カテゴリー別アーカイブ: 報道機関

ジャーナリズムの現状を憂える

大鹿靖明編著『ジャーナリズムの現場から』(2014年、講談社現代新書)を紹介します。ジャーナリスト10人へのインタビューをまとめたものです。現在の日本のジャーナリスト、ジャーナリズムに対する、厳しい批判の書になっています。内容は本を読んでいただくとして、一部を紹介します。
「はじめに」p3~
・・本書の編著を思い立った直接のきっかけは、2011年3月11日の東日本大震災とそれに続く東京電力の福島第一原発爆発事故の取材を通じて感じた今の報道のありようだった。
あのとき記者会見場は、まるでソロバン教室のようだった。つめかけた記者たちは一斉に手持ちのパソコン画面に目を落とし、猛スピードでキーボードをたたいていく。未曾有の大地震が起き、原発が相次いで爆発したというのに、レクチャー担当者のほうに目をむけたがらない。バチバチバチバチ。会見場は一斉にキーをたたく音が反響する。
戦後最悪の災害と人類史上に残る惨事がひき起こされたというのに、記者会見ではこんな光景が日常的に繰り広げられた。東電本店で、原子力安全・保安院で、経済産業省で、そして官邸で。そのあまりに異様な光景に驚いた。メモ打ちのためのキーボードに神経を集中すれば、肝心の質問がおろそかになるのではないか、と思ったからだった。
みなICレコーダーを机の上におき一部始終を録音していた。ならば何もタイピストの真似事なぞ、する必要はないはずだった。どの新聞社も放送局も一社あたり数人の記者が出席しているので、なおのこと、そろいもそろってパソコン打ちをする必要はない・・。
これは、私も気にしていることです。かつて「記者会見、記者の役割」として、質問される側からの不満を書いたことがあります(2012年3月31日)。読んでいただくと、私の主張とそっくりなのがわかるでしょう。たぶん、多くの関係者が、同じ考えにいると思います。

事実の一部だけを報道する

今朝7月15日の産経新聞に、興味深い記事が載っていました。「閣議決定、地方の「支持」鮮明 「反対・慎重」意見書案38議会が否決」です。
・・集団的自衛権の行使を容認する政府の閣議決定に対し、47都道府県議会と20政令市議会のうち、今年に入って38議会が閣議決定に反対・慎重な対応を求める意見書案や請願を否決、不採択としていたことが14日、分かった。意見書の可決は5議会にとどまり、半数以上の議会で政府への支持が表明された格好だ・・
興味深いのは、記事の後段です。
・・集団的自衛権の行使容認に反対・慎重な地方議会については、一部のメディアが今月1日の閣議決定前に盛んに取り上げ、「地方議会で異論相次ぐ」(6月30日放送のNHKニュース)、「地方黙っていない」(毎日新聞6月28日付朝刊)と報じていた。ただ否決した議会の数には触れていなかった・・
う~ん、事実だとすると、かなり意図的な報道ですね。

政策より政局に関心があるメディア

7月13日の朝日新聞、「日曜に想う」、星浩・特別編集委員の「野党よ、再編ゲームより論戦を」から。
・・ところで、政界再編騒ぎのたびに、メディアの報道ぶりを考えさせられる。あまりも大げさに取り上げる傾向があるからだ。みんなの党の山内康一国会対策委員長からこんな体験を聞いた。
民主党や維新の若手議員と安全保障問題の勉強会を続けている。毎回5人から10人が参加。取材する記者はほとんどいなかった。ところが昨年秋、突然、36人の野党議員が顔をそろえた。多くのテレビカメラや取材記者が殺到した。どうやら、維新の議員が「野党再編に向けた会合が開かれる」とメディアにささやいたことで、騒ぎになったらしい。
「野党議員の政策勉強だと関心は持たれないが、再編となると、がぜん注目される。メディアの体質がよく見えました」と山内氏は苦笑いする。メディア側は、純粋な勉強会だと分かった後は取材に来ていないそうだ・・

メディア界の焼き畑農業

7月13日の朝日新聞広告欄のインタビュー「仕事力。手嶋龍一が語る仕事、第3回」から。手嶋さんは元NHK記者です。このホームページでは、『1991年日本の敗北』(1993年、新潮社)の著者として紹介しています2008年1月11日
・・メディアの世界は大きな出来事が向こうから押し寄せてきます。まじめな若者ほど全力を出し切ってニュースに立ち向かう。早朝から深夜までデスクの指示を真に受けて働き詰めです。これではくたびれるだけでなく、知的にも油が切れてしまう。そう「メディア界の焼き畑農業」なのです。でも日本では、干からびると早速前線から放り出してしまう。ジャーナリストがこれほど若くして現場を離れる国は見たことがありません・・
このインタビューには、湾岸戦争開戦前夜、ブッシュ大統領に同行してサウジアラビアに行った際の、ワシントン・ポスト記者の働きぶりも載っています。お読みください。

偏った報道、媚びる発言。復興の真実を伝えて欲しい

復興庁の職員が、災害に関する国際会議に出席して、東日本大震災からの復興状況を発表しました。彼の帰国報告から。
出席者(海外の研究者)の発言、「日本の報道からは、復興が遅れているという印象しか持っていなかった。日本政府がこれほどしっかり復興に取り組んでいるとは、知らなかった」。
日本人研究者の発言「インドネシアでは、3年で住宅が復旧した。日本はようやく着工した程度で、遅い」に対して、インドネシアの研究者は、「住民が自ら周辺の木材を使って家を元通りにしただけ。日本のように、防潮堤や高台移転などの安全対策をしっかり議論した上で住宅を再建していく方が、時間はかかるが賢明だ」と発言しました。
日本のマスコミの偏った報道は、困ったものです。マスコミの人と議論すると、「遅れている点を指摘することが、マスコミの使命」とおっしゃいます。そのような役割はあるでしょう。しかし、進んでいることも取り上げないと、偏った情報は、間違った情報になります。
また、この研究者の自虐趣味も、良くないですね。外国人に媚びを売るのも、悪い癖です。そうすることで、相手国を賞賛しているとでも思っているのでしょうか。学問や研究の世界で媚びを売っても、評価されないでしょう。
インドネシアの津波からの復興への取り組みの方が、日本政府の取り組みより優れていると、本気で考えているのでしょうか。もちろん、インドネシア政府も、復旧に力を入れています。しかし、日本のインフラや住宅の復旧は、技術と言い予算と言い、世界最高級のものです。