「科学技術の現代史」

佐藤靖著『科学技術の現代史 システム、リスク、イノベーション』(2019年、中公新書)が勉強になりました。
第2次世界大戦以降のアメリカを対象とした、科学技術の研究の歴史です。それを、国家、研究組織、社会との関係から分析します。アメリカに限っていますが、この半世紀は、アメリカがほとんどの分野で世界をリードしたので、それで科学技術史になります。

前半は、冷戦期でソ連と競った時代。後半は冷戦後です。
国家・軍備による、原子力、宇宙開発、コンピュータという3つの巨大開発から始まりますが、デタント(東西緊張緩和)とともに、その方向が変わります。コンピュータがパソコンになり、巨大から分散へと大きく仕組みと思想が変わります。一方で、アメリカの経済優位が低下し、科学技術にも経済への貢献が求められるようになります。他方で、科学技術の単純な信仰は終わり、それがもたらすリスクが大きな課題になります。

本書の魅力は、科学技術を、研究者の世界で分析するのではなく、国家との関係、社会の中での位置づけで分析することです。
もちろん、新書の中にこれだけのテーマを書くには、単純化が必要です。そのために、様々なことが「切り捨てられている」と思います。しかし、細かな事実を羅列しても、鋭い分析にはなりません。どのような切り口で整理するかで、評価が問われます。
これだけわかりやすく明晰に分析するには、細部にわたる勉強と、分析の力量が必要でしょう。お勧めです。