検査が生む風評?

原発事故による風評被害をなくすために、いろんな取り組みをしています。ところが、中にはジレンマがあります。安全検査です。
福島県産の米は、放射性物質がないことを証明するため、全袋検査を続けています。2014年産米からは、基準値を超える米は見つかっていません。これで安全が証明されているのです。
ところが、「厳重な検査をしているのです」と説明すると、消費者の中には「やはり検査をしなければ危ないのですか」と受け取る方もいるのです。
では、検査をやめるか。もう3年間も基準値超えの米は見つかっていないので、やめてもよいのですが。他方で、「検査しないのですか」という声が出る恐れもあります。
そして、この検査には、多大な労力と費用がかかっています。県では、どのようにして検査を縮小していくか、検討を始めました。福島民友の6月30日の記事

これと同じことは、牛の検査でもあります。2017年3月31日の産経新聞で、平沢裕子記者が「牛肉の放射性物質の独自検査 風評被害恐れ横並びで続く」という解説を書いています。
・・・福島など東日本の17都県で行われている農産物の放射性物質の検査について、国は4月から対象品目や頻度を縮小する。ただ、国の検査とは別に、自治体などが独自に始めた牛肉の検査は平成29年度も続けられそうだ。担当者の多くは「科学的に不要」と考えるが、風評被害の不安や流通業の要求などからやめられない状況が続いている・・・
・・・飛騨牛の生産地である岐阜県も全頭検査を実施。県は、28年度の検査費用約6千万円のうち約4千万円を負担、29年度もほぼ同規模の予算という。農政部畜産課は「この5年間で基準値超は一回もない。検査をやめたいが、検査証明書を求める流通業者もある。他の自治体が続ける以上、うちだけやめるわけにいかない」。
“横並び”の検査が続く中、検査を見直す自治体もある。松阪牛で知られる三重県は検査を外部へ移し、費用負担も行わないこととした。農林水産部畜産課は「検査費用を県が負担することで、実際は必要がない場合でも検査が行われてきた。自己負担なら不要な検査が減るのではないか」と期待を寄せる・・・
・・・「検査をすることが安全対策と誤解している消費者もいるのではないか」
こう指摘するのは、内閣府食品安全委員会フェローの姫田尚さんだ。安全のために大事なのは、むしろ生産・加工の工程管理をしっかり行うことで、検査は工程管理が適切に行われているか、確認するものという位置付けだ。
姫田さんは「自治体が食品の安全のためにやらなければいけないことは他にもある。流通側も生産者に無駄な検査を強いるのでなく、消費者が理解できるよう説明を尽くすべきだ」と話している・・・

この記事には、BSE牛検査についても紹介しています。
・・・BSEの安全対策は危険部位の除去が重要で、検査が安全を担保するわけではない。このため、海外で全頭検査を行う国はなかった。しかし、日本では初めて国内で感染牛が見つかった直後の平成13年10月から20年7月まで、国が検査費用を負担して全頭検査を実施。国の補助が打ち切られて以降も、多くの自治体が独自予算で全年齢の全頭検査を継続した。結局、厚生労働省が主導する形で自治体がこれを一斉に廃止したのは25年6月末。
近畿大の有路昌彦教授(食料経済学)は当時の試算として、BSE全頭検査の直接・間接の費用を約1兆円としている・・・
原文をお読みください。

経済同友会の復興支援

経済同友会の機関誌「経済同友」6月号は、「復興支援活動報告 東北の今とこれから」を特集してくださっています。
経済同友会は、東日本大震災に際し、特に被災地の人づくりや経済活性化を支援してくださいました。「IPPO IPPO NIPPON プロジェクト」は、専門高校に教育用の資機材を寄付してくださいました。
また、被災地での人材育成に力を入れてくださいました。今回の特集は、その報告です。女川町役場や地元企業の職員を、同友会の会員企業が受け入れて研修をしてくださいました。地方の役場や企業には、なかなか経験できないことです。

地域の発展の基礎は、なんと言っても人です。いくら施設をつくってもイベントをしても、それを発展持続する人たちがいないと、続かないのです。
これまでの復興行政や地域振興行政では、十分に力を入れていませんでした。従来の行政手法では、人材育成は限界があります。ノウハウ、支援主体、継続性などです。
今回の同友会の支援は、画期的でした。ありがとうございます。

発掘で分かる災害の歴史

文化庁編『日本人は大災害をどう乗り越えたのかー遺跡に刻まれた復興の歴史』(2017年、朝日選書)を紹介します。これは、「発掘された日本列島展2016」の副産物です。その関連企画として、発掘調査などでわかった大災害からの復興についての講演会をまとめたものです。
弥生時代の洪水、古墳時代の火山噴火、平安時代の貞観地震、中世の戦乱など、「災害列島日本」の歴史でもあります。

東日本大震災は、忘れられていた列島の大災害を、思い出させました。また、復興工事のために、たくさんの箇所で発掘調査も行われました。いろんな新たな発見もありました。全国から調査員が応援に入ってくれました。復興庁も財政面から支援をしました。毎年の「発掘された日本列島展」でも、被災地での発掘は特設コーナーをつくって、解説してもらいました。
これらを、後世にどう引き継いでいくか。これも課題です。

「全勝さんは、発掘が好きですねえ」という人がおられます。私は明日香村出身で、遺跡の発掘を身近に見て育ちました。近所のどこかで、発掘が行われていましたから。官僚にならないなら、考古学者になりたかったのです。小学生の時の「将来の夢」の作文にも、書いたのですが。

『明るい公務員講座』4刷り

明るい公務員講座』の4刷りが出ました。6月30日付けです。引き続き売れているようです。ありがとうございます。内容は変わっていません。
若い人とともに、若い人を指導する立場の人が、読んでくれているようです。
本にも書いたように、珍しいことやびっくりするようなことは、書いていません。多くの職場で、多くの人が、実践していることです。
しかし、若手職員は、きちんと教えてもらっていない。指導する立場の人も、系統だって指導を受けていない。よって、この本を読んで、「そうか、こうすれば良いのか」とか、「私のやり方が正しかったんだ」と安心するのです。

「中級編は、まだ単行本にならないのですか」との問い合わせが、たくさんあります。はい、検討はしているのですが、今は中級編の連載に追われていて、それどころではないのです。しかも、この本が出たのが2月下旬。まだ、半年も経っていないのですよ。焦らないでください(苦笑)。
もっとも、ある読者曰く「全勝さん、最近の連載は中級編を通り越して、上級編になっていませんか」と。そうですね。あれも書きたい、これも書きたいと思って、次々と発展しています。単行本にする際には、組み立てを考えなければなりません。

分解するイギリス

近藤康史著『分解するイギリス―民主主義モデルの漂流』(2017年、ちくま新書)が勉強になりました。
世界を驚かせた昨年6月の、イギリスのEU離脱国民投票。しかし、近藤先生は、これは突然起きたのではなく、以前から進んでいたイギリス民主主義の変質が表面化したものだと分析します。

かつて民主主義のモデルとされたイギリス。そこには、二大政党制、小選挙区制、一体性の強い政党、強い執政とリーダーシップ、集権国家がありました。そしてこれらがよく機能し、国内の政治対立を議会政治の中で処理してきたのです。対立する二大政党は、国民の意識を汲み取るとともに、合意により解決していきます。
日本も、お手本としてきました。1990年代に行われた政治改革は、まさに、小選挙区制、強い執政をつくるものでした。

ところが、いろいろな課題と局面で、この仕組みが機能しなくなりました。EUへの距離感、スコットランドの独立の動きなど。国民の意識が、左右の二大政党と違った形で分裂するのです。
EU離脱なども、保守党対労働党でなく、それぞれの党内に賛否が分かれます。二大政党の得票率は低下し、多党化が進みます。しかし、二大政党と小選挙区制は、さまざまな意見を汲み取ることができません。

次のような趣旨の記述もあります(p124)。
もはやイギリス国民は、階級や左右というイデオロギーの違いでは、投票する政党を決めていない。政党が提示する政策には大きな違いがなく、有権者は合意された政策目標について、どちらの党が効果的に達成するかが選択の基準になっている。
これを、ヴェイランス・モデルと呼ぶのだそうです。

確かに現在では、政党は、主要な政策について、大きな違いを打ち出すことができません。安全保障、福祉について、さほど違った政策は主張できません。福祉充実を訴えたら、その財源はどうするのか。増税抜きで高福祉は無理だと、国民は知っています。
しかし、そのジレンマや閉塞感が、国民を理性的でない判断にも追いやるのでしょう。
EU離脱やトランプ現象も、理性で考える有識者の判断と、感情で投票した多くの国民との違いが、出てきたものだと思います。

これまで安定した民主主義のお手本として、イギリス政治はありました。それがモデルになったのです。では、これからはどうなるか。このような混迷をどのように切り抜けていくか、そこにイギリスはモデルとしての位置にあります。
イギリス政治に関心ある方だけでなく、日本の政治(制度)を考えるには、必読の本です。