「社会の見方」カテゴリーアーカイブ

子どものSNS依存の危険性

10月3日の読売新聞が1面で「子供SNS依存 米訴訟増 2000件 仕組み「高い中毒性」」を伝えていました。
・・・子供のSNS利用が深刻な依存を引き起こし、心身をむしばんでいるとして、米国でSNS事業者を相手取る訴訟が相次いでいる。全米の訴訟件数は9月時点で計約2000件に上っており、原告団は「依存性を高める設計により、子供がSNS中毒に陥り、摂食障害や自殺につながっている」などとして、損害賠償や改善策を求めている。

米国では2021年9月、インスタグラムを運営するフェイスブック(現メタ)の内部告発で、SNSが「少女のメンタルヘルスを悪化させる影響を社内で把握していた」ことが明らかになり、メタや、ユーチューブを運営するグーグル、ティックトックなど、SNS事業者を相手取った訴訟が相次ぐようになった。
22年10月、数百件に上る同種の訴訟が「マルチディストリクト訴訟(MDL)」に併合された。その後も訴訟件数は拡大を続け、原告団弁護士によると、今年9月に1961件に達した。
原告側は、SNSが閲覧時間を最大化するよう設計されており、通知機能や次々と表示される投稿が脳内の快感物質の放出につながると主張する。青少年の依存行動を助長し、様々な精神的・身体的被害をもたらしており、SNSは「欠陥製品だ」と訴えている。
米保健福祉省によると、米国では現在、13~17歳の95%がSNSを利用する。原告弁護団のロナルド・ミラー弁護士は、「SNS事業者は、タバコ産業やスロットマシン産業の手法を取り入れ、子供の未発達な脳が衝動を抑えにくいことを知りながら、中毒性を高める仕組みを意図的に組み込んだ」と指摘している・・・

・・・「お姉ちゃんが動かない」。2021年2月、米ウィスコンシン州ミルウォーキーの住宅で、息子から異常を伝えられた父親が子供部屋のある2階に駆け上がると、娘(当時9歳)がドアノブにペット用のリードを引っかけ、首をつった状態で見つかった。娘は搬送先の病院で脳死状態と診断され、まもなく息を引き取った。
痛ましい事故は、SNSで拡散されて子供たちの間で流行していた、首を絞めるなどして一時的に意識を失う行為をSNSに投稿する「ブラックアウト・チャレンジ」挑戦中に起きた。米ブルームバーグによると、こうしたSNS上の「過激な遊び」に影響され、22年11月末までに14歳以下の子供が少なくとも20人死亡した・・・

・・・若者が特にSNSに没頭しやすいのは、感情をコントロールする司令塔的な働きを担う、脳の「前頭前野」が未成熟であることが関係しているとされる。自らの承認欲求がSNSで満たされると、途中で利用を止められなくなってしまうと専門家は指摘する。
米保健福祉省は、2023年に公表した報告書で、SNSを1日3時間以上使う子供は、精神状態が悪化するリスクが2倍になるとの研究結果を紹介し、「SNSの過度の使用は睡眠障害やうつ病などと関連がある」と警告する。10歳代の半数以上が「SNSをやめるのは難しい」と感じているとの調査結果もあり、SNSには強い中毒性がある可能性を示している・・・

空飛ぶクルマは飛ぶか

空飛ぶクルマが、長く話題になっています。大阪・関西万博で予定されていた飛行ができなかったとか。

さて、街の上を飛び交う時代が来るのでしょうか。私は、ないと思います。
機械としては、完成するでしょう。しかし、それが空を飛び交うこととは別のことです。社会に実装するには、大きな問題があります。
・空には、車線がありません。どこを飛んでも良いのでしょうか。想像図には、数台の車が飛んでいる絵が描かれています。1台や2台なら問題ないでしょうが、自動車のように普及したらどうなるのでしょうか。たくさんのクルマが飛び交うと、ぶつかることも起きます。
・空には、信号機も標識も浮かんでいません。ヘリコプターや飛行機は、航空管制でぶつからないようにしています。電波で規制し、制御するのでしょうか。
・ドローンの飛行を見たことがありますが、騒音がすごいです。
・車でも故障することがあります。空飛ぶクルマが故障したら、墜落します。もちろん、それはヘリコプターや飛行機も同じです。少なくとも、我が家の上は飛んで欲しくありません。

空飛ぶクルマと言っても、人が乗って運転するドローンであって、機能はヘリコプターと同じですよね。タクシーのように運転手がいれば、ヘリコプターと変わりません。自分で運転するなら、自家用ヘリですね。
・自動車免許と同じくらいの教習で、免許は取れるのでしょうか。
・離着陸場は、どうするのでしょうか。どこでも良いのでしょうか。駅前などの車寄せやタクシー待機場に、空から車が着陸するのでしょうか。高速道路の途中で、空飛ぶクルマが出たり入ったりしても良いのでしょうか。

西洋優位の根拠が失われた末に

9月28日の読売新聞「あすへの考」、イアン・モリス・スタンフォード大学教授の「揺らぐ米欧「民主主義は最良か」」から。

・・・西洋は19世紀半ば以降、世界を支配し、欧米の白人男性であれば凡庸であっても快適な生活が送れた。しかし21世紀に入り、中国が強大な「世界の工場」になったことで、米国でも製造業の白人労働者らが困窮する事態に陥った。トランプ陣営の標語は、白人男性らの悲痛な叫びでもあるのです。
西洋は西洋が世界を支配する根拠は、紀元前5世紀の都市国家アテネの民主制に象徴される、古典古代文明の卓越にあると主張してきた。ところが第2次大戦後、敗戦国の日本が高度成長を遂げて西欧を追い抜き、世界一の米国に迫る状況が発生する。西洋優位の鍵が古典古代の「卓越」とする限り、日本の躍進は説明できない。西洋優位の根拠が失われたのです・・・

・・・東洋に先んじた理由は古典古代の「卓越」ではなく、地理的条件だ。農耕で先行した約2000年の「時間差」をもとに西洋は西暦6世紀までは優位を維持した。
6世紀中頃、ペストが東西世界で猛威をふるいます。いち早く復興したのは東洋(中国)です。隋の時代の7世紀に運河を整備します。それ以前の世界の主役はローマ帝国で、地中海交易で繁栄した。隋の運河系統は私に言わせれば「中国の地中海」。それを動脈として中国は発展し、以後1200年ほど東洋(中国)が西洋に対して優位を保ち続けます。
・・・世界の交易の主舞台は「海」から「大洋」に移ります。ただ明は対外交易を制限する。中華帝国は既に豊かであり、西欧やアフリカと交易しても大きな利益は望めないと判断した。これが再度の優位逆転をもたらすことになります。
中国から学んだ西洋で大型帆船が建造され、大西洋を渡った先の南北アメリカが新たな富の源泉になる。産業革命を起こした英国が大洋を支配し、北米を中心に植民地を広げ、グローバル化を推進します・・・

・・・私は2010年に、「2103年に東洋は西洋をしのぐ」という説を公表しました。私なりの「社会発展指数」を尺度とした予測で、東西の世界がそれぞれ従来の歩みを続けるのが前提でした。その後の15年の間に不測の出来事が起きました。英国のEU離脱、トランプ大統領の登場、民主主義の後退、ロシアのウクライナ侵略、AI(人工知能)革命などです。
国民国家を枠組みとする近代民主主義は2世紀以上続いてきた。国家経営上、有効だったからです。米欧の民主主義陣営は第1次大戦、第2次大戦、対ソ冷戦にそれぞれ勝利しました。
しかし、米中対立の時代を迎え、米欧で「民主主義は今日も最良の統治制度なのか」「多数決に縛られることなく、強力な為政者が政策を断行する方が有効ではないのか」との自問が続いています。ポピュリズムの台頭やトランプ現象はその表れでもある・・・

従業員を増やす企業、減らす企業

10月15日の日経新聞に「日立、送配電機器部門で世界1.5万人追加採用 AI特需対応へ3割増」が載っていました。
・・・日立製作所は送配電設備の分野で2027年までに1万5000人を追加で採用する。欧米やインドなど世界で開発・生産体制を整備する。電力を大量消費する人工知能(AI)向けデータセンターの増加により、世界的に送配電能力が不足している。電力インフラの増強を支え、AI普及を後押しする・・・

久しぶりに、元気な話題を聞きました。この30年間、企業はリストラを進め、従業員を減らしました。しかし、おかしいですよね。業績が良ければ、授業員を増やすはずです。業績不振で、一時的に従業員を減らすことはあるでしょう。しかし、減らすことを掲げる社長は、それだけでダメなはずです。

コストカットを大胆に進め、「コストカッター」と呼ばれた経営者もいました。高い評価を得たのです。でも、経費を削減することは良いことでしょうが、従業員や設備、研究費は、経費でしょうか。次の製品を生む「元手」、資産ですよね。

終戦は「アメリカが望んだから」

9月26日の読売新聞夕刊「ああ言えばこう聞く」、加藤聖文・駒澤大学教授の「終戦は「アメリカが望んだから」」から。

・・・日本では、8月15日正午、天皇の声を録音した玉音放送が全国に流れ、戦争が終わったという印象が強い。だが、歴史学者の加藤聖文さん(58)は「1945年8月の時点で、アメリカが戦争終結を望んでいたから終わったのであって、昭和天皇の『聖断』は二義的なものにすぎない」と語る。どういうことなのか・・・

――「中央公論」9月号の加藤さんの論考「帝国旧支配地域で続いた戦闘と抑留」には冒頭から驚きました。〈あくまでも戦争終結の主導権はアメリカ〉にあり、〈敗者には主導権も選択権もない〉と書かれていたからです。
加藤 「聖断」が二義的というのは、「絶対国防圏」だったサイパン島が44年7月に陥落した時点で、天皇が決断したら――と仮定してみるとわかります。あの当時はまだ劣勢とはいえ日本がアジア各地を占領していたので、米国は「終戦は、もっと日本軍の占領地を奪還してから」と考え、日本の講和申し入れを受け入れなかったでしょう。
一方、あの段階で日本が講和を申し出ることができたかといえば、これも無理だった。負けは陸海軍の存亡に関わりますから、どこかで一発逆転してから講和しようという甘い見通しをもつからです。

――実際、日本軍は「一撃講和」にこだわり、戦争を続けた結果、東京をはじめ全国各都市への空襲、沖縄戦、広島・長崎への原爆投下と犠牲者は一気に増大しました。
加藤 人と人が殺し合う戦争は、国家によって人間の感情をむき出しにさせられる行為です。冷静になってから、「あの時、ああしておけばよかった」と思ったとしても、頭がカッカしている状態での冷静な判断は難しい。

――しかし、8月15日の玉音放送で、米軍の攻撃はやみ、日本軍の武装解除は迅速に進んだ。二義的というより、かなり重要な役割を果たしたのではないでしょうか。
加藤 もちろん、玉音放送の役割は大ですが、基本は、日本の軍事機能を失わせ、戦争目的はほぼ達成したとアメリカが判断したことが戦争終結の決定的要因で、すでにドイツが降伏(45年5月)し、「ナチをやっつけたから、もう戦争は終わりにしたい」というアメリカの世論もこれを後押ししました。
敗者に主導権がない。それは、長崎への原爆投下の直前、45年8月8日に日本に宣戦布告したソ連軍の攻撃が、玉音放送以降も続いたことでも明らかです。ソ連の目的は、南樺太・千島列島の割譲と満州(現中国東北部)における旧帝政ロシアの権益の確保でしたから、それを確実にするまで攻勢を止めなかったのです。