働き方改革の意味

11月19日の日経新聞は、働き方改革を特集していました。数ページにわたる特集なので、本紙を読んでいただくとして。中村直文・編集委員の「「働くとは」考える集団へ 会社は個人の力発揮の場に」の一部を紹介します。

・・・働き方改革関連法が成立した2018年は日本経済にとって歴史的な節目の年として位置づけられるだろう。日本企業は方向性が決まると速い。時間短縮、テレワークの普及など数年内に一段と進みそうだ。もっとも働き方改革は形の問題ではない。会社は個人の能力を効率よく、最大限に発揮させる「場」に脱皮できるのか。質的転換のスタートにすぎない・・・

・・・なぜ政府が腰を上げるまで企業の働き方改革が進まなかったのか。原因の一つが高度成長型の製造業モデルが染みついていたからだ。人口が増え、作れば売れる時代、時間をかければ生産性は上昇し、成長を実現できた。
そして同じ場所で目標を一つに働く“チームワーク信仰”も大きい。同じ空間でないと、生産性が上昇しない工場経営の発想だ。経済のサービス化・ソフト化が進んでも、緊密なコミュニケーションの方が競争力がアップするとの見方から「同一空間・同一労働」を重視してきた。

もちろん五輪のリレーチームのように、まとまりこそが日本の競争力という考え方に理もある。だが女性の社会進出、経済のグローバル化に伴い、従来型の“チーム一丸型経営”は通用しなくなっている。ダイバーシティーが求められる今、「日本人はむしろチームワークが苦手」との指摘もある。
同じ空間と同じ発想に依存するのではなく、仕事の成果と報酬がリンクする自律性を持った社員が増えないと働き方改革は頓挫してしまう。アフラックではテレワークによる本社業務の地方展開を進めている。「働く場所にとらわれることなく、キャリアの選択肢を広げる」のが狙いだ。

コミュニケーションは大切だが、会社に行くことが目的ではない。「仕事とは何か」を再定義し、習慣を変える必要がある。顧客の抱える問題を解決し、その見返りとしての利益を得ることが最終目的だ。
例えば清涼飲料の場合、新商品は増えているが、ヒット商品はない。「顧客のため」と掲げ、新商品を乱発しても無駄に終わる。家電、ファッションなど例外ではない。社員の均質的な思考パターンが一因で、横並びの体質が抜けきれない。働き方改革とはゴールにたどり着くためのプロセス刷新、アイデアを多く生む土壌作りなど、新たな場作りに他ならない・・・

自衛隊の生活の知恵

11月16日の日経新聞夕刊「自衛隊「知恵袋」生活の役に 動画解説、若者にPR」から。

・・・冬場に静電気で「ピリッ」とくるのを防ぐにはどうすればいいか――。生活や仕事を効率的にする工夫を「ライフハック」と呼ぶ。ネットで紹介するサイトのなかで評判なのが「自衛隊LIFEHACK CHANNEL(ライフハックチャンネル)」だ。お堅いイメージの自衛隊が手軽な生活術を紹介する意外感が人気を集めている・・・

・・・静電気を防ぐ方法を紹介する動画では、迷彩服の自衛官がかがみ、地面に両手を付けて勢いよく掛け声をかける。「アースよし!」。すると「以上です」とナレーションが入って動画が終わった。拍子抜けする簡単さだ。土や壁などを触るだけで体内にたまる静電気は放電できる。自衛隊は自らの命を守るためにこの知恵を使う。弾薬を扱う際に静電気が発生すると爆発の危険があるため、必ず「アースよし!」の掛け声で地面に手を付くそうだ・・・

・・・それぞれの動画は陸海空の各自衛隊の現場の知恵を募ってつくった。同じ自衛隊でも陸海空で組織が違えば、互いに知らない話が多い。日々の任務などで交流する機会が少ないからだ。陸自のある隊員は海自が情報提供した「船で酔わない方法」に驚いた。船の真ん中付近に座るだけだ。揺れが最も少ないという・・・

へえ、そうなんですね。「自衛隊LIFEHACK CHANNEL」へ。

人は「意味」を食べて生きる存在。山口周さん

11月13日の日経新聞オピニオン欄「ポスト平成の会社像は」。山口周さんの発言から。

・・・コンビニエンスストアを見回すと、役に立つ文房具が少なく、役に立たないタバコが豊富だ。これが今の経済の姿を映している。日本は得意だったはずの「役に立つ」という分野で負け組に転じた。情緒が不要で、「役に立つ」代表だった半導体チップはインテルの総取りになってしまった。これからは「役に立たない」ことでお金を稼ぐ方向にシフトする必要がある。
ビジネスは問題の設定と解決。昭和は不満、不便、不安だらけで、問題を設定する必要がなかった。トップが宿題を出し、それをミドルが解決していく構造だった。しかし問題が外から与えられない豊かな時代は違う。問題を解決する人こそ余ってしまう・・・

・・・日本の大学は実学志向を強めているが、米国で実学に力を入れているのは大学院だけ。ハーバードやスタンフォードなど海外の大学はむしろリベラルアーツを強化している。つまり教養だ。アジェンダシェイプにはリベラルアーツが大事になるということだ・・・

次のような発言も。
・・・リーダーの再定義も欠かせない。「年長者に向かって反論できる心理的な抵抗の度合い」についてオランダの心理学者が「権力格差指標」をつくった。この指標とイノベーションには相関関係があると思う。日本は欧米に比べ権力格差指標が高く、イノベーションランキングは低い。リーダーは権力で支配するタイプではなく、地位と関係なく、他者に奉仕するサーバントリーダーが求められる。

日本には「意味」も足りない。広告代理店に勤務していたころ、働く意欲を失う社員を多く見た。無意味な商品を出すことに嫌気がさすのが理由だった。人は「意味」を食べて生きる存在だ。北海道の炭鉱労働は過酷だったが、精神を病む人は出てこなかったという。エネルギー産業の中心に身を置く炭鉱マンは自負と意味に満ちていた・・・

デザインと設計

11月13日の日経新聞「やさしい経済教室」、鷲田祐一・一橋大学教授の「経営とデザイン」第2回

・・・英語の「design」は直訳すると「設計」になります。しかし近代以降の日本では、主に機械工業や建築業の分野で図面を描いたり機構を考案したりする行為を「設計」と呼び、「design」に含まれるそれ以外の要素は「図案」「意匠」あるいは「デザイン」と呼ぶようになりました・・・

納得しました。私は、新しい仕事を計画する際に、「設計」という言葉を使っています。その前段として、「構想」とも(夢と構想)。
ところが、この文脈で、「デザイン」というカタカナ英語は、使いにくいのです。英語にすれば、designだと思うのですが。日本語でデザインというと、服装や宝飾品の図案であり、言葉での説明でなく、スケッチを想像するのです。

鷲田先生の説明で、腑に落ちました。designを翻訳する際に、設計とデザインと、2つに翻訳したのですね。
Strikeを、ストライク(野球)とストライキ(労働争議)に分けた例もあります。