カテゴリー別アーカイブ: 歴史

パリの日本人

鹿島茂著『パリの日本人』(2015年、中公文庫)が面白いです。先生のいつもの軽妙な文体で、しかし明治以来のパリに学んだ日本人を綿密な調査を基に、紹介した本です。後に政治家や作家になった人だけでなく、さまざまな人が出てきます。現在と違い、フランスはとてつもないあこがれの的であり、多くの日本人にとって遠きにありて想うものでした。その中で、長期間にわたり留学した人、そこに居着いた人たちです。
パリの文化や芸術だけでなくパリジェンヌに憧れたことや、金に飽かせてお大尽をしたことが、赤裸々に綴られています。つい最近まで、パリ駐在員の仕事の一つは、日本から旅行に来た人を、「遊ぶところ」に連れて行くことだったことも。お薦めです。

新しい世界史の見方

川北稔著『世界システム論講義―ヨーロッパと近代世界』(2016年、ちくま学芸文庫)が、勉強になりました。2001年の放送大学の教科書が、文庫になったものです。学生時代に習った歴史が、古くなっていることを痛感します。ヨーロッパ中心のものの見方、国家を単位とした見方、先進国に向かって後進国が発展していく歴史、これらが否定されます。
アメリカをつくったのは、勤勉なキリスト教徒だけではないこと。そんなきれい事ではないようです。先進国が工業化される過程で、後進国が低開発国にされたこと。同じ植民地でありながら、北アメリカ北部、南部、カリブ海地域が、違った発展をしたのか。ご関心ある方は、お読みください。面白く読みやすいです。

建築様式に見るモダン、2

私は、建築はもちろん門外漢で、この本に出てくる建築家、建物、専門用語は、知らないことばかりです。でも、たくさんの建物の写真がついていて、話の流れはわかったつもりです。もっとも、本文に出てくる建築物で、写真がついていないものもあり、そこはお手上げです。
私は、この本を建築様式の歴史としてでなく、社会と思想の歴史として読みました。すなわち、モダンとポストモダンは、何を基準にどこで分かれるか。ポストモダンとその次の時代は、何を基準でどこで分かれるのか。その際には、ポストモダンは、何と命名されるのか。日本の戦後とその後の時代は、何を基準にどこで分かれるのか。

建築様式に見るモダン

岸和郎著『デッドエンド・モダニズム』(2015年、LIXIL出版)が、興味深かったです。著者は、1950年生まれの建築家です。この本は、20世紀の建築を対象として、モダニズム(近代主義)と、それへの対抗(ポスト・モダン)を分析したものです。モダニズムが、それまでの装飾を取り払い、機能主義のデザインを持ち込みます。王侯貴族というパトロンでなく、市民や資本家が顧客になります。アパートメントや個人住宅がその象徴です。鉄とコンクリートとガラスが、それを支えます。色でいうと、白です。それに対抗するデザインが出てきて、ポスト・モダンが生まれます。しかし、行き詰まります。
近代は、政治、経済、社会など様々な分野で、それまでの時代を変える大きな時代を画しました。建築様式の世界でも、一つの時代です。「ウイキペディアの解説」。
ところで、その後に来たのは「ポストモダン」です。しかし、「ポスト」と名づけられているように、それは新しい哲学を生んでいません。私が思うに、もう一つ先の哲学・思想・様式が生まれたら、「ポスト・モダン」もそれとの比較で何かの名前をもらうのでしょう。日本の現代史でも、いまだに「戦後」と言いますが、次の思想・様式・政治形態が出てこないと、戦後はいつまで経っても、戦後です。御厨先生が「災後」という名称を提唱されましたが、定着していないようです。

ドイツの自然がつくったドイツ人

池上俊一著『森と山と川でたどるドイツ史』(2015年、岩波ジュニア新書)が、面白いです。内容は、表題のとおりです。先生には、このシリーズに『パスタでたどるイタリア史』、『お菓子でたどるフランス史』があります。ドイツもその延長で、ジャガイモ、ソーセージ、ビールを考えられたようですが、森と山と川を選ばれました。
ジュニア新書なので、子ども向きにやさしく書かれています。しかしそれによって、切れ味良くドイツの特性を描いておられます。高校の教科書や専門書が細かい事実を並べるのに比べ、わかりやすいのです。国家ができなくて民族が先にあったこと、神秘主義が好きだとか、ワンダーフォーゲルが生まれたとか。といっても、カノッサの屈辱やルターの宗教改革なども出てきて、子どもには難しいかもしれません。