連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第214回「政府の役割の再定義ー成熟社会にふさわしい政策への大転換」が、発行されました。
政治家が行うべきですが十分になされていないことの一つとして、政策の大転換を取り上げています。
憲法が改正されていないことも、政策の大転換が十分に行われていないことの、一つの表れでしょう。日本国憲法は1946年に公布され、その後80年近く改正されたことがありません。世界の成文憲法の中で、改正されていないものとして最も古いものとなりました。第2次世界大戦が終わった45年から2022年までに、米国は6回、フランスは27回、ドイツは67回、中国は10回、韓国は9回の憲法改正(新憲法制定を含む)を行っています。
近年に改正された各国の憲法は、環境保護、情報公開、プライバシー保護などの新しい人権の規定を盛り込んでいます。日本も事情は同じと考えられますが、これらについて、憲法改正の動きは見られません。
他方で、条文をかなり強引に解釈している実態もあります。社会の変化に憲法が追い付いていないのです。憲法第89条は、「公の支配に属しない教育」への公金支出を禁じていますが、「公の支配に属さない」私立学校の国庫補助が続いています。
また、憲法第24条第1項では「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」すると定め
ています。これに関して、同性婚を認めていない民法などの規定は憲法違反だと訴訟が起こされ、多くの判決は違憲としています。しかし条文を読んでいると、無理があるような気がします。憲法制定時は同性婚を想定しておらず、「両性」と規定したのでしょう。
歴代内閣は政策課題への取り組みを怠っているのでなく、懸命に取り組み、新しい取り組みも次々と打ち出しています。では、なぜそれが効果を上げているようにみえないのでしょうか。どのように変えれば、政策の大転換が進むのでしょうか。そのためには、「課題と政策の整理」と「解決への取り組み手法」を明らかにし、それを評価し変えていくことが必要でした。内閣は、それを怠ってきたのではないかと考えられます。
各府省は、それぞれ多くの政策群を抱えています。それらを実行しつつ、首相の示す「重点」「転換」に取り組むことになります。官僚機構は、与えられた方向でそれぞれの分野での政策を考え、実施することは得意です。しかし、各組織間、各政策間での優先順位付けはできず、政策の大転換もできません。
近年の「官邸主導」も問題です。首相が取り組む重点を絞っていないこと、首相官邸の官僚が各省の活動に口を挟むことから、逆に各省の大臣と官僚がその政策分野においての優先順位の判断ができず、さらには政策を考えなくなっていま。官邸と各省との分担が明示されていない官邸主導は、弊害が多いのです。
首相には、重要課題に集中してほしいのです。首相がいかに忙しいか、首相に考える時間を確保することも首相秘書官の役割であることを、私の経験を交えて説明しました。