カテゴリーアーカイブ:政治の役割

リーマン・ショックから10年

2018年9月22日   岡本全勝

アメリカの大手証券会社リーマン・ブラザーズが経営破たんしたのが、10年前の2008年9月15日でした。これを機に、国際的金融危機・経済危機が起きました。日本では、リーマン・ショックと呼んでいます。世界では、金融危機と呼んでいるようです。
各紙が、特集を組んでいます。その当時を振り返るとともに、現時点での潜在的危機に言及している記事が多いです。

100年に一度といわれるほどの、危機でした。アメリカの一企業の倒産ではなく、世界の金融システムを揺るがすような、また世界経済を凍らせるような危機でした。
事の起こりは、サブプライムローンという信用度の低い住宅ローンを、「金融工学」と称する手法で形を変えて売りまくったのです。その信用度が下落して(ばれて)、貸したお金が引き上げられました。それが、ほかの融資にも影響し、雪崩を打ったように金融収縮が進んだのです。
多くの金融機関は、信用に基づいて金を集め、金を貸しています。所有しているお金以上に、貸し出しているのです。「預けている金を返してくれ」という動きが加速すると、金融機関は破たんします。預金は下ろすことができなくなり、金を借りている人たちも、事業ができなくなります。
これが、金融機関1社にとどまらず、ほかの金融機関に連鎖します。それが、金融システムを揺るがす危機だったのです。それは、実物経済をも収縮させます。

「1929年の大恐慌の再来」と、うわさされたのです。あの恐慌を繰り返してはいけない。その経験を踏まえて、対策を打とうとなったのです。
アメリカは震源地ですが、ちょうど大統領の交代(ブッシュ息子からオバマへ)時期で、迅速な身動きが取れません。ヨーロッパ各国は、サブプライムローンをたくさん抱え、これまた身動きが取れません。
この項続く

「時代の証言者」佐々木毅先生

2018年9月15日   岡本全勝

読売新聞連載「時代の証言者」、9月13日から、佐々木毅先生の「学問と政治」が始まっています。

・・・平成時代の政治改革は、国民が政権を直接選ぶような仕組みに変えようとしたものです。それは我々の権力を我々が作るという話につながる。それまでは、有権者が政治家にお任せし、政治家が面倒を見る政治でした。自民党の一部政治家は、白紙委任を受けたようにパターナリズム(家父長主義)の行動様式をとっていました。それは官僚制優位と結びついてもいた。背景にあったのが戦後の高度成長で、面倒を見ることが現実に可能でした。
平成デモクラシーは、バブルの崩壊から始まっています。面倒を見るための原資が枯渇する中、ない袖は振れない。政策の良しあしを含めて国民に選んでもらうしかないという意味で、政治家の間に、国民との間合いの取り方についての感覚の変化があります・・・

・・・政治学の仕事は権力の様々な側面を分析することですが、一番大事なのは、権力を作った市民と権力との関係をどういうふうに継続的かつ生産的なものしていくか。権力をただ褒めたたえればいいというものではないし、権力を悪そのものだとひたすら批判すればいいというものでもない。
一つの絶対的な良い権力と、絶対的に恐ろしい権力という二つの極端なモデルについての思考実験を、人類は繰り返しましたが、中間のところでせめぎ合いをしているのが政治権力と人間の関係ではないか・・・

佐々木先生の専門は、政治思想、特にヨーロッパ古典研究です。政治学の教科書『政治学講義』(第2版、2012年、東京大学出版会)も、洗練された抽象度の高いものです。
しかし、学問の世界・形而上学の世界に閉じこもることなく、日本の現実政治について発言を続けてこられました。1980年代の中公新書などの著作です。そしてその後「平成の政治改革」に関与してこられました。
広い知識と深い思想に裏打ちされた発言です。もちろん、現実政治と政治改革は「理想」通りには進みませんが、単なる思いつきやその時に「国民に受ける」発想では、良いものはできません。
東大法学部ではもうお一人、西尾勝先生が「平成の分権改革」に参画されました。

政治への信頼

2018年9月4日   岡本全勝

9月3日の日経新聞オピニオン欄、ファイナンシャル・タイムズのジャナン・ガネッシュさんによる「米の政治不信、発端は」から。

・・・米調査機関ピュー・リサーチ・センターによると、1960年代までは米国民と指導者の間にはべったりと言っていいほどの信頼関係があった。ジョンソン大統領がベトナムに地上軍を送り込む前年の64年には、政府を信用していると答えた国民が約77%いた。ところが10年後にはその半分以下となる。80年代に入る頃にはさらに減り、昨年は18%にとどまった。
米国の戦後史で断絶あるいは変曲点があったとすれば、ベトナム戦争だろう。国外での殺りくと国民同士の憎しみはトラウマを残した。それに比べて金融危機は、少なくとも政府への信頼度にはさほど大きな影響を与えなかった・・・
・・・政府はあの戦争で戦術的な無能さから戦況に関する嘘まで、負の側面ばかりが目立った。人命の損失も深刻で、国内の空気は険悪になった。街の至る所でカウンターカルチャーと反カウンターカルチャーの衝突が発生。ベトナム戦争をテーマにした映画「ディア・ハンター」などが大ヒットした。こうした流行は移り変わったが、かつて信頼していた政府への幻滅は消えず、むしろ強まった・・・

政府の信頼度、年金保険料納付率

2018年7月31日   岡本全勝

内閣の支持率などが、毎月のように報道されます。一つの参考にはなりますが。どこまで回答者が「本当のこと」を答えているか、疑問があります。選挙前に聞くと、「関心がある」「投票に行く」と答える人が多いですが、実際の投票率は、そんなに高くないこともあります。

このような世論調査でなく、国民の本音が出ている「指標」があります。例えば、国民年金の保険料納付率です。7月24日の読売新聞に、石崎浩・編集委員が解説しておられました。「国民年金納付 実質4割」。
国民年金は自営業者など、会社や役所に勤めていない人の年金です。強制加入です。
2017年度の納付率は、66%です。2011年度が最低で、59%でした。少し上がっています。しかし、1990年代半ばまでは、80%を超えていました。
もっとも、この解説では、この数字にはマジックがあると説明されています。貧しいなどの理由で、保険料納入を免除さえている人がいます。仮に、この574万人を計算に入れると、納付率は40%まで下がります。

それはさておき、保険料を納めないと、年金はもらえません。納めると、将来に年金給付として返ってきます。しかも、税金を投入しているので、かけた保険料よりたくさん戻ってきます。
しかし、「国営保険」が信用できないとして、納めない人がいるのです。政府の信用度が現れています。もちろん、その他の理由もあるでしょうが、少なくとも「貧乏で納められない」人は、先に述べたように免除されています。

80%あった納付率が、1990年代半ばから急速に低下しています。先日紹介した、自殺者が3万人を超えたのが、1998年です。バブル崩壊後、日本社会は確実に変わりました。
厚労省の資料では、年齢別の納付率も出ています。p5の図4と図5です。40歳以下の年齢で低くなっています。20代前半が高いのは、大学生が多くて免除されてるからでしょう。

北岡伸一先生、明治維新と戦後の経験を世界に

2018年7月5日   岡本全勝

7月3日の日経新聞経済教室は、北岡伸一先生の「明治維新150年の日本 発展・民主化の経験 世界に」でした。

・・・今から50年前、明治維新100年が祝われたころ、学界では明治維新を高く評価する人は多くなかった。フランス革命やロシア革命に比べ、明治維新は不徹底な革命だという人が多数派だった。
だが今やロシア革命を賛美する人はほとんどいないし、フランス革命についても評価は高くない。徹底した破壊は反動を呼び起こし、また徹底した弾圧をもたらすことが多い。明治維新は比較的小さな犠牲で、死者数も3万人以下とフランス革命やロシア革命より2~3桁少ない。さらに伝統の本質的な部分を破壊することなく、大きな変化を次々と断行し、全体として巨大な変革を実現したのである。

その本質は何だったのか。
明治が終わったころ、多くの人が明治時代について論じた。当時28歳だった石橋湛山は次のように述べている。多くの人は、明治時代を軍国主義的発展の時代だったとみるだろう。しかし自分はそうは考えない。これらの戦争は、時勢上やむを得ず行ったものである。その成果は一時的なものであり、時勢が変わればその意義を失ってしまう。
そして石橋は、明治時代の最大の事業は戦争の勝利や植民地の発展ではなく、「政治、法律、社会の万般の制度および思想に、デモクラチックの改革を行ったことにある」(「東洋時論」)と言う。
私は石橋の議論に強く共感する・・・

・・・偉大なのは日清・日露の勝利でなく、勝利できるような国力を蓄えたことだ。維新から日清戦争までは26年、日露戦争までは36年にすぎない・・・
・・・明治維新と比べれば、冷戦終結以後の日本の停滞の根源も明らかだ。規制改革の声は高いが、多くの既得権益はそのままであり、海外の事物の導入にも消極的で、一時しのぎで取り繕ってきたのがこの二十数年の歴史だった。
さて石橋は先の論文の中で、明治の意義は未曽有の東西文明の接触の時期にあたって開国と民主化を進めたところにあるとして、その意義を世界に広めるために明治賞金をつくろうと提唱していた。
確かに明治維新は、世界史的な意義を持つものである。

私はかつて国連大使として世界の紛争に関する議論に参加し、現在は国際協力機構(JICA)理事長として、途上国の発展に関わっている。そのたびに痛感させられるのは途上国の発展の難しさだ。国民統合を維持し、経済的、社会的、政治的に発展することがいかに難しいか。経済発展まではできても、そこから民主主義へと発展していくことがいかに難しいか。
従って多くの途上国にとって、非西洋から先進国となり自由、民主主義、法の支配といった近代的諸価値と伝統を両立させている日本という国は、すごい国なのである。
日本は戦前とは違い、軍事大国ではないし、経済大国としても一時の勢いはない。しかし先進国への道を歩み、伝統と近代を両立させてきたことでは、世界に並ぶ国がない。
この経験を、道中での失敗の数々とともに、世界と共有することが、日本が世界に貢献する最大のものだと思う・・・