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経済

デジタル国際収支、5兆円の赤字

1月16日の日経新聞1面連載「昭和99年 ニッポン反転(11)」は「デジタル小作人、米に貢ぐ5兆円 稼ぐ日本「壊」より始めよ」でした。

クラウドなどアメリカの情報産業への依存が高まり、日本の国際収支は5兆円を超えます。デジタル化を進めるほど、アメリカ企業への支払いは増えます。記事ではそれを「デジタル小作人」と表現しています。

・・・クラウドの草分けは米アマゾン・ドット・コム。リスクを取って赤字覚悟の投資を重ね、コンピューターサービスの新市場を創出した。01年にはメインフレーム(大型汎用機)で世界シェア4割を握っていた日本の影はもはやゼロに近い。
日米の明暗を分けた誤算は何か。変化の速さというデジタルの本質を見失った点にある。マサチューセッツ工科大学のマイケル・クスマノ教授は「日本はソフトウエアを製造業として捉えてしまった」と指摘する。

米企業はサービスを運用しながら顧客と対話を重ね、失敗をいとわずに自らの意思と知恵で新たなサービスを素早く作り変えていく。対照的に日本はIT(情報技術)企業が顧客から丸投げされた提案を、忖度しながら作り込む。
顧客に納める以上、ミスは許されない。綿密に擦り合わせるため、時間がかかり技術は陳腐化する。失敗を避けるもたれ合いの構造が生まれ、進化を阻んだ。
オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード博士が開発した国民文化を測るモデルがある。日本は不確実性を回避する傾向がロシアなどに続いて高く、世界で2番目に完璧さを好む国だ。逆に変化を恐れない傾向が顕著だったのは北欧。デジタル競争力ランキングの上位に名を連ねる・・・

判断遅い日本企業

1月5日の日経新聞「「判断遅い」日本企業に警鐘」から。

・・・日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)は2023年に友好協力50周年を迎え、24年は次の50年へ歩み出した。日本企業の東南アジア事業を巡る環境は急速に変わりつつある。日系と多くの合弁を手掛けるタイ財閥サハ・グループのトップは、中韓勢の台頭を念頭に「日本企業の判断は遅く、このままでは競争に負ける」と警鐘を鳴らす・・・

・・・日本企業は長期で信頼関係を構築する傾向があると評価した上で、事業運営では「従来のステップ・バイ・ステップを踏襲しており判断が遅い。(革新の)スピードが速い今の世界には合わない」と指摘した・・・
・・・日本企業の体質を変える鍵として、若い世代の登用を挙げた。「昔の世代は古い考えや経験を重視するが、現在必要なのは若い世代の新しい発想だ」と強調した・・・

松本順さんの地域交通再生

12月19日の読売新聞、松本順・みちのりHDグループCEOの「バスもデジタル化 地域交通再生」から。詳しくは記事をお読みください。
松本さんには、内閣府時代、復興庁時代にお世話になりました。

・・・みちのりホールディングス(HD)は、東日本各地のバス会社などの経営再建を手がけてきた。地域公共交通の「再生請負人」、松本順グループCEO(最高経営責任者)に聞いた。

バス会社は自治体から受け取った補助金を特別利益に計上するのが一般的な会計処理でした。しかし、そうすると本業のもうけを示す営業利益は赤字で、特別利益に補助金が入ってやっと黒字という会社になり、金融機関や市場から信用されにくいのです。
考えてみれば、地域住民の足を維持するための補助金は、公共交通事業委託料ともみることができます。そこで再生を担当したバス会社では補助金を売上高に計上することとしました。
公共交通を維持して補助金をいただくことは恥ずかしいことではありません。事業の委託料として受領して、堂々と路線を維持していこうと。社員の意識改革にもつながりました。
機構はバス会社3社の再生支援をし、このうち九州と関東の2社の事業再生を主担当でやりました。機構のチームの仲間や大企業から火中に飛び込んで来てくれた新たな常駐の経営者、そして現場の社員たちの頑張りに支えられて、交通インフラであり、観光とも深くつながるバス会社の事業再生に一定の成果を上げることができました。社会に必要とされる事業の経営はやりよう次第で立て直せることに確信を持ちました。

機構時代はバス会社を個社単位で再生支援しましたが、持ち株会社であるみちのりHD設立後は一つに集約し、横串を通して最適な経営手法を共有し、個社と全体の組織能力の向上を図ってきました。その効果で短期間のうちに各社の採算は改善し、社員の待遇も向上させることができるようになりました。
地方の中小、中堅企業では、社員が正当に評価、処遇されていない場合があります。みちのりグループでは能力や成果に基づく人事評価制度を導入し、フェアな評価を徹底してきました。そうすると、社員の目の色が変わります。幹部職にも自分たちの仕事は従来の仕組みを守ることではなく、よりよい仕組みに変えることだと。そういう意識の持ち方を促してきました・・・

欧米の最低賃金は時給で約3000円

12月20日の日経新聞「そこが知りたい 2024年を読む」、柳井正・ファーストリテイリング会長の「世界で賃上げ 企業の成長に直結」から。

――かねて日本企業の賃金水準の低さを指摘しています。ファストリは3月、国内従業員の給与を最大4割上げ、10月には中国でもユニクロの販売員を対象に賃上げしました。国際競争力向上に向けた待遇改善をどう進めますか。

「24年春以降も世界で賃上げを継続する。人材抜てきと高額報酬についてはバンバンやっていきたい。経営トップからパート・アルバイトに至るまで人材の質を高めることが一番の経営戦略。そのためには賃上げが不可欠だ」
「欧米の最低賃金は時給で約20ドル(約3000円)だが、それでも人が足りない。中間管理職や上級管理職は日本の3〜5倍の給料で、経営トップなら日本の10倍はもらっている。現状の日本の給料で、どうしていい人材が採用できるのか。2〜3%ほどの賃上げでは状況は変わらない。本当に優秀なら10億円の年俸を出してもいい。そうしないと国際競争に勝てない」

現代の技術は、米国が革新し、中国が模倣し、欧州が規制する

12月20日の日経新聞ファイナンシャルタイムズからの転載、ジョン・ソーンヒル氏の「欧州のAI法、革新を阻害」から。

・・・現代の技術は大抵、米国が革新し、中国が模倣し、欧州が規制するという構図になっている。人工知能(AI)では間違いなく、そうなりつつあるようにみえる。

何カ月もの激しいロビー活動と40時間近い夜通しの交渉の末に、欧州連合(EU)の疲れ果てた政策立案者は8日夜、AIを包括的に規制する「AI法」について大筋合意に達した。そして、大きな変革をもたらすAI技術を規定する世界で最も包括的な法案だと賞賛した・・・だが、大西洋の向こう側からは、AI法をあざ笑う声が聞こえてきた・・・

情報通信技術が急速に進化し、便利になり経済を活性化する反面で、多くの災いも生んでいます。どのように規制するか。難しい問題です。しかし、遅れると被害が拡大します。
他方で、この記事が指摘するように、技術開発と規制は、各国の競争とも関係します。規制しすぎると、緩やかな国に負けてしまう恐れもあるのです。
この記事の冒頭には、日本は出てきませんが、どのように進めるのでしょうか。