カテゴリー別アーカイブ: 歴史

チャーチル著『第二次世界大戦1』

ウィンストン・チャーチル著『第二次世界大戦』が、完訳版で出版されます。みすず書房から伏見威蕃さんの訳です。
まず、『第二次世界大戦 1――湧き起こる戦雲』が今年8月に出版され、これから毎年1巻ずつ出るそうです。

チャーチル・元イギリス首相は、この本でノーベル文学賞を受賞しました。本人は、ノーベル平和賞を欲しかったそうですが。首相退任後、関係書類を持ち帰る(独占する)ことを許可され、それを元に執筆したとのことです。
20世紀の一番大きな出来事の、当事者の記録です。それだけの価値があります。

私は、河出書房文庫の縮約版で読みました。英語版もいつか読もうと買ってあるのですが・・。今回出版された第1巻だけでも、900ページ近くの分厚いものです。

人類の成長と格差の理由

オデッド・ガロー著『格差の起源 なぜ人類は繁栄し、不平等が生まれたのか』(2022年、NHK出版)を、これまたかなり前に読み終えました。

出版社の宣伝には、次のようにあります。
「30万年近く前にホモ・サピエンスが誕生して以来、人類史の大半で人間の生活水準は生きていくのがぎりぎりだった。それが19世紀以降に突如、平均寿命は2倍以上に延び、1人当たりの所得は地球全体で14倍に急上昇したのはなぜか?
この劇的な経済成長の鍵は“人的資本の形成”だったことを前半で説く。
それを踏まえて後半では、なぜ経済的な繁栄は世界の一部にとどまり、 今なお国家間に深刻な経済格差があるのかを検討する。制度的・文化的・地理的要因に加え、“社会の多様性”が根源的な要因だったと論じる。人類史を動かす根本要因に着目した〝統一理論〟にもとづいて、究極の謎を解き明かした世界的話題作!」

そこにあるように、前半は「何が成長をもたらしたか」を説明し、後半は「なぜ格差が生じたのか」を説明します。壮大な人類の歴史を遡り、この2つの究極の問に答えようとします。問の立て方が良いですよね。それぞれに筆者の説明には納得するのですが、統一理論といえるかというと・・・。

南北朝鮮の経済格差

7月28日の日経新聞に「朝鮮戦争休戦70年、経済力「54倍」開いた南北」が載っていました。

・・・朝鮮戦争の休戦から27日で70年がたった。北朝鮮と韓国の1人当たり国内総生産(GDP)は2021年時点で韓国が北朝鮮の54倍まで開いた。南北間の人の往来も途絶え、統一に向けたビジョンが描きにくくなっている・・・

記事によると、国連貿易開発会議(UNCTAD)の統計によると、1970年の1人当たりGDPは北朝鮮が328ドル、韓国が276ドルで北朝鮮が上回っていました。2021では、韓国が34,940ドル、北朝鮮は644ドルです。
1990年に統一したドイツの場合は、統一前の1人当たりGDPは、東ドイツが西ドイツの40%程度の水準だったとされます。それでも、統一後に格差を埋めることに苦労しました。

徴兵制

7月7日の読売新聞「竹森俊平の世界潮流」「迷走の露 苦肉の徴兵」から。

・・・米国の本格的徴兵制度は1940年に始まったが、ベトナム戦争が長期化した60年代、この制度により米国の若者が自分の意思と無関係にクジ引きで選ばれてアジアの密林の戦場に送られたことが深刻な社会問題を生み、ニクソン大統領は就任早々、徴兵制撤廃を検討した。そうした状況で経済学者フリードマンと米陸軍参謀総長ウェストモーランドとの間で有名な議論が交わされた。
徴兵制をやめれば、金銭目的の貧困者だけが軍隊を目指すという意見のウェストモーランドはこの時、「『 傭兵 』による軍隊を自分は率いたくないので、徴兵制撤廃に反対する」と発言した。
それに対するフリードマンの反論がすごかった。「閣下、それではあなたは『奴隷』による軍隊をお望みですか」。米国自身の存亡がかかっているわけでもない戦争に意思に反して若者を駆り出す政策を、生粋の自由主義経済学者は「奴隷制度」に例えたのだ。

徴兵制度を実施する場合、「自分の意思と無関係に国民を軍隊に送る」ことは回避するべきだという認識は、歴史の中で定着していった。
そのような軍隊は戦闘能力が低いか、ローマ帝国時代の剣闘士の蜂起や1917年のロシア革命のように反乱の温床となるからだ。実際、徴兵された兵士中心の軍隊が誕生したのは一般市民に政治への関与を認め、国防の動機を与えたフランス革命の時だった。
19世紀以降、「敗戦」を経験した国々、1810年代のプロイセン(1806年のナポレオン軍への敗北)、1870年代の日本(1853年の黒船来航)、1880年代のフランス(1871年のプロイセンへの敗北)などでは徴兵とともに初等教育制度が大幅に拡充された。福沢諭吉が「学問のすすめ」で述べた「一身独立して一国独立する(国防の重要性を自分で認識できる知能のある国民がいて、初めて国の独立が可能になる)」という思想を政府が共有し、国民の意識向上の手段として初等教育を見直したからだ。

大経済学者にやりこめられたウェストモーランドだが、「徴兵制撤廃は傭兵による軍隊を生む」という予想は正しかった。1980年代以降、民間軍事会社(PMC)が拡大したのだ・・・

『中華を生んだ遊牧民 鮮卑拓跋の歴史』2

中華を生んだ遊牧民 鮮卑拓跋の歴史』の続きです。
紹介文には、「中国の歴史は、統一王朝時代と分裂時代の繰り返しである」とも書かれています。分裂した諸王国の中を勝ち抜いて、英雄が統一王朝を打ち立てます。ところが多くの王朝で、その安定は長くは続かず、また分裂が始まります。そこから次のようなことを考えました。それぞれ当たり前のことで、言い古されたことですが。

一つは、英雄が一人で安定した権力を作るわけではないことです。
大きな権力のためには、それを支える人、組織、そしてそれを養う資源が必要です。確かに英雄(王や皇帝)がいないとまとまりませんが、彼を支えるたくさんの人がいて、その人たちも権力(部下と組織と資源)を持っています。
別の見方をすると、それら有力部下たちに支えられているのが、王です。王にそれだけの能力とやる気がないと、部下が政治権力を握ります。さらに部下たちがその気になれば、王を廃止して取って代わります。
歴史書はしばしば英雄や王たちの歴史として書かれますが、実質はそのような権力関係から成り立っています。王や皇帝、将軍の系図が載っていますが、初代と中興の祖以外は、どのような功績があったか知らないことが多いです。権力が安定していたら、判断することもなかったのでしょう。

もう一つは、政権獲得、天下統一という目標があるうちは関係者は団結しますが、その目標を達成すると、分裂が始まることです。
権力を獲得する際の要素は、かつては多くの場合に武力です。ところが、政権を取ると、部下たちが武力に訴えては困るので、それを禁止し、秩序を守らせるために例えば儒教を奨励します。政権獲得期と政権維持期では、必要な力と思想が異なるのです。
しかし、政権獲得に参加した有力者や政権維持に参加している有力者は、「俺だって、王のようになれるはずだ」と考えます。隙あらば、自分の権力を大きくすることを考え実行します。ここに、分裂が始まります。