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経済

変わりたくない日本企業

日経新聞私の履歴書、10月は、ヘンリー・クラビス(KKR共同創業者兼会長)です。企業買収ファンドの仕組みを1970~80年代に創り、発展させました。業績の悪い会社を買い取り、経営者とともに立て直す。新しい事業形態をつくりあげた苦労は、勉強になります。日本では「ハゲタカファンド」と命名して、忌避した時代もありました。

10月14日は「我慢の10年 変わりたくない日本企業」でした。アメリカ、ヨーロッパで業績を拡大し、アジア、日本にも進出しようとします。しかし、日本では手こずります。
・・・日本企業の風土は「We can’t(できない)」だった。私やジョージ(共同経営者)は反対の「We can(できる)」だ。いつも「コップの水が半分残っている。もう半分を埋めよう」と攻めている。だが会った日本企業のトップからは「変わりたくない」という雰囲気が伝わってきた・・・

 

斜陽の経済大国

9月23日の朝日新聞オピニオン欄に、原真人・編集委員の「斜陽の経済大国 身の丈にあった社会設計、考える時」が載っていました。

・・・日本人は世界のなかで相対的に貧しくなった。国民の豊かさを示す代表的な指標である1人当たり国内総生産(GDP)のランキングからも落ち目なのは明らかだ。
2000年に2位だった順位は第2次安倍政権のころになると円安が進んで20位台まで下がり、23年にはついに過去半世紀で最低の34位となった。これではもはや「世界屈指の豊かな国」とは言えそうもない。
この7月、円は一時1ドル=162円近くまで下がり、37年半ぶりの円安水準となった。その後140円台まで戻したが、コロナショック前の水準には届かない。底流にあるのは世界の中の日本の相対的な地位低下だろう。

日本経済の戦後80年は二つに分けられる。高みをめざして上り続けた時代と、ゆっくりと下りゆく今に続く時代だ。
前半は「日本の奇跡」と呼ばれる飛躍的な戦後復興に始まり、高度成長を経て80年代後半のバブル経済まで。その勃興ぶりを象徴するトピックは折々にあった。
68年、日本はGNP(国民総生産)で当時の西ドイツを抜き西側で第2位に躍り出た。79年、米国の社会学者エズラ・ボーゲルが日本的経営などを分析した著書「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が世界的ベストセラーとなった。
そのころ日本の産業政策や経営は、アジアの途上国にとっての発展モデルだった・・・

・・・私の記者人生は、日本経済が絶頂期を迎えていた80年代なかばに始まった。その後はバブル崩壊、金融危機という激動の時代となる。やがて人口減少と高齢化を伴いながら低成長・低インフレ・低金利が長引く時代となった。
私も含め多くの日本人が勘違いをしたまま、「下る時代」を迎えてしまったのかもしれない。ジャパン・アズ・ナンバーワンともてはやされ、世界第2位の経済がずっと続くという根拠なき楽観に支配されていた。政府も企業もそうした感覚にとらわれ、時代認識や自己評価を誤ってきた・・・
・・・12年末に発足した第2次安倍政権は「日本を、取り戻す」というスローガンを掲げ、財政や金融政策を広げるアベノミクスを始めた。そこで取り戻そうとしたのはどんな日本だったのか。
バブル絶頂期の経済的繁栄や産業競争力を、当たり前のことのように受け止めてきた国民は少なくない。それが身の丈以上の経済や社会保障を求める背景にあった。政治は要望に応えようとし、マスメディアの大勢もそれが当然であるかのように報じた。
その発想が生み出したキーワードが「失われた10年」や「失われた20年」だったのではなかったか。アベノミクスの思想もその延長線上にある。
日本の社会保障は「世界で最も豊かな国」としてのサービス水準が求められてきた。90年度からの33年間でGDPは3割しか増えていないのに、年金や医療など社会保障給付費は3倍近くにふくらんでいる。十分な財政の裏付けがないのに予算は右肩上がりだ。
与野党とも増税のような有権者に嫌われる政策は避けがちだった。その結果が1300兆円にのぼる国と地方の長期債務であり、国債を日銀が買い支える状況だ。世界最悪の借金財政の責任は政治や財務省だけでなく、国民も問われねばならない。
1億2千万人の人口に合わせて整備されたインフラを今後維持していくだけでも大きな負担だ。防衛費や子育て予算を増やす計画もある。人口減少社会の日本がどれもこれもと巨額歳出を続けていくのは限界が来ている・・・

・・・ 斜陽の経済大国にも強みはあるし、生きる道もある。安全で清潔な街、発着時間が正確な交通機関、きめ細かい配慮が行き届いたサービス。世界最多の三つ星レストランに代表される食のレベルの高さ。四季折々の自然に恵まれた観光資源も、海外からうらやましがられる資産である。
製造業の競争力が全体的に後退したといっても、分野ごとには世界で存在感を持ち続ける企業がたくさんある。
こうした強みが経済の活気につながらないのは、ひとえに国内消費の弱さゆえだろう。家計金融資産が約2200兆円にまで積み上がったこととも無縁ではない。資産が増えるのは悪いことではないが、お金が人々のために使われず眠ったままになっているという側面もあるからだ。
もし約2200兆円の1%でも消費に回れば、日本の経済成長率は一気に底上げされる。それには家計金融資産の6割以上を持つシニア層にお金を使ってもらうことが重要だ。
シニア層は老後の暮らしの不安から財布のひもを締めてきた。行動を変えるには、安全網としての社会保障に対する信頼を取り戻すことが欠かせない・・・

アジアでの人材争奪戦

9月12日の日経新聞「サムスン、「ベトナムのMIT」から年400人 厚待遇で」から。

・・・東南アジア諸国連合(ASEAN)で人材争奪戦が激しさを増す。高い成長率に加え、米中対立を背景に供給網の再構築先として東南アジアにグローバル企業が注目。事業拡大を目指して厚待遇で攻勢をかけている。リクルーティングやリテンション(つなぎ留め)の最前線を追った。

ベトナムの首都ハノイ市北西部に、大規模なマンション開発が進むエリアがある。韓国資本が流れ込み、建設現場を囲うフェンスには同国企業の名前が目立つ。
サムスン電子は2022年、この一角に研究開発(R&D)センターを開いた。世界12カ国の拠点と連携し、人工知能(AI)やロボティクスの研究者ら約2500人が働く。目立つのは、デニムやTシャツ姿の若者たち。全国から集った俊英たちの会話には、ベトナム各地の方言が飛び交っていた。
「服装は自由で、いつ働いて、いつ休んでもいい。だから入社したんだ」。トゥンさん(仮名)は同国最高峰のハノイ国家大学で情報工学を学び、R&Dセンターに入った。月収1400万ドン(約8万円)は高給ではないが、手厚いもてなしで研究に集中させてくれる職場が気に入っている。
「グローバル企業だけに、世界の先端技術に触れる機会が多い。専門分野の実務経験を積めて、キャリアパスも明確だ」。理系大学の最難関で「ベトナムのMIT(マサチューセッツ工科大学)」と言えるハノイ工科大学機械工学部のブー・トアン・タン教授はサムスンをこう評価する。
サムスンは同大から年300〜400人の卒業生を採用するという。青田買いにも熱心だ。ある大学では修士課程を対象に半導体の専門知識や韓国語を教え、卒業後はサムスンの即戦力に組み込む優遇策も始めた・・・

・・・東南アジアでは管理職に就くと給料が跳ね上がる傾向がある。人事コンサルティング大手のマーサージャパン(東京・港)によれば、部長職の年収(23年10月時点)は日本の場合が約1920万円。各国で定義は異なるが、ベトナム(約2450万円)などに比べても見劣りする。
「海外では管理職を任せられる優秀な人材の流動性が大きい」と同社の伊藤実和子プリンシパルは語る。優れた社員が集まらなければ日系企業の競争力や現地での存在感が低下しかねない・・・

各国の部長職の年収が、図で示されています。アメリカが30万ドル超、シンガポールが29万ドル程度、中国が22万ドル程度、タイ・ベトナムが17万ドル程度。日本は14万ドル程度です。

最低賃金では、従業員が集まらない

8月30日の朝日新聞に「最低賃金では、もはや人が来ない 観光地、活況でも人手不足 「仕事逃す」時給上げても募集」が載っていました。

・・・全都道府県の最低賃金(時給)の改定額が、激しい引き上げ競争の末に決まった。ただ、最低賃金水準ではもはや働き手が確保できず、最低賃金を大きく上回る時給での募集も目立つ。

全国有数の観光地・奈川県箱根町。今月のお盆期間中、箱根湯本駅前の商店街は国内外の観光客でにぎわっていた。「2019年以降、地震や台風の被害、新型コロナと続いた。ようやく長いトンネルを抜けつつある」。同町観光協会の佐藤守専務理事はそう評価しつつ、「コロナで離職者も多く、今は人手不足が深刻だ」と語る。
箱根町を管轄するハローワーク小田原の求人(6月分)で最も多いのはサービス業で、パートの有効求人倍率は3倍近い。募集時給の下限は平均1311円で、現状の最低賃金(1112円)より199円も高い。
神奈川県の最低賃金審議会は今回、国側の目安通り50円増の1162円に引き上げた。審議の場で、使用者側は大きな不満を述べるというよりも、「仕事が目の前にあっても見送らざるをえないことがある」と人手不足を訴えた。
採決でも、使用者側は一人も反対しなかった。10年度以来、14年ぶりの全会一致だった・・・

Q 日本の最低賃金は他の国と比べてどうなのか。
A 労働政策研究・研修機構の調査によると、先進国の中で低水準だ。1月時点では、日本はオーストラリア、ドイツ、英国、フランスの半分程度で、カナダ、米国、韓国よりも下回っている。

各国の最低賃金(2024年1月1日、円換算)が図で載っています。オーストラリアが2241円、ドイツが1943円、イギリスが1893円、韓国が1082円、アメリカ(連邦)1040円。日本は1004円です。

経済停滞30年の原因私見3

経済停滞30年の原因私見2」の続きです。
この間に、政府は需要拡大のため、毎年のように巨額の財政出動をしました。しかし、日本の経営者が戦っているのは、従来型の公共事業などではなく、新しい産業です。各国が、新しい産業育成のために、なりふり構わず補助金を出したり、規制改革をしたのに対し、日本は出遅れたようです。

もう一つ問題だと思うことを挙げておきます。それは、公務員の削減と給与の据え置き、最低賃金を引き上げなかったことです。
この30年間にわたって公務員数を削減し、給与を引き上げませんでした。小さな政府を目指す方向は正しいのですが、これが長期間続くと日本社会と経済に悪影響を及ぼしました。
景気回復を目指しつつ、給与を引き上げないのです。給与が上がらないと、消費は伸びません。デフレ政策を続けたのです。国家公務員と地方公務員の総数は300万人あまりですが、その家族だけでなく、公務員給与を指標に使っている企業や民間組織もあります。その影響は大きいのです。
これにあわせ、正規職員を非正規職員に置き換えることも進めました。日本の雇用全体では、非正規労働者は全体の4割近くになっていますが、役所にあっても同様の傾向にあります。非正規職員は正規職員より給与は低く処遇も悪く、そして身分が不安定です。政府が先頭に立って、労働者の給与を引き下げ、生活を不安にしたのです。
このように、公務員とその家族、さらには国民の生活を不安にしておいて、景気拡大を唱えても、効果はなかったのでしょう。私も、行政改革の旗を振った一人として、反省しています。

また、最低賃金を引き上げなかったことも問題です。インフレ率を2%にする目標も立て、日本銀行を使って、「異次元」という金融緩和を行いました。なのに、同時に労働者の賃金を下げていたのです。これでは、消費は増えません。必要なのは供給拡大施策とともに、需要拡大施策だったのです。