カテゴリー別アーカイブ: 経済

経済

財政学者の夢・持田先生

持田信樹東大教授が、先日このページでも紹介した著書「財政学」を書かれるに当たっての思いを、東大出版会PR誌『UP』12月号に書いておられます。「混沌から希望への羅針盤」。
・・日本の財政は平成の「失われた10年」の後遺症ともいうべき公的債務残高の塊と格闘している。しかも貧富の懸隔は拡がり、地方は疲弊し、生命を守る医療や老後の安心を支える年金制度にも綻びが目立つ。頼みの綱となる税制はやせ細っているが、負担の問題を真正面から議論することは先送りされている。混沌と社会を覆う閉塞感を払いのけて、希望に満ちた未来へとわれわれを導いてくれる曙光が差してくるのは、一体いつになるのであろうか・・
・・問題の設定の仕方が正しければ、半分は解けたも同然だといわれる。それと同じように、財政の将来を展望するには何よりも現状をトータルに正しく把握することが必要だ。しばしば「大きな政府」か「小さな政府」なのかという形で財政の将来像が議論される。一体、先進諸国の福祉国家と比べた場合に、日本はどのような特色をもつのだろうか。
『財政学』の最終章では、高い福祉需要と低い租税負担という正反対の極の間を揺れ動きながら、財政システムが将来どのように変貌するのかを展望した。書店の本棚で手にする教科書の目次の中に、読者がこのような章を発見するのは稀であろう。
財政学者の夢とは何だろう。・・筆者にとっては、財政学という切り口から現代国家の本質と今後の行方を探ることが夢であり、目標である。そして《福祉国家財政》という観点から、この夢に近づこうとした・・
「学問は、価値判断からは、中立でなければならない」と主張する人もいます。しかし、行政や財政など、現実の社会を対象としている学問において、それは成り立たない、あるいは役に立たない議論になる、恐れがあると思います。

市場経済を成り立たせる条件

日経新聞「やさしい経済学」(経済教室の下の欄)に、中林真幸東大准教授が、「日本の長い近代化と市場経済」を連載しておられます。
明治以降の日本の発展の基礎に、江戸時代の識字率などがあったということは、定説になっています。制度は、文化資本がないところでは、育ちにくく、また「輸入」も困難なのです。
先生は、人がモノを交換すると、満足が増える。しかし、初めて見るモノの品質を、交換前に知ることは容易ではない。どうして、交換による損失を少なくするか。
一つは、長期の取引関係をつくることである。しかし、これでは、見知らぬ相手とは取引できない。自由な経済市場をつくるには、強い第三者に執行を担保してもらう。すなわち、国家をつくるしかない。
として、織田信長から明治時代の、市場経済を成り立たせた要因を分析しておられます。興味深いです。

増税への理解

25日の読売新聞は、社が実施した世論調査の結果を載せていました。それによると、社会保障制度を維持するため、消費税率引き上げはやむを得ないと思う人は61%で、そうは思わない37%を大きく上回りました。
前回2008年7月の調査に比べ、14ポイントも増えたとのことです。詳しくは、記事をお読みください。

持田先生の財政学教科書

持田信樹東京大学教授が、「財政学」(2009年、東大出版会)を出版されました。大学での教科書です。
財政支出において社会保障費を、また租税論の中で社会保障負担を取り上げておられることが、一つの特徴です。近年の財政構造を、反映しています。また、財政赤字と、財政システムの将来として福祉国家を論じておられます。これもまた、新しい時代を反映したものです。地方政府の役割と政府間財政関係にも、1章を割いておられます。
わかりやすい教科書です。私が大学で学んだ財政学は、貝塚啓明先生と林健久先生でした。30年以上も前になるのですね。その後、地方財政を専門とすることも、経済財政諮問会議に関わることも、夢にも思いませんでした。