カテゴリー別アーカイブ: 歴史

政権の自己評価、中国共産党

中国共産党が、11月11日、第19期中央委員会第6回全体会議で、毛沢東、鄧小平の時代に続く第3の「歴史決議」を採択しました。各紙は、習近平総書記(国家主席)は両者に並ぶ権威を確立したと伝えています。

これについて、12日の朝日新聞は「歴史決議は毛沢東時代の45年、鄧小平時代の81年に続き3回目。45年は結党以来の主導権争いに決着をつけて毛の権威を決定づけ、81年は文化大革命を否定し改革開放への道を開いた」と書き、林望・中国総局長が「政権の自己肯定、にじむ不安」に次のように書いています。
・・・過去の歴史決議が共産党内の主導権争いや路線の過ちをただす自己否定の作業だったとすれば、新決議は習近平氏の権威を高めるための自己肯定の試みである・・・
・・・一方で、強さと正しさを内外に証明し続けなければ今の地位は保てないという政権の不安があることも見逃すべきではない・・・

「歴史決議」には、次のような文章もあります(日経新聞による)。
・・・全会は次のように指摘した・・・中国共産党は中華民族の千秋の偉業を志してから100年で、まさに最盛期を迎えている。過去の100年、党は人民、歴史に優れた答案を出した。今、党は国民を団結させてリードし、第2の100年の奮闘目標を実現する新たな試験に向かう道に踏み出した・・・

インド 西洋への遺恨

11月7日の読売新聞言論欄、歴史家のサンジャイ・スブラマニヤムさんの発言「インド 西洋への遺恨と打算」から。

・・・国民会議派は80年代以降、長期政権の腐敗と疲弊、経済政策の失敗などで衰退し、90年代に入ると権力を掌握できなくなります。
権力の空白を埋めたのがポピュリズム(大衆迎合主義)をテコに伸長したインド人民党です。ヒンズー教の栄えた古代インドを理想郷とし、古代インドは飛行機を発明するなど全能だったという虚妄を吹聴している。同党によれば、インドの不幸は11世紀以降の中央アジアからのイスラム勢力の襲来で始まり、15世紀末のポルトガルの航海者バスコ・ダ・ガマ到来後の西欧列強の侵略で不幸が募り、18世紀半ば以降の英国の支配でどん底に落ちたのです。

ヒンズー至上主義には反ムスリム・反西洋という排他性がある。
インドは英国支配で歴史の断絶を被りました。古代インドは歴史をサンスクリット語やペルシャ語で記していた。英国はそれを「神話・空言」と断じ、インド社会に歴史の概念はないと決めつけた。統治を容易にするためでした。

大衆は過去との真のかかわりを失いました。そこから三つの反応が起きます。まず劣等感、その裏腹の過激な民族主義。次に歴史の忘却。そして冒頭で言及した、西洋に対する遺恨。ありもしない理想郷の再生を掲げるインド人民党が支持される社会心理です・・・

お寺の塔

日本のお寺にある古い三重塔や五重塔。全国に、いくつあると思いますか。
11月3日の日経新聞文化欄に、「古塔を巡って南へ北へ 上層から眺める絶景も魅力」という、浜野孝雄さんの記事が載っていました。
それによると、明治以前に建立された塔は、全国に153もあるそうです。これは、びっくりしました。

奈良法隆寺の五重塔薬師寺の東塔興福寺の五重塔。京都東寺の五重塔などが有名です。創建当時の東西両塔残っているのは、奈良の当麻寺だけです。
奈良や京都だけでなく、各地に残っているのですね。

どの塔も美しく、よくぞ材木を組み合わせてこのような建築物を造ったものだと、驚きます。世界に誇れる日本の美です。

日本の近代産業を率いた人たち

栂井義雄著『日本資本主義の群像 ―人物財界史』 (2021年、ちくま学芸文庫)を読みました。日本の近代産業を率いた人としては、渋沢栄一が有名です。今年のNHK大河ドラマに取り上げられ、本屋にはたくさんの関連書籍が並んでいます。

この本は、渋沢栄一を筆頭に、明治から戦前までの財界人10人を取り上げて、その仕事ぶりを紹介したものです。簡潔にまとめられていて、読みやすいです。冒頭に、財界・経済界がどのようにしてできたのかが解説されていて、勉強になります。
歴史というと、政治家や武士が中心に描かれますが、経済を動かした人たちの役割も重要です。それら以上に、一般の人がどのように暮らしていたか、それがどのように変化したことの方がより重要ですが。こちらの方は、小説やドラマにはしにくいですね。

財界人10人で明治から戦前までの経済を描くのは無理がありますが、大まかな姿や時代の雰囲気が分かります。数字だけでは分からないことです。特に、近代産業が興り、成長する時代です。この人たちが中心になって財閥がつくられ、日本の産業界を引っ張ります。富国強兵・殖産興業を大方針とした政府と軍部の関係も、描かれます。
その後、才能と意欲のある個人が事業を起こす時代から、会社組織になって経営者が育成される時代になります。すると、特色ある個人事業家は少なくなります。

ところで、歴史小説にしろこの本にしろ、多くは成功者の話です。それは面白いのですが、他方で敗者もたくさんいます。それらも書かれていると、時代の動きがより分かり、また勉強になるのですが。それは、難しいですかね。

中東の安定と繁栄

9月18日の読売新聞解説欄、フランスの歴史家ジャンピエール・フィリユさんの「米軍アフガン撤退 「米国の中東」30年で幕」から。詳しくは原文を読んでいただくとして。
・・・米国のバイデン政権は米同時テロ20年を迎え、テロ直後に開戦し、米史上最長の戦争となったアフガニスタン戦争に幕引きをした。米国が20年前に政権から放逐した、イスラム主義勢力タリバンは米軍撤退の混乱のさなか首都カブールを制圧し、政権を奪還した。この 顛末てんまつ の歴史上の意味は何か。フランスの中東史の大家ジャンピエール・フィリユさんに読み解いてもらった・・・

――8月末の米軍のアフガン撤退完了で「米国の中東」は完全に終わった。
「復活はありません」
――米国の残した空白を埋める国はあるのですか。
「米国は圧倒的な大国でした。軍事・経済・金融・科学技術など全てに突出していた。代わり得る国はありません」
「ロシアはシリアのアサド政権の延命に深く関与した。だが真の戦争、つまり『イスラム国』との戦いは米英仏3か国が担った。ロシアは反政府勢力を空爆しただけです。和平を導く意欲はない。シリアは戦争でも平和でもない状況が続いています」
「中国は中東で派手に外交宣伝をしています。対米批判を重ねるばかりで、中東和平の代案を示すことはない。実際は商売最優先です。中国には中東政策がない。展望がない。例えばイスラエルやアラブ首長国連邦で港湾に投資していますが、それで両国が行動を変えることもない」
「世界の大国は中東を足場に立ち現れる。これは私の持論です。つまり中国は世界的大国ではない」
――中東の先行きは。
「第1次大戦後のオスマン帝国の消滅以来、中東は危機の連続です。しかも危機はその都度深刻化している。私の考える根本の原因は、中東の諸政権の『秩序』は民意を反映していない、つまり正当性がないことです。支配層は民衆を飢えさせ、異議を申し立てる民衆を弾圧してきた。アラブ人に限らず、トルコ人もペルシャ人も同様です。民意が尊重されない限り、中東に安定も繁栄も訪れません。暗たんたる思いです」