中島誠著『社会保障と政治、そして法』

中島誠著『社会保障と政治、そして法』(2024年、信山社)を紹介します。

二部構成になっています。
第一部「社会保障制度を巡る政治的決定の内容(コンテンツ)」は、社会保障制度改革における二大論点、すなわち「給付対負担」と「サービスの供給主体と利用者による選択決定=参入規制、利用者による選択の許容度」を取り上げます。この二つの論点は、永遠の課題でしょう。
公共インフラや国防、治安、衛生といった公共サービスと異なり、社会保障の多くは国民が直接の受益者でありその利益が目に見えるものです。誰がどこまで負担し、どれくらい受益を受けるかが明白です。だから保険制度が成り立つのです。ですが、保険料だけでなく税金を投入することから、それが不明確になります。
そして日本では「(現世代の)受益は大きく、負担は小さく」という要望がまかり通り、保険制度としては成り立っていない、持続可能性が少ない状態にあります。それはひとえに、国民と政治家の選択であり、責任です。隠れた負担は、将来の人たち、すなわち子どもたちに先送りしています。

第二部「社会保障制度を巡る政治的決定の過程(プロセス)」は、その名の通り、日本の政治過程において、なぜこのような決定がなされているかの分析です。そこでは、このような政治を生む日本の風土と政治慣行が分析、批判されます。
「執拗低音としての全会一致志向(議事運営についての全会一致ルール、与野党の攻防)、既得権益の跋扈、同質社会、能力平等観とリーダー育成」
「政治主導(内閣主導)の未確立、決定と責任の所在の不明確性、国会機能の未措定、コンセンサスとリーダーシップ」

このように、前半は社会保障を巡る政治の問題、後半は日本政治過程批判となっています。日本政治過程批判は多くの人(すべての国民といってもよいでしょう)が口にします。本書は、社会保障という全国民が関与する主題を取り上げて、具体的にそれを分析します。政治家だけでなく、このような決定を支持する国民にも、大きな責任があります。

本書の内容を表すとしたら、「なぜ日本の社会保障改革は進まないか」「元厚生労働省官僚による体験的、社会保障政治論」です。お勧めです。
著者が早稲田大学大学院で講義してきたことを、本にしたものです。著者には、『立法学』(第4版、2020年、法律文化社)という専門書もあります。