漢帝国がつくった、中国のかたち

渡邉義浩著『漢帝国―400年の興亡』 ( 2019年、中公新書) が、勉強になりました。
中国を統一したものの、短期間で滅んだ秦の後を継ぎ、途中の断絶をはさんで400年もの間、支配を続けました。漢字や漢民族として、中国の元となっただけでなく、近代まで続く「儒教国家」を作り上げました。本書では、それを「この国のかたち」と表しています。

武帝が儒教を国教とした説は間違いだそうですが、儒学者は、じわじわと政権に取り入り、国教とすることに成功します。
支配者側も、支配を正統化する説明が必要でした。被支配者に納得させ、また支配を継続する説明です。常に武力で人民や豪族を抑えるのは、コストがかかり、かつ難しいです。とても200年も続かないでしょう。そして、国家の基本となった儒教は、統治者、官僚、国民を縛ることになります。その後、2000年にわたってです。

かつては、中国古代史もいろいろと本を読んだのですが、この本が出たときは、「また、通常の歴史書だろう」と思い、読みませんでした。あるところで、時間待ちの必要ができて、買って読み始めました。
すると、戦争や政権争い、事件の羅列でなく、「この国のかたち」がどのようにしてできあがったかを書いてあって、興味深く読むことができました。このような歴史書は、価値がありますね。歴史と事実を、どのような切り口で分析するかです。

「はじめに」も書かれていますが、古代ギリシアとローマが、西欧の古典古代となり、その後の規範となりました。学問、政治、宗教です。
それとの対比で、儒教が規範となり、漢が完成させた皇帝と官僚による中央集権体制が、東洋の古典となりました。もう一つの要素として、仏教がありますが、これは支配の思想にはなり得ません。
儒教は海を渡って、日本社会も縛りました。今もなお、徳目として、私たちを支配しています。父子、君臣、夫婦、長幼、朋友の五倫と、仁・義・礼・智・信の五徳などです。