カテゴリーアーカイブ:政治の役割

歴史をつくるもの、三谷博著『維新史再考』

2018年1月29日   岡本全勝

三谷博著『維新史再考 公議・王政から集権・脱身分化へ』(2017年、NHKブックス)が勉強になります。
明治維新は、徳川幕府から王政に変わっただけでなく、統治身分であった武士階級の解体と平等化、300諸侯による分権・封建的統治から中央集権国家へという社会・政治革命でした。それも、政治的死者は3万人程度と、フランス革命に比べ2桁少ないのです。同時期に行われたドイツ統一では、日本ほど集権は達成できず、連邦国家でした。
私は読みながら、先生の設定した次の視点を考えました。

「ここでは、伝統的な主体中心の記述をやめ、課題の認識とその解決の模索というモデルを使った。維新というと、とかく活躍した特定の藩や個人、そして彼らの敵役に注目しがちである・・・
本書では、19世紀半ばの日本人が気づいた問題状況を再現した後、彼らがどのような課題を設定し、解決を模索したかをたどってゆく。模索の中で課題が修正され、新たな課題も発見される。それに伴って政治的な提携と対抗の関係も再編成される。こうすると、変化が把握しやすくなる。とりわけ、維新のように、個々の時点での変化は微少でありながら、安政5年政変から西南内乱まで20年の間には巨大な変化が生じていたというタイプの変革を理解するには都合が良い。また、この視角を採用すると、政界に登場した様々の主体を公平に評価できるようにもなる・・」(p4)

先生が設定する「認識された政治課題」は、「公議」「公論」「王政」です。これは本書を読んでいただくとして。
幕閣と雄藩、志士たちは、開国、攘夷、尊皇という政治争点を掲げますが、攘夷はあっという間に転向され、尊皇は倒幕を経て武士支配の解体まで進んでしまいます。島津久光が腹を立てるはずです。他方で、負担に耐えかね、自ら統治権を返上する藩主もいました。

徳川慶喜が、自ら将軍職を返上し、最終的には朝敵として政治の舞台から追われます。しかし、その過程では、大大名らによる公議による統治、そしてその盟主を目指し、成功しかけます。それを、薩摩がクーデターと武力挑発で追い落とします。
開国、安政の大獄、長州討伐などの過程で、幕府統治が揺らぎ、ペリー来航から15年で幕府が崩壊します。だれも1853年の時点で、1867年を想像した人はいなかったでしょう。
国際化という社会の動きを背景にしつつ、参加者の思惑が絡み合い、歴史が進んでいきます。
この項続く。

御厨政治史学

2018年1月27日   岡本全勝

東京大学先端科学技術研究センター御厨貴研究室『御厨政治史学とは何か』(2017年、吉田書店)は、御厨貴先生の著書をめぐるシンポジウムの記録です。というか、御厨先生の関係者が、先生の研究について語るというものです。
先生の著作2冊は、『明治史論集』(2017年、吉田書店)と『戦後をつくる』(2016年、吉田書店)です。それぞれ大部で、まだ読めずに本棚で寝ています。

2ページに佐藤信さんが、「実験室の民俗誌」と書いておられます。
・・・科学史には「実験室の民俗史」という分野がある。科学的知見がいかなる環境-機材や資料や人的ネットワーク-のもとで得られたのか問うのである。これになぞらえるなら、このシンポジウムの一面は御厨史学の実験室の民俗史である。八雲の都立大という空間、サロンのような憲政資料室、草創期『レヴァイアサン』の印象など、若い学徒にとってはいずれも貴重な証言である・・・

そうですね、研究の成果は「真空」の空間で生まれるのではなく、研究者の置かれた環境で作られるものです。それは、パラダムといった思考の枠組みや、時代の雰囲気、そして研究室の先輩などでしょう。

先生の発想は、『明治国家形成と地方経営』(1980年、東大出版会)、『政策の総合と権力』(東京大学出版会、1996年)に示されているように、これまでの研究者にない新たな視点、それも包括的な視点です。
私にとって、前者は自治官僚として、後者は「内閣官僚」(各省の官僚でなく内閣官房など霞が関全体を見る官僚)として、重要な本です。それぞれの議論以上に、そのような視点が、勉強になります。前者は「経営」、後者は「総合」という視点です。

塚田富治著『政治家の誕生』

2018年1月24日   岡本全勝

塚田富治著『政治家の誕生 近代イギリスをつくった人々』(1994年、講談社現代新書)が勉強になりました。
政治家(statesman,politician)という言葉が、16世紀イングランドで使われ始めます。政治家が政治の舞台に登場したのです。暴力でなく言葉で統治する時代が始まったのです。国王の部下として、統治を行う。そこには、議会の同意を取り付けなければならないという、イングランド特有の制約条件がありました。
本書では、トマス・モア、トマス・クロムウェル、ウィリアム・セシルなどを取り上げています。
この時代は王政ですが、政治とは何か、政治家の役割・技能は何かを考えさせる良い本です。

塚田富治著『近代イギリス政治家列伝ーかれらは我らの同時代人』を読んで、この本も読もうと思いました(2017年12月24日の記事)。『政治家の誕生』の方が、先の時代だったのですね。
それにしても、このような古本が直ちに手に入るアマゾンは、便利です。

マキャヴェッリ著『ローマ史論』

2018年1月22日   岡本全勝

マキャヴェッリ著、永井三明訳『ディスコルシ ローマ史論』(2011年、ちくま学芸文庫)を読み終えました。文庫本ですが、700ページを越える大部なものです。寝る前の布団の中で、2週間かかりました。
マキャヴェッリは「君主論」が有名ですが、この「ローマ史論」も有名です。「君主論」が君主制を期待するものに対して、「ローマ史論」は共和制を期待しています。戦争論も含まれていますが。多分、分厚すぎて、君主論ほどには引用されないのでしょう。
古代ローマを基に、共和制を維持し腐敗させないための方法を論じています。それは、放っておくと衆愚政治になる民主政を善きものに保つために、現代にあってもそれなりに有用です。

以前から読みたいと思っていたのですが、ようやく達成できました。しかし、2週間もかけて読んでいると、最初の方では何が書いてあったのか忘れてしまいます。
「こんな分厚いものを、よく製本できたなあ」と感心します。3分割しても、1冊は200ページを越え、十分な厚さになると思うのですが。もっとも、文庫本だから、寝転がって気楽に読むことが出来たので、これが大きなハードカバーの書籍だったら、読めなかったでしょうね。

砂原教授、地方議会選挙制度改革

2018年1月18日   岡本全勝

1月17日の朝日新聞に、砂原庸介・神戸大学教授が「選挙制度改革、まず地方議会を。多数派作れず機能不全、野党の組織作り阻む」を書いておられます。

・・・選挙制度改革と言えば、しばしば国政選挙が念頭に置かれる。しかしまず改革が必要なのは地方議会の選挙である。この選挙制度が議会の機能不全をもたらすとともに、国政での野党の統合を阻んでいるからだ。
日本の地方議会の選挙制度は、基本的に選挙区から複数名を選ぶ大選挙区制であり、有権者は1人1票を持った上で候補者を1人選んで投票する。伝統的に日本政治で用いられてきた投票方法だが、議員たちに多くの有権者の支持に基づく多数派を形成させるという観点からは、この制度は深刻な欠陥を持っている。
まずは候補者が個人として選挙を戦うために、自分と考え方が近い候補者がライバルになることだ。そのため、例えば「子育て支援」を訴える候補は、似たような政策を訴える候補より票を集めようとして差異を強調する。同じ子育て支援でも、この地域に特化しますとか、幼稚園よりも保育所に手厚い支援をしますといったアピールである・・・

・・・地方議会の選挙制度に対する現実的な代替案としては、非拘束名簿式比例代表制を挙げたい。個々の候補者への投票を政党ごとに合算して議席配分を行い、政党内での得票順に候補者に対して議席を割り当てる制度である。この制度のメリットは、得票が政党ごとに合算されるので、考え方が似ている候補者が連合を組みやすくなることである。政策の一致する候補者同士が協力することは、地方だけでなく国政でも安定した政党がつくられる基盤となるだろう・・・

的確な指摘であり、提案も現実的です。原文をお読みください。