9月2日の朝日新聞には「中年期の心の危機、僕は48歳で 医師・鎌田實さんに聞く」も載っていました。
「微うつ」歴50年という人気絵本作家・ヨシタケシンスケさんのインタビューを先月、2回にわたって掲載しました。中年期に陥る心理的危機「ミッドライフ・クライシス」。自ら経験し、著書もある医師の鎌田實さん(76)にその症状や対処法について聞きました。
――ミッドライフ・クライシスとは?
発達心理学者エリク・エリクソンの提唱した「ライフサイクル・モデル」では、乳児期から65歳以上の老年期までを8段階に分けて40歳から65歳を成年後期としました。
人生の上り坂から下り坂に入るこの時期に、心や体の変化が表れ、葛藤や不安、焦り、うつなどの心の不調を抱えやすくなります。40代~60代で8割が経験するとも言われて、「第二の思春期」と言われることも。
僕自身は48歳で症状が出て、完全に抜け出すのに4年かかりました。
――何か特別な原因があるのですか?
苦境にある人ばかりではなく、大きな問題がない人にも起こりえます。僕に症状が出たときは、勤務していた公立病院づくりに成功し、人生絶頂の時期でした。
背景にあるのは、キャリア。高い山へと進んでいたのですが、どうもこのくらいの高さかと、見えてきて揺らいでくる。
健康も影響します。体力の衰え、食欲の低下、睡眠の質……。男女ともに更年期を迎えることも要因になる。テストステロンという男性ホルモンは女性も男性の10分の1程度分泌されており、壁があっても壁を壊すチャレンジングホルモンなのです。これが男女ともに低下しやすくなり、元気を失ってしまう。
家庭環境もあります。子どもの受験や巣立ち、介護、夫婦関係の悪化なども要因になります。
振り返ると、ミッドライフ・クライシスは「人生の成長痛」だと思います。
――成長痛ですか。対処法は?
脱皮の苦しみ。言い換えるなら、人生の二毛作ですよ。ひとつは、筋トレ、運動が有効です。男女ともに、重度のうつ以外は運動が処方箋(せん)になります。自分でやれるスクワットやランジ(下半身の筋トレ)をいくつか覚えて実践する。
次世代に目を向けることも重要です。ミッドライフ・クライシスに苦しんだ結果、被災地の子どもたちを救うとか、難民キャンプに病院をつくることなどに目を向けるようになった。
転職しなくたって、生き方を変えるチャンスはある。先が見えた時に、「自分は課長どまりかな」と思ったら、自分のために部長だけを目指していたことから脱皮する。近視眼的な「自分、自分」から脱皮する。すると、自分のやるべきことが見えてくる。
「仕事人間」を見直すことも大切です。仕事への向き合い方を変えてみる。家や職場だけでなく、第三の場所をつくる。