官僚捜査案件の見送り

6月25日の朝日新聞夕刊「惜別」、元編集委員・村山治さんによる、熊崎勝彦・元東京地検特捜部長の追悼記事から。

・・・ 1980年代から90年代にかけて東京地検特捜部に通算11年余り在籍した。副部長として金丸信・元自民党副総裁の脱税事件やゼネコン汚職事件を手がけ、特捜部長として旧大蔵省(現・財務省)の接待汚職事件を摘発した。事件の根っこには戦後日本を支えた護送船団システムの劣化があった。そこに切り込んだ特捜検察は、国民の支持を受け、輝いていた・・・

・・・「許せないことがある。10年たったら明らかにする」。熊さんが一度だけ、ぶぜんとした表情で私に語ったことがある。
大物大蔵キャリア官僚が捜査対象に上ったとき、法務・検察の幹部は「官僚システムが壊れる。立件すべきでない」と、現場に圧力をかけた。摘発は見送られ、熊さんはまもなく富山地検検事正に「栄転」した。
不祥事情報をちらつかせて捜査をつぶしたのか、と見当をつけたが、熊さんは何も語らず世を去った。「まあ、いいじゃないか」。梅雨空から熊さんの明るい声が聞こえた気がした・・・