カテゴリー別アーカイブ: 明るい公務員講座

明るい公務員講座

連載を振り返って4

体験談を文章にするのは難しい

なぜ、これまでこのような本がなかったか。
連載で書いたことは、学問的研究で発見されるような「大それたこと」ではありません(研究の対象になるとは思いますが)。そして、学者や研究者は、職場での経験をしていません。経験談は書けないのです。

経験者なら書けるか。そうでもないのです。
先輩も、見よう見まねで身につけたので、理屈としては理解していません。体験談として具体事例は語ることができるのですが、それを普遍化して文章にするのは、意外と難しいです。だから、飲み屋で後輩たちに体験談を語ることはできても、研修所で話すとなると、何をしゃべったらよいか苦労するのです。

私もすべての職場、すべての場面を経験したわけではありません。しかし、多くの公務員より、幅広くまた難しい仕事を経験しました。
一つは、県庁と中央省庁で、さまざまな職場を経験することができました。そして、平職員から課長、そして総務部長や事務次官まで経験しました。
もう一つは、その過程で、むつかしい事案も経験しました。よい上司とともにそりの合わない上司に仕え、素晴らしい部下と困った部下を持ちました。自らも仕事に悩み、悩む職員を見てきました。
この世界で、他の人より少し広い経験をした私が、書いて伝える価値はあるだろうと思ったのです。

また、山登りに例えてみます。
もし、頂上までのまっすぐな一本道があったとして、それを登った場合。あるいは、ロープウェイで頂上まで運んでもらったとしたら。それでは、いろんな登山道を上る人たちの苦労は分からないでしょう。いろんな道を歩き、迷ったり、苦労したことが、後輩たちに助言をできる蓄積になりました。

連載を振り返って3

体験で得たことを伝える

連載に書いたことは、経験者なら知っていることばかりです。私の経験と、そこで考えたことを文章にしただけなのですから。

仕事の経験を、山登りにたとえてみましょう。
初心者にとって、初めての登山は、どの道から登ったらよいのか、この先どんな場所が待ち受けているのか、そして頂上はどこかがわかりません。それに対して、登ったことのある経験者は、どの道を上るとどこに行くか、そして途中には何があるかを知っています。岩場があったり、川を渡るとかです。そして、どの程度の時間と労力をかけると、どこまで到達するかです。

歩いている途中でも、全体の何合目にいるのかがわかりません。先輩に聞けば教えてくれます。「先達」と呼ばれます。初心者にとって、先達はありがたいです。
「少しのことにも、先達はあらまほしき事なり」(徒然草第52段)。

その先達の知識を地図にする。初心者がそれを読めば、登る前に一通りの知識を得ることができます。すると自信を持って登ることができます。登っている途中で迷ったときにも、今どのあたりにいるのかがわかるのです。
この本は、それを目指しました。

連載を振り返って2

物足りなかったビジネス書

この連載の目的は、公務員が仕事をするに当たっての基礎知識を文章にすることです。「職場の作法の教科書」を作りたかったのです。

本屋には、たくさんのビジネス書が並んでいます。私も若くして管理職になったことから、また立派な官僚になることを目指して、その類いの本をいろいろ読みました。それぞれ勉強になりました。
古典に学ぶ指導者像には、「なるほどこのように振る舞うのか」と勉強になりました。もっとも、あるページには「虎穴に入らずんば虎児を得ず」と書いてあり、別のページには「君子危うきに近寄らず」と書いてあります。「どっちやねん?」。
手紙の書き方や人前で話すコツなど、身につけておかなければならない技能も勉強になりました。

しかし、このような処世訓、指導者論、ビジネススキルでは、満足できませんでした。私が職場で悩んだ際に、役に立たなかったのです。私が知りたかったのは、それらの本の前に、職場での仕事の進め方、お作法です。
ナポレオンや西郷隆盛の指導者論、松下幸之助やビル・ゲイツの経営論もよいのですが、そのような立派な人でなく、普通の勤め人の悩みです。それは、悩んだときの解決方法、そもそも何に悩んでいるか分からなくて仕事が進まないときにどうするか、仕事の進め方、時間の割り振りなどです。

仕事をするに当たっての基礎となる教科書、それらの本の入門書が欲しかったのです。
「偉人に学ぶ仕事術」ではなく、「普通の人ができる仕事術」です。この内容は、公務員だけでなく、勤め人一般に通用すると思います。

連載を振り返って1

「私の目指したもの」
連載「明るい公務員講座・中級編」を書き終えて、ほっとしています。2年間も続けたのです。執筆を振り返って、思っていることを書いておきます。

この連載の趣旨は、「後輩たちに同じ悩みをさせず、楽をしてよい仕事をしてもらう」です。

「先輩のやっていることをみて覚えよ」「体験して身につけよ」というのが、これまでの多くの職場の流儀でした。私も公務員になった駆け出しの頃、そして課長になったとき、それぞれの場面で「新人」でした。体験して悩み、失敗を重ね、先輩に教えてもらって身につけました。
そしてたどり着いた結論は、「みんな同じようなことに悩んでいる」ということでした。そこで、後輩たちが、無駄な悩みや苦労をしなくて済むように、私が経験で得たコツを活字にしたのです。

経験者から見ると、初心者はつまらないことで悩んでいます。すると、新人には、「私も経験して覚えたんだから、あなたも経験して覚えなさい」と言うより、「この本を読んで勉強してね。分からないところがあったら聞いてね」と言う方が、効率的です。
ところが、案外このような教科書はないのです。ビジネス書はたくさんあるのですが、処世訓やビジネススキルであって、「仕事の基礎の教科書」はないのです。

私の目指したものは、次のようなことでした。
1 職場で仕事をする上での基礎知識を伝える。
2 知識の羅列でなく、体系化する。
3 わかりやすい読み物とする。
4 抽象論でなく、私の体験に基づいた、実例を入れた実践的なものとする。
次回以降、順次説明しましょう。

明るい公務員講座・中級編40

『地方行政』連載「明るい公務員講座・中級編」の第40回「発想の改革(3)課長が決める」が発行されました。
これまで、生産性を上げるために、無駄を省くことや、進まない仕事を進める方法をお教えしました。今回はさらに一歩進めて、仕事の仕方を変えることを書きました。

残業を禁止したら、効率が上がるか。そんなことはありません。締めきりまでにできあがらなかったとか、持ち帰り残業が起きたりするでしょう。
仕事の仕方を変えない限り、効率的にはなりません。その一つが、課長が仕事を管理することです。
その反対が、部下任せにすることです。ひどい課長は、部下に任せながら、締めきりが近づくと「まだできていないのか」と部下を叱り、そのころになって細かい点にくちばしを挟みます。そして部長に説明した際に不備を指摘されると、部下を叱る・・・。
よい課長は、目標と段取りを部下に示し、途中で進行管理をし、80%の出来で部下の成果物を引き取り、後は課長自らが完成させる、です。

今回の内容は次の通り。
外からの圧力と内からの改革、業務の減量と仕事の流儀の効率化、あなたは課長の仕事をしているか、
役所の間違った常識、変革期の課長、課長が決める。1仕事の分別―誰に何を任せるか、2指示―目標と段取りを示す、3進捗管理―一人で抱えさせない、4結論―あなたが決める。よい課長と悪い課長。