イスラエルによるシリア原子炉爆撃2

イスラエルによるシリア原子炉爆撃」の続きです。
イスラエルの諜報機関がつかんだシリアの原発建設。どのようにしてそれを確認するか。アメリカとの連携が模索されます。次に、どのように対処するか。急がないと、完成してからでは、原発を破壊するとユーフラテス川に放射性物質が流れ出て、下流を汚染します。選択肢は、大きく分けて次の3つ。

1 国際社会に訴える。それは正しい方法ですが、シリアの行動を止めることはできないでしょう。建設中の原発に子どもを入れて、爆撃できないようにするだろうと予測します。
2 能力を持っているアメリカに爆撃してもらう。しかし、イスラエルの働きかけに対し、ホワイトハウスはさまざまな検討を行い、結果として拒否します。関係者の意見の違い、アメリカの置かれた立場が、浮き彫りになります。
3 イスラエルが破壊する。しかし、どのようにして敵国奥地までたどり着くか。さらに、そのことによる報復攻撃にどう対処するか。前年に、イスラエル軍は手痛い失敗をしたばかりです。

イスラエル政府内での検討と決定、アメリカ政府内での検討と決定。さまざまな機関と政府高官が、異なる見解を戦わせます。一つの施設攻撃に、これだけもの多面的な検討がなされるのかと、改めて驚きます。そこに、この本の意義があります。
関係者には厳重な箝口令がひかれ、秘密を守る文書に署名させられます。秘密は守られます。秘密が漏れないように、資料はパソコンを使わず、手書きです。もちろん、携帯電話は持ち込み禁止。当たり前のことですが。

翻って、わが国の意思決定はどのようになっているかを、考えさせられます。
戦後70年余り、戦争に巻き込まれることはありませんでした。戦闘行為は2001年東シナ海での北朝鮮工作船撃沈事案くらいでしょう。しかし、北朝鮮と中国の軍事的脅威が現実のものとなった現在では、それへの備えが必要です。また、このような軍事衝突でなく、新型コロナウイルス感染症のような危機との戦いもあります。

その際に、だれに何を検討させるか。これも責任者の大きな決断です。そして異なるさまざまな意見を、何度も議論します。その選択肢をとった場合の利害得失、どのような反応があるかもです。最後に、首相が決断します。
私はそのような政治学として、この本を読みました。日本政府の高官にも、読んで欲しい本です。
イスラエルは、その後、イランの核施設をサイバー攻撃で破壊したとの報道もあります。