新しい試みに反対する人、後押しする人、実現する人3

新しい試みに反対する人、後押しする人、実現する人2」の続きです。
改革に消極的な人たちを見ていて、気がつきました。彼らは、改革案に反対しますが、本気では改革案の問題点を考えてはいません。
改革案の問題点を挙げる場合に、二つの立場があります。
一つは、その改革案を実現するために、問題点を考えます。その場合は、その問題点を解決することを考えます。もう一つの立場は、改革案を進めないために、問題点を指摘します。

後者の人は、よくよく見ていると改革案に反対なのではなく、変えること自体が面倒なのです。それが証拠に、改革がなされると、改革について引き続き反対論を打つことなくそれに従います。これまでの進んできた方向から例えば10度右に進む改革が行われると、元の路線に戻ろうとは主張せず、そのまま10度右に進む道をまっすぐ進むのです。何のことはない、変えるのがいやなだけです。

改革は、現状維持より労力がかかります。その人たちは「放っておけば何もしなくてもすむのに、何を好き好んで仕事をつくるの」と考えます。そのうちに、それが性格になって、現状維持がおかしいこと自体に気がつかなくなります。
特に頭の良い人が陥りがちなようです。問題点の指摘がすばらしいのです。短時間のうちに、鋭い反対論を考えてくれます。本人も満足し、周囲も「この人にはかなわないな」と思ってしまいます。

私が若いときに、改革案の問題点を指摘してくれる優秀な上司に、頭が良いなあと感心しつつ、釈然としませんでした。その人たちが、問題点の指摘に終わって、その解決方法に知恵を出してくれなかったからです。その人たちに「学者」「評論家」という称号を奉り、相談に行くことをやめました。今なら、はっきりと言うことができます。彼らは、(優秀な)官僚ではなかったのです。

企業では、このような風習が続くと業績が下がり、倒産します。よって、このような性格の人は、排除されます。ところが、役所は「地域独占企業」なので、競争がなく、変化しなくても倒産しません。
この項続く

孤独危機への対応

朝日新聞別刷り「GLOBE」12月号、ノリーナ・ハーツ、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン名誉教授へのインタビュー「孤独危機、背景に新自由主義。つながり再生へ、一人ひとりが動くとき」から。

――孤独は世界的な課題なのですか。
はい。ここ数十年の間に孤独だと感じる人の数が着実に増えています。英国の年金受給者の5人に2人が一番の友人はテレビだと答え、世界のオフィスワーカーの半数近くが職場では1人も友人がいないと考えています。孤独は日本に限った問題ではありません。
――現状を危機と呼ぶ理由は何ですか。
孤独の悪影響が深刻だからです。孤独は心の健康だけでなく、体の健康にも影響を与えます。心臓病やがん、認知症のリスクを増大させ、1日に15本のたばこを吸うのと同様の害があると言われており、公衆衛生の面で社会に多額の経済的負担を生じさせます。

――なぜ孤独が深刻化したのでしょう。
多くの要因があります。まず私たちは、以前より地域の集まりや組織に参加しなくなりました。都市化も要因の一つです。多くの人の中でひとりぼっちのときほど、孤独を感じることはありません。別の主な要因がテクノロジー、特にスマートフォンです。
――どういうことですか。
若者の孤独に大きな影響を与えているのが、スマートフォンとソーシャルメディアです。米スタンフォード大学の調査で、フェイスブックのアカウントを2カ月停止したグループのほうが、使用を続けたグループより著しく幸福感が高く、孤独感が低いという結果が出ました。ソーシャルメディア上の交流の質は、対面での交流に劣ります。対面なら身ぶり手ぶりで伝わることも伝わらず、相手への共感も生まれにくいからです。またソーシャルメディアでは憎悪やいじめが横行し、多くの人が疎外感を抱いています。

――孤独を減らすために何ができるのですか。
政府、企業、私たち個人のすべてに果たすべき役割があります。まず政府は、英国や日本にあるような孤独担当大臣のポストを作るだけでは不十分です。多額の予算や大きな権限を与えなければ、問題解決を期待することはできません。また英国では孤独対策のお金の大半が慈善団体への助成に使われていますが、公共図書館などのコミュニティーのインフラへの投資も必要です。さらに英国などでは、地域の大通りにお店がないという問題もあります。地域の店は人々のつながりを作るために重要です。もし家賃が高いためにカフェやレストランなどができないというのであれば、自治体は地域向けの事業に特別な税区分をもうけることもできます。またソーシャルメディア企業への規制も政府ができる重要なことです。

――私たちが個人としてできることは何ですか。
まず意識的にスマートフォンを置いて、周囲の人たちと対面で向き合う時間を増やすことです。ほかにも地域のカフェやジム、ヨガスタジオなどに実際に顔を出し、地域のコミュニティーを支えることもできます。知り合いに孤独を感じている人がいれば、電話をかけることも大切です。ソーシャルディスタンスを保ちながら実際に会ってもよいし、メッセージを送るだけでも、あなたがその人のことを気にかけていると示すことで、相手の気持ちは大きく変わります。

新しい試みに反対する人、後押しする人、実現する人2

新しい試みに反対する人、後押しする人、実現する人1」の続きです。
若い時は、おかしいと感じた仕事の内容ややり方をどうしたら変えることができるかを、考えていました。そのうちに管理職になり、役割が変わりました。変えるべき課題と方向は、私の方が良く知っています。そこで、職員にそれを指示し、進めることが私の任務になりました。あわせて、部下たちが変更をやりやすいように、彼らの意見を聞き、また後押しをすることも重要になりました。

問題点の発見と改革案の立案は、多くの人ができます。課題は、周囲の反対を突破して実現することです。反対する人や、先送り(これも実質は反対と同じ)を主張する人を、どのように説得するかです。
これは、難しいです。私が若いときに、現状維持派になりかけたのも、組織の風習・社風に染まりかけたからです。そこで、その後も「どうしたら役所を改革志向の組織に変えることができるか」を考えてきました。

若い人は、現状のおかしさに気がつきます。そして改革を試みます。しかし、周囲の理解が得られず挫折を繰り返すと、改革意欲を失います。彼らの芽を摘むのは、現状維持派の周囲と上司たちです。もっとも、その上司たちの多くも、若い時は改革派だったのです。
「役人とは、できないという理屈を考える優秀な動物である」という批判があります。
現状維持派にとって現状がおかしいと思っても、改革案の問題点を一つや二つ上げることは簡単です。さらに殺し文句は「今のままでも、いけるよな」「慎重に検討しよう」です。これで、改革の機運はしぼみます。
この項続く

地方から若い女性が消える

地方から若い女性がいなくなっています。都会の大学に進学した後、戻ってこないのだそうです。数年前に、「消防団員のなり手がいない」と聞いたので、「女性を入れたらどうですか」と質問しました。答は、「勧誘しようにも、若い女性がいない」とのことでした。男性にとっても、結婚相手がいないと嘆いていました。

12月16日の日経新聞夕刊が「増える未婚「若い女性が消えた」」を伝えていました。

・・・日本の未婚率の上昇が止まらない。総務省がこのほど発表した2020年国勢調査を基に30歳時点未婚率(25~29歳未婚率と30~34歳未婚率の平均)を算出すると、男性64.1%、女性52.1%にも上る。未婚化は少子化を加速する。都道府県別に人口構成を分析すると、若い男女の人口バランスが大きく崩れており、結婚したくとも相手が見つからない状況に陥っている。その原因は地方から都市部、特に東京周辺への若い女性の流出だ・・・

・・・気がつくと、若い女性たちが、まちからすーっといなくなっていました――。3月に兵庫県豊岡市がまとめた「ジェンダーギャップ解消戦略」はこんな書き出しで始まる。人口減少と少子化が止まらない。状況分析しているなかで、若い女性の流出超過が課題に浮上した。高校卒業時に多くの若者が市外に進学する。20代で男性は2人に1人が戻ってくるが、女性は4人に1人しか戻らない。若者の流出は足元の人口減少の大きな要因だが、若い女性の減少は未婚率を高め、今後の少子化、将来の人口減少につながると市は強い危機感を抱く・・・
・・・状況は都道府県別で大きく異なる。シングル男性の余剰が最も大きいのは栃木の1.51倍。男性約6.9万人に対して女性約4.6万人にすぎない。以下、茨城1.49倍、富山1.45倍と続く。逆に男女バランスが最も取れていたのは鹿児島で1.03倍、以降奈良1.07倍、福岡1.08倍と並ぶ・・・

・・・なぜ若い女性が東京圏に流れるのか。公益財団法人東北活性化研究センター(仙台市)は20年に地元から出ていった女性らを対象に意識調査をした。よくいわれている通り、高校卒業後に希望する進学先が地元になく、東京圏に進学したとする回答が7割を占めた。ただ、問題は進学先だけではなかった。東京圏に進学を決めた時点で54.5%は「地元に戻る気はなかった」。なぜ地元に就職しないのか。理由の上位に「やりたい仕事、やりがいのある仕事が地方では見つからない」58.9%、「東京圏と比べて年収が少ない」56.1%とキャリアに関する不満が並んだ。
華やかな暮らしへの漠然とした憧れから東京に出て行くのだろう――。そんな甘い見立てが覆った。藤原功三地域・産業振興部長は「厳しい現実を突きつけられた。女性は進学時点で将来のキャリア設計もしっかり考えている。でもその受け皿が地方では限られる」と説明する・・・

新しい試みに反対する人、後押しする人、実現する人1

公務員批判の定番に、前例主義があります。前例のないことは、しないのです。すると、新しい課題に取り組むことが遅れます。
私も、霞が関や県庁で、この慣習にしばしば遭遇しました。新しい試みを考えて相談すると、何人かの人は背中を押してくださるのですが、多くの人は反対します。しかも頭の良い人は、即座にその案の問題点をいくつか指摘して、私の案をつぶしてくれます。没にしなくても、「問題があるから慎重に検討して」と先送りされます。これも結果としては、つぶれたことになります。

課長補佐の時に、その慣習に染まりかけたときです。ある決裁を、E官房審議官に持っていった際に、いくつか違う案を提示されました。私の方が「これまで、これできましたから」と回答すると、「君は柔軟だと聞いていたけど、頭が硬いなあ」と笑われました。E審議官は私の席の経験者なので、「E審議官も課長補佐の時に、このようにされたのではないですか」と反論したら、「おかしいと思っていたんだ。君の時代に変えることを検討しろ」と言ってくださいました。
自席に帰ると、課長が「Eさんから電話があったけど、君のことを『頭が硬い』と笑っておられたぞ」と話しかけてこられました。E審議官は、私を笑いつつ、課長に変更の根回しをしてくださったのです。

以来、自信を持って「改革派」を名乗りました。そのうちに、周囲も「全勝は変えることが好きな奴」「あいつは、じっとしていない奴だ」と烙印を押してくれたようです。褒め言葉でない場合が多かったです。とはいえ、前例通りという霞が関の気風「大きな壁」は、私一人では変えることができませんでした。

総理秘書官になって、総理からの指示で、あるいは総理と相談し、慣習を変えたり、新しいことに取り組みました。もちろん、一気に大きな変更は無理です。そこは心得つつ、総理の意向を背景に、官僚機構に働きかけました。
もう一つは、東日本大震災対応です。千年に一度の大津波と日本が初めて経験した原発過酷事故。前例がないのです。しかも、目の前には47万人もの被災者がいます。「前例がない」「慎重に検討して」とは言っておられません。被災者生活支援本部に来てくれた各省の官僚たちも、知恵を出して次々と新しいことに取り組んでくれました。
中には少数ながら「前例がありません」というセリフを繰り返す人もいました。私はそのような場合には「千年に一度の津波だから、千年前の大宝律令も調べてね」と返しました。もっともそのような人には、この冗談(皮肉)は通じませんでした。
この項続く