「1人政党」と政党の役割

7月6日の朝日新聞オピニオン欄「自民大敗の底流」、宇野重規・東大教授の発言から。
・・・注目すべきなのは、党首が非常に強く、候補者は誰でもよいといった「1人政党」の問題です。安倍晋三首相と小池百合子知事が衆院議員に初当選した1993年の総選挙では、細川護熙さんが日本新党のブームを起こします。その後も、郵政解散の小泉純一郎首相、橋下徹さんの大阪維新の会、今回と続いてきました。これだけ次から次へと1人政党が生まれ、旋風を起こす国は日本だけでしょう。米国で、いくらトランプ大統領がかき回しても、二大政党は残っています。仏総選挙では、「共和国前進」などマクロン大統領の陣営が躍進しましたが、中道政党の結集という側面があり、1人政党とはいえません。
政党は、民意を吸い上げて政策体系、パッケージをまとめ上げる機能と、時間をかけて訓練と選別を重ね、国政を担いうる経験と人格を備えた人材を育てる機能を持っています。1人政党は、そうした機能を放棄し、瞬間風速だけを重視します。そうなると、風を受けたカリスマやスターの交代劇だけが政治になってしまいます・・・

原文をお読みください。

慶應義塾大学、地方自治論第12回目

今日は、慶應大学で地方自治論、第12回の講義でした。
今日は、住民論、住民自治論です。法律の定めによる住民の権利義務の説明とともに、市役所に対する主体と客体の関係を説明しました。主体とは、「主権者」として、選挙やその他の手段を使って、自治体(役所)を統制することです。客体とは、行政サービスの客体となることです。

しかし、これらの説明は、自治体や市役所を「他人」として扱っています。自治であるのは、住民がともに地域をよくしようとすることです。
そこで、近年広がってきている「協働」という概念を説明しました。例えば、町内の道路脇の花壇の手入れです。市役所に要求して市の事業として花壇を手入れしてもらう。市役所は、業者に委託して花を植え替えたり水をまいてくれるでしょう。しかし、町内会が、自分たちの家の前の花壇の手入れを引き受けたら、市役所はその分、手を引くことができます。花の種代くらい補助してもよいでしょう。「私、要求する人。市役所、それに応える人」という発想は、市役所と住民を対立したもの、サービスの提供主体と客体としてしか見ていません。

協働には、もっと広い意味があります。自治会でありコミュニティ、地域自主組織、さらには各種の地域活動です。ママさんバレーボールも、スポーツ少年団も、祭りも、地域での住民のつながりを支えています。自治会という旧来型包括的なつながりから、機能別のつながりが増えてきています。
この対極が、無縁社会です。孤立、孤独死、さらには災害が起きた際に、地域のつながりの強さが見えます。ふだんは「面倒なこと」と思われる近所づきあいも、いざという時は強力な助けになります。
学生からの感想には、「身近なことでよくわかった」という記述が多かったです。

早いもので、これで12週が過ぎました。あと、実質2週間です。

道路建設・管理と鉄道建設・運営との違い

7月1日の朝日新聞オピニオン欄、宇都宮浄人・関西大学教授の「地方鉄道への投資 道路偏重やめ、地域再生へ」から。
・・・私が今春から在外研究で滞在するオーストリアでは、地方鉄道の積極活用が始まった。オーストリアは北海道と類似点が多い。面積はほぼ同じで大都市も少なく、自家用車の普及で鉄道利用者が減り、地方で廃線が進んだ。ただ、今は州政府が中心となり鉄道に新規投資している。
ではなぜ、欧州先進国は赤字鉄道に新規投資をするのだろう。
日本で鉄道への投資というと、財源が問題になる。鉄道は独立採算が原則で、交通分野の公的補助は道路が主体だからだ。国費だけでも道路は鉄道の10倍以上の予算がある。一方、オーストリアは予算配分の見直しを進め、連邦予算で2000年に道路とほぼ同額だった鉄道予算が、11年には道路の2・5倍になった・・・

・・・ 欧州では、鉄道は収益事業とみなされていない。公的な支えが必要な「社会インフラ」と位置づけられている。さらに重要なことは、過度にクルマに依存した社会が環境悪化など様々な問題を引き起こし、生活の質を低下させ、地域を衰退させるという認識を共有している。EUは01年の交通白書で過度な道路依存から脱し、あらゆる移動手段の「バランス」を取ることを目標に掲げた・・・
・・・新たな財源を求める必要はない。道路に偏った公的資金の配分を若干変えるだけでいい・・・

原文をお読みください。
実は、道路ができただけでは、交通手段にはなりません。車を持っていて運転できないと、意味がありません。子供や高齢者、そして飲んだ後の帰りも、バスがないと移動できないのです。施設設備を造っただけでは、便利でありません。
提供者の視点で見るのと生活者の視点で見るのとでは、違ったものが見えてきます。かつては、不足する鉄道や道路をどのようにして整備するかが、一番の課題でした。しかし、ある程度整備され、他方で利用者の減や維持管理を考える必要がでてきました。すると「道路建設行政」「鉄道建設行政」から、それらを含めた「利用者にとっての便利な移動行政」に転換する必要があります。なお、「鉄道建設行政」は、新幹線を残して、「鉄道管理行政」になっています。

明るい公務員講座・中級編28

『地方行政』連載「明るい公務員講座・中級編」の第28回「組織を動かす(2)社風」が発行されました。
前回から、「組織を動かす」に入っています。数人の読者から「中級編ではありませんね。上級編ですよ」と指摘をいただきました。そうですね(苦笑)。でも、このような内容が、活字になったことは少ないでしょう。経験者なら当然のことですが、初心者には迷うことです。そして毎年、管理職の新人が生まれます。その人たちの参考になればと思って、書いています。

同じような組織をつくり、職員を配置しても、有能な組織とそうでない組織ができます。有能な職員が頑張っても、あなたが頑張っても、「組織の壁」にぶつかって、仕事が思うように進まないこともあります。役所の中で、目に見えない抵抗に遭うのです。
それを、仕方ないと思うのか、変えていくのか。ここに、将来、幹部になるあなたの姿勢と力量が問われます。

組織の力を見るとき、分解すると次のような3つの要素があります。一つは、職員一人ひとりの能力です。もう一つは、職員間の意思疎通です。これがうまく行かないと、いくら有能な職員をそろえても、組織としての力が発揮できません。
そしてもう一つが、社風です。新しい仕事に積極的な組織と、慎重な組織、さらには逃げる組織。自由闊達な職場と、上下の決まりが厳しい職場。仕事が終わったら早く帰ることができる職場と、お付き合いで居残らざるをえない職場。このようなそれぞれの組織が持つ癖や伝統が、有能な組織とそうでない組織をつくります。
この社風は、知事や市長が号令をかけただけでは、できませんし、変わりません。
今回の内容は次の通り。
組織の壁、社風という要素、家風・社風・お国柄、復興庁で社風をつくる、意思決定方法の定例化。

慶應義塾大学、公共政策論第12回目

今日は、慶応大学法学部、公共政策論第12回の授業でした。今回は、前回、前々回に出してもらっていた、学生からの質問に答えることから始めました。企業の社会的責任やNPOの限界、安心の保障は国民の自立を妨げるのではないかなど、適確な質問ばかりです。
ほかに、「採用面接の際は何を見ていますか」という問も。これは、私の経験を踏まえて、突っ込んだお話をしました。公共政策論の範囲ではありませんが、実務家教員こそがお話しできる分野です。

本論は、戦後日本70年間の経済成長、社会の変化、暮らしの変化を数字で説明し(経済成長の軌跡)、豊かさが目標だった時代と、豊かになった時代の、行政の役割の違いをお話ししました。
エリートを育てることと、何かのきっかけで落ちこぼれた人を救うことと。これまではもっぱら前者に力を入れていましたが、後者にも力を入れる必要があります。これは、スウェーデンの中学社会科の教科書を見せました。
日本社会の変化とともに、社会の不安と公共政策の範囲が変わってきます。これが私の主張です。

学生諸君
授業中に言及した、戦争を会社に外注することについては、次の本が参考になります。
菅原 出 著『民間軍事会社の内幕』(2010年、ちくま文庫)