると漸進的調整の限界が生じる。社会保険の主要な機能はリスクの分散、つまり加入者が病気になった時の備えから、若年者が高齢者の医療費を賄うメカニズムに移行してきている・・

ホートン英医学誌ランセット編集長の発言から。
・・今回、ランセット誌がなぜ日本に来たのか。日本が直面する問題は、他の先進国が近い将来、向き合う問題でもあるからだ。私は、日本はグローバルヘルス(国際的な健康問題)のバロメーターだと思う。肥満や糖尿病、精神病などの問題に、コストを上げず質を保ちながらどう対処していくか。他の国も多くのことを学ぶことができる。
一方で、保健システムの進化は国内だけの問題ではない・・また、他の国からあまり評価はされていないが、日本のグローバルヘルスへの貢献度は高い。教育や研究開発のレベルはトップクラスだ。壊れかけたグローバルヘルスへどう貢献していくか注目される・・

『ヴィリー・ブラントの生涯』

2015年9月24日   岡本全勝

質の高い本を読んだときの満足感は、どのように伝えたら良いのでしょうか。1週間以上かかって、グレゴーア・ショレゲン著『ヴィリー・ブラントの生涯』(邦訳2015年、三元社)を読みました。内容も重いし、判型も大きいので、寝ながら読むのには適していないのですが。1960年代、東西対立が激しい時代に、西ドイツ首相として東方政策を進め、ソ連や東ドイツと和解したブラントの伝記です。
私も子ども時代のことなので、詳しくは知らなかったのですが。プロレタリア的な家庭に婚外子として生まれ、ナチスに抗して長期間亡命し、戦後帰国してから粘り強く社会民主党内を上り詰め、また党の方針を大胆に変え、分裂しそうな党をまとめます。そして、遂に首相になります。しかし、疲れ果て、身近なところに東のスパイがいたことをきっかけに失脚します。ワルシャワを訪問した際に、ナチスの犠牲になったユダヤ人記念碑の前でひざまずく写真が有名です。その写真は、本書のカバーにも使われています。しかしこの行為も、国内では大きな議論を呼び起こします。
その経歴だけでも波瀾万丈なのですが、しばしば鬱状態になったり、党内でライバルと厳しいつばぜり合いを繰り返します。長年連れ添った2番目の妻と離婚し、3番目の妻と結婚。しかし、これも問題を引き起こします。人間味あふれる伝記です。
ブラントの後を継いだヘルムート・シュミット首相の『シュミット外交回想録』(邦訳1989年、岩波書店)などは、同時代として読んで、感銘を受けました。これは政策について書かれたものです。他方、『ヴィリー・ブラントの生涯』は、第三者が伝記として書いたものです。政策だけでなく、権力争いや人間性まで描き出しています。本人の強さも弱さも。
ブラントとシュミットとの間に、そんな確執があったとは知りませんでした。党内争いに勝ち、国内の対立を収め、東西冷戦の間で国の舵取りをする。政治の世界がいかに厳しいものか、勉強になります。
翻訳がこなれていることも、読みやすい条件ですね。少し専門的で重いですが、お薦めです。

インターネットと文明

2015年8月29日   岡本全勝
8月23日から4回にわたって、日本経済新聞経済教室に連載された「ネットと文明」が勉強になりました。インターネットがいかに文明を変革しつつあるかを、4人の研究家が論じています。25日の吉沢英成甲南大学教授の貨幣についての分析は、私の研究テーマにとっても参考になりました。
これまでは、国王などの権威を前提とした信頼に基づいた「文化貨幣」でした。円は、まさにそれです。近代においては、国家という権威・文化が基盤でした。
これに対し、情報通信ネットワークの発達により、貨幣は電子化されました。巨額の取引が世界中をデジタル通信で駆けめぐり、私の少額の預金やキャッシュカードも電子信号で保存されています。「電子貨幣」です。
そしてこの中間に、ヨーロッパの統一通貨、ユーロがあります。これは一国の権威と文化を超えた、欧州文明と主権国家が主権の一部を譲り渡した「文明通貨」です。そしてアメリカ合衆国の力と富を背景にした「世界通貨」ドルがあります。
ところが、これら国際化・電子化の反対に、「地域通貨」があります。これは文化、それも国家単位の文明でなく、顔の見える範囲の文化に支えられています。そして、電子決済と違い、「遅さ」も特徴です。
拙著「新地方自治入門」では、p213で国家機能の、世界に向けてと地域に向けての、分散を図示しました。地域の公と自治体の関係は、p232で論じました。
3日の日経新聞「衆院選、私の期待」では、佐々木毅学習院大学教授が「小さいが強い政府を」を話しておられました。
「郵政民営化した後の日本の姿がどうなるのか、改革の出口を示してほしい。『小さな政府』でいいのだが、では何が小さいのか、どの辺を小さくするのか。小さいだけではわからない。規制緩和だ市場化テストだと政府から切り離す話だけでは、企業やNPOさんがんばってね、で終わってしまう。何が目的で、どんな課題なのためなのか見えない」「民主党の10兆円歳出削減も、入り口でセールスをやっている点では同じだ。日本人は出口のイメージを失っている。右肩上がりが出口だと思っていたのが、成長が止まった途端に出口がわからなくなってしまった」
「小泉さんは政治が官僚制の枠組みの中で泳いでいた時代を抜け出し、それをたたきながら構造改革の段階に入った。問題はその段階を越えて政府をどう活用するかだ」「・・・後追いばかりでは、国民も官僚も元気が出ない。世界の先頭に立つ目標を掲げなければならない。私なら21世紀のデファクトスタンダードは日本を見よ、と言いたい。日本は少子高齢化を乗り越え・・・」
「政府はこれだけのことをやれるんだということが国民に見えなくなったのは極めて深刻なことだ。・・日本は『大きい小さい』が『強い弱い』とごちゃ混ぜになっていて、それすら整理されていない。米レーガン政権にしても英サッチャー政権にしても小さな政府は必ずしも弱い政府ではなかった。決して市場に丸投げしていない。・・」
いつもながら、鋭いご指摘です。政治家の責任もありますが、日本の将来を考えるために身分保障をしてもらっている「官僚』の責任も重大です。(9月4日)
10日の日経新聞「選択の前に政策論争を解く5」は「地方財政健全化どうする」でした。「郵政民営化と年金が主戦場になった衆院選の政策論争。そのあおりで議論が深まらなかった課題も少なくない。その代表格は地方財政だ・・・」。朝日新聞社説も「総選挙明日投票・忘れてはいけないこと」で、「郵政改革はもちろん、年金改革も子育て支援も重要なことである。しかし、それだけなら、ほかの大切なことが置き忘れられてしまう」と書いていました。
「・・全国一律型の教育を進めるのか。多少の混乱は覚悟してでも、地域に教育をゆだねるのか。ここは2つの党で大きな違いがある」
「国と地方の関係をどうするのか。小泉首相も『三位一体改革』では、分権を掲げている。政府の補助金を減らし、その分、税源を自治体に渡す。交付金を見直す。それが改革の内容だ。だが、具体論になると心もとない。選挙後すぐに決着を迫られるのは、自治体に3兆円の税源を移せるかどうかである。自民、公明両党の重点政策には、そのためにどんな補助金を廃止するかの説明はない。民主党は、補助金18兆円の廃止と5兆5千億円の税源移譲などを唱える。分権への意欲は買えるが、具体的な道筋は描けていない」。
指摘の通りです。今回の選挙は単一争点(シングル・イシュー)のみが取り上げられ、「これからの政治の全体像」が見えなくなってしまいました。政党には施策の束(パッケージ)をまとめ、どの党を選ぶか国民に提示することが期待されています。それぞれの政治家がそれぞれの争点に自由な政策を提示すると、それらを足しあげると整合性がとれない(福祉を増やすと言いつつ、減税も言うとか)ことがおこります。それを集約するのが政党、党の公約の役割です。どこかは我慢しなければならないのです。
小泉総理は「郵政改革は官から民への改革の本丸」とおっしゃっているので、小泉自民党の向かうベクトルははっきりしています。また、マニフェストはかつての公約と違い、「都合の良いことの寄せ集め」ではなくなりました。しかし、その他の争点について、与野党の対立が明確にならないのです。
地方分権については、まず、政党の公約に必ず上位に位置づけられるようになったことを、喜びましょう。また、社説や解説でも必ず上位に取り上げられるようになったことも、喜びましょう。
しかし、各紙が書いているように、全ての党が進めると言いつつ、具体論になると明確ではありません。必要だと言われながら分権が進まないのは、反対勢力が強いからです。これを進めるために、具体論が必要なのです。「マニフェストにもっと具体的に書き込み、政権を取ったら実行する」ことが必要なのです。
その点で、小泉総理がおっしゃる「あなた達は、郵政民営化を主張する私を総理総裁に選んだんでしょ」は名言です。

小泉改革

2015年8月28日   岡本全勝
総選挙後の政権について、新聞が様々な予想をしています。誰が選挙に勝つか、政権につくか、政策はどう変わるかです。共通しているのは、小泉政権でないと、郵政民営化が進まないことと、もう一つは三位一体改革が進まないのではないか、という予想です。
前者(郵政民営化)は「官から民へ」、後者(三位一体改革)は「国から地方へ」の象徴です。共通点は、現在の政治権力(旧来型の自民党族議員と各省)を転換しようとするものです。そして、総理のリーダーシップがなければ進まないのです。
違いは、郵政民営化については、官から民へのシンボルであっても、すべてではないとの評価もあります。また小泉総理一人ががんばっている、との見方もあります。それに対し、三位一体改革は、これこそが中央集権を地方分権に変える骨格であり、また、地方団体全体がエンジンになっているという違いがあります。しかも、郵政は特定分野での改革であり、三位一体は包括的・全分野での改革です。(8月9日)(三位一体改革のページ再掲)
今回の解散総選挙で、日本の政治が盛り上がっています。政治が戦いであり、ドラマであることが再認識できます。
政治学的には、総理のリーダーシップ、争点設定、利益団体・族議員対改革、自民党内の意思決定方法、党総裁対議員、派閥の力、参議院の力、参議院と衆議院の解散など、日本の政治を考える「いい材料」です。これまでにない、争点設定とそれを巡る争いです。もっとも、与党対野党でないところが、政治学の教科書と違っていますが。追い追い、今回の政治ドラマを、私なりに解説したいと思っています。
とりあえず、今回の解散と選挙が「郵政民営化を問う選挙」でないこと、与野党の対決でもなく、「自民党を清算する」ものであることについては、8月16日付け朝日新聞「政態拝見」(曽我豪記者)の「二つの解散劇ー半世紀隔て、自民決算の夏」が参考になります。(8月17日)
日本経済新聞社の世論調査(23日付け、日経新聞)では、消費税率引き上げについて、「現在の財政状況を考えればやむを得ない」が16%、『年金財源などに限定するなら仕方がない」が29%でした。合計では45%です。
衆院選で重視する政策課題は、次の順でした。①社会保障問題、②郵政改革、③景気対策、④税制改革、⑤財政再建、⑥雇用対策、⑦教育改革、⑧環境問題。(8月23日)
(マニフェスト検証)
26日に「新しい日本をつくる国民会議」が「政権公約検証緊急大会」を開き6つの団体が、小泉内閣の実績と前回総選挙の際に与党が掲げた政権公約の採点をしました(27日朝日新聞朝刊など)。「小泉首相の改革に取り組む姿勢を評価する点で一致したが、実績には辛口の評価が多かった。自民、公明、民主各党が今回の総選挙で示した政権公約には、具体化を求める意見が相次いだ」
自民党の公約達成度総合評価は、日本総研70点、経済同友会65点、全国知事会60点、言論NPO43.8点、PHP総研32点、構想日本31点です。全国知事会の小泉内閣の実績評価は「国から地方への税財源以上問題が『三位一体の改革』で動き出したことは評価。しかし04年度の実態は地方案とかなり異なり、義務教育など多くの課題が道半ば」です。
政党が検証の対象となりうる公約を掲げ、国民が実績を評価できる時代になりました。日本の政治は、少しずつ動いています。