カテゴリー別アーカイブ: 報道機関

インターネット記事の信憑性

10月14日の朝日新聞オピニオン欄「津山恵子のメディア私評」「偽情報に揺らぐ米 ニュースの信頼性判断、AIが一役」から。

・・・米ヤフーは今年9月6日、人工知能(AI)を使って、ニュース記事の信頼性をランク付けするウェブサイト「ザ・ファクチュアル(The Factual)」を買収したと発表した。米国では、フェイクニュースや陰謀論の蔓延(まんえん)に加え、主要メディアに対する米市民の信頼が過去最低となるなど、流通する情報が信じられていない。米ヤフーは、「ヤフーニュース」に掲載する記事に、ファクチュアルを使ったランク付けを加え、記事の信頼性を判断するのを助ける狙いだ。
 ファクチュアルは、2019年に始まり、1日に1万本以上の記事をランク付けしてきた。AIにより、(1)ニュースの発信源に政治的バイアスがなく、品質が保たれているか(2)筆者がきちんとリサーチし、専門知識があるか(3)直接取材の程度を解析。記事の信頼性・信憑性を1~100%の数値でランク付けする。75%以上は「極めて参考になる」記事であり、50%以下は「参考にならない」とみなされる・・・

・・・今回の買収の背景には、米市民の「ニュース離れ」という深刻な状況がある。米世論調査機関ギャラップによると、米国人が主要メディアに抱く信頼は今年、同社が調査を始めてから過去最低の水準に落ち込んだ。
新聞への信頼性は成人全体の16%、テレビニュースは11%と、前年比でそれぞれ5ポイント減少した。新聞の発行部数がピークで、CNNなどケーブルニュース局の成長期に当たる1993年には、新聞31%、テレビは46%だった。

なぜ、ここまで落ち込んだのか。一つの原因はドナルド・トランプ前大統領だ。今もなお、新聞・テレビなど主要メディアを「フェイクニュース」と攻撃し続ける。彼の集会に行くと、記者が取材しているメディアブースをトランプ支持者が取り囲み、「フェイクニュース!」となじる姿をよく見る。
トランプ氏が支持し、愛する保守系のケーブルニュース局、FOXニュースの開局は96年と、CNNより後発だった。しかし、今やCNNの数倍という視聴者数を獲得し、市民への影響力は大きい。しかも、トランプ氏が毛嫌いするリベラル系のニューヨーク・タイムズ(NYT)やCNNを激しく批判することもいとわない・・・

リスクを取らない報道機関

9月5日の朝日新聞夕刊、藤田直央編集委員の「リスク取らぬ大手メディア、フランス人研究者の見立て」から。

フランス人のセザール・カステルビさん(36)。パリ・シテ大学准教授で日本メディアを研究し、フィールドワークで東京に滞在中です。高校生の頃から日本文化に関心を持ち、2010年代には東京大学に留学しながら築地の弊社でアルバイトもしていました。
最近の日本メディアの報道ぶりについて尋ねると、安倍氏が撃たれた7月8日、東京都心での「観察」から話が始まりました。
渋谷のカフェにいて事件にツイッターで気づき、新聞やテレビが街の声を取材するぞ、とすぐ地下鉄で定番の新橋へ。駅前SL広場で待っていると新聞の号外が配られ、取材も始まりました。
あるテレビ局の記者に近づき質問に耳を傾けると、「びっくりしましたか」と「今後が不安になりませんか」のふたつ。公人への暴力がこの事件で問われていると考え、取材で確認しているとカステルビさんは思ったそうです。
ところが事件の反響は旧統一教会批判、そして大手メディア批判へ。カステルビさんは驚きませんでした。「海外にある日本の伝統的な大手メディアに対する典型的な批判だったからです」。それは「リスクを取るのが苦手で当局の情報に頼りがち」と「横並びになりがち」のふたつです。

「読者にとっては多様な報道が大事なのに、日本の大手メディアは互いを気にしすぎでは。もしこんな事件がフランスで起きたら、大手紙でもリベラシオンやフィガロは踏み込み、ルモンドは慎重という違いが出ると思います」
もうひとつは、「ネットメディアと役割分担ができればいいが、大手メディアは旧統一教会批判に当初慎重だったのに、一気に積極的になったようです。ゼロか百かのバランスの悪さも典型的な批判対象です」ということです。

それでもフランスとの違いを感じるのは、「世間」という存在だそうです。「社会と個人の間にある地域や会社、学校などでの人のつながりは、もちろんフランスにもあります。でも日本の『世間』には異なる人を追い出すような厳しさがある。大手メディアはとりわけ事件報道でその『世間』の意識に影響を与えてきました」
いまやSNSの方が影響力があるのではと聞くと、「そう思います。しかも日本の『世間』のあいまいさと、SNSでの匿名性の高さはつながりが深い」。14年に総務省がまとめた調査結果では、ツイッターの利用は匿名でという回答が日本では75%。フランス(45%)、米国(36%)、韓国(32%)を大きく上回っています。
そんな日本で大手メディアの生きる道は。カステルビさんは「説教と思われたくないのですが」と前置きし、こう語りました。
「人口減で市場が縮む日本で、新聞社は経営が大変でリスクを取りにくいでしょう。でも萎縮すれば何も伝わらず、読者はネットへどんどん流れます。SNSの時代に伝統的な大手への批判は必ず来ます。批判を恐れず、何を誰に伝えるかを意識してリスクを取る。批判されてもやるという誇りを持ち、存在感を示すことです」

報道機関の「保身」?

7月28日の朝日新聞論壇時評、林香里・東京大学大学院教授の「元首相銃撃事件 知られぬ事象、拾う報道こそ」から。

「安倍元首相 撃たれ死亡」
これは、7月9日の朝日、読売、毎日、産経、日経(以上東京版)の朝刊1面見出しだ。5紙とも、一字一句同じだった。
各紙はさらに翌週、宗教法人「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」が記者会見をし、容疑者の母親が会員だと認めた11日まで、揃って「特定の宗教団体」と呼び、その名を明示しなかった。事件後、「特定の宗教団体」で検索し、最初に教団名がヒットしたのは「現代ビジネス」や「Smart FLASH」など、出版系サイトだった。
画一化された見出しの付け方や、すでに周辺取材で明らかになっていたであろう団体名を報じない態度。ネット時代には、こうした態度こそ、陰謀論や誤情報を呼び込むことになりかねない。デジタル時代に期待される情報のスピードと、新聞社が培ってきた「紙の伝統」とがどんどん乖離してしまっていると感じる。重大事件では知り得た情報は確認状況も含めて随時出すことを原則とし、市民を信頼して判断を委ねるなど、発信のしかたを見直さないと乖離は埋まらないだろう。

こんな状況なら、私たちには新聞や地上波テレビは必要ない。大手メディアはもはや過去の遺物だ。そんな声も聞こえてきそうだ。が、それは間違いだろう。
新聞やテレビなど旧来型マスメディアには、まだまだ、私たちが何を考えるべきか、思考枠組みを提供する議題設定力がある。さらに、新聞やテレビという「老舗」が取り上げれば、その話題には社会的価値があるという権威付与の機能もある。知られぬ事象や届かない声を拾うことは、大手メディアにこそ求められるのだ。

オンライン取材の背景

7月16日の朝日新聞「メディア空間考」、浜田陽太郎記者の「同調圧力は米にも? ビル・ゲイツ氏とのマスク談議」から。本筋でないところを紹介します。

・・・6月中旬、米マイクロソフト創業者で、社会貢献活動家のビル・ゲイツ氏(66)に、オンラインでインタビューした・・・
・・・オンライン越しのゲイツ氏は瀟洒なオフィスのテーブルの向こう側に座っていて、かなり距離があった。背後には大きな窓。逆光になるので表情は陰になる。「あちゃー」と思ったが、声はちゃんと聞こえた・・・

・・・さて今回、私は自宅の寝室兼書斎から取材した。後ほど先方から送られたスクリーンショットに映っていたのは私のでっかい顔、背後には量販店で買ったカーテンと家庭用エアコン。世界屈指の富豪が、一介の記者が日々寝起きしている部屋のインテリアを見ながら話していたのか。不思議な気分だった・・・

曽我豪記者の振り返り

4月8日の朝日新聞「日曜に想う」、曽我豪・編集委員の「国会の「抑止力」伝承されるか」がよかったです。本論もよい分析なのですが、ここで取り上げるのは裏に隠された第二の主張です。

冒頭は、次のように始まります。
・・・戦後日本の安全保障の歴史を画したその記事は、拍子抜けするほど小さい。30年前の昨日、1992年5月7日付の朝日新聞朝刊(東京本社発行最終版)は1面でなく2面に3段の見出しを立てる。
「PKO法案 『自公民で成立も』 小沢氏、同日選挙は否定」・・・
最後の部分で、もう一つ指摘します。
・・・最後にもう一つ。30年前の昨日の2面を縮刷版で見直して驚いた。小沢氏の記事の右隣に4段の見出しがある。後に生じた衝撃を思えば、やはり小さ過ぎる。
「細川前熊本知事が新党 『自由社会連合』 参院選へ候補者擁立」・・・
そして最後を次のように締めます。
・・・課題に向かう敏感さを欠く者は退場するほかない。激動期の政治の怖さだ・・・

二つの大きな転換について、当時の朝日新聞記事が小さいことを振り返った「朝日新聞の自己批判」が秀逸だと思います。