「自分たちを規制してほしい」起業家

6月6日の日経新聞オピニオン欄、村山恵一コメンテーターの「新種の起業家アルトマン氏 ルールの破壊よりも生成」から。

・・・「大企業や民間部門の代表者がやってきて『自分たちを規制してほしい』と懇願した例を思い出せない」。5月16日、米議会の公聴会に出席した議員は「歴史に残ることが起きている」と語った。
視線の先には、生成AI(人工知能)のChat(チャット)GPTを開発した米オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)がいた。
同氏はこの日、高度なAIの開発や提供にライセンス制を導入するよう政府に提案した。国際原子力機関(IAEA)を引き合いに出し、世界的な規制の必要性にも踏みこんだ。
自社の手足を縛りかねない主張を堂々とする。確かに、そこにはかつてない起業家の姿があった。

異端、独走、破壊……。スポットライトを浴び称賛される起業家は長らく、そんな単語で形容されてきた。規制についても「政府は引っ込んでいた方がいい」というのが基本姿勢だったろう。
「言論の自由の絶対主義者」を自称し、巨額で米ツイッターを買収すると、荒っぽいかじ取りをみせた米起業家イーロン・マスク氏がひとつの象徴といえる。

アルトマン氏はどうか。人より賢い汎用人工知能(AGI)がもたらす恩恵を説く一方、リスクも素通りしない。人類絶滅を危惧する共同声明にも署名した。
しかるべきルールの整備があってこそイノベーションは実現する。そう信じているはずだ。世界の政策担当者との対話に時間を割いている。4月に来日し、5月には欧州の各国を巡った。
「オープンAI株は持っていない。好きだから(この仕事を)やっている」。種類株で支配的な議決権を握る米グーグルや米メタの創業者とはこの点も異なる。
2015年に共同創業したオープンAIは当初、非営利だった。広く社会のためになるAIをつくるためだ。研究開発に費用がかさむと知ると、営利企業の性格もそなえたハイブリッド組織に改め、米マイクロソフトと手を組んだ・・・