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財政赤字は子どもを抵当にした借金・カナダの例

9日の日経新聞「月曜経済観測」、カナダのフレアティ財務大臣のインタビューから。
カナダは、今では財政の優等生と呼ばれるが、過去には歳出が膨張し続けた時期がある。1970-80年代は巨額の政府支出が内需を支え、国も州も借金地獄に陥った。国民は財政拡大と赤字を気にせず、むしろ支持していた、なぜなら国民は、政府債務の増大が、将来の増税につながると想像しなかったからだ。国の財政と自分の日々の生活を、直感的に関連づけて考える人などいない。ここに政治家や政策当局者が陥る落とし穴がある。
だが、借金はいつかは返さなければならない。支払いを先送りしても、将来は税収で埋めるしかない。つまり、自分の子どもを抵当に入れて、借金をするのと同じだ。そこで、子どもの将来を真剣に考えるよう、国民に訴えた。財政赤字の本質とは、世代間の不公平なのだと明言した。親が子の生活水準の向上を願うのは当然だ。90年代にかけて、財政問題に関する国民の認識が、徐々に変わっていった。もし今、財政赤字を容認すれば、その政権は国民に政治的に排除されるだろう。日本ではどうだろう・・・

高齢者の社会参加

5日の日経新聞は、高齢社会国際会議を特集していました。そこで紹介されているアメリカの非営利組織AARPは、50歳以上の会員3,800万人からなる、高齢者の暮らしを良くし、そのために社会を変えていこうとする団体です。政治にも、大きな影響力を持っているようです。元来は、引退を意味しているリタイアメントが、再創造に変わってきたことが指摘されています。
堀田力さんは、かつてホワイトカラーだったシニアの男性について、次のように特徴を述べておられます。
彼らは高度成長期に毎日、深夜まで一生懸命働き、家には寝に帰るだけという生活を送ってきた。その結果、家庭生活、地域生活がないまま年を重ねてしまった。趣味や友人も持たず、定年後は何をしたらいいのか分からないという状況に陥ってしまっている。家に引きこもるか、妻に追い出されて外をさまようか、まるで産業廃棄物になっている。
私は「新地方自治入門」p322以下で、服装を例に会社至上主義を批判し、生活が規定する社会・20世紀型社会を分析しました。

授業の準備

来週から、慶応大学での授業が始まるので、その準備にいそしんでいます。というか、苦しんでいます。お話しする内容は、あふれるほどあるのですが。先日書いたように、何を捨てるかです。大学院と学部生では、同じ水準の内容、というわけにはいきませんし。
今回の授業はどこに重点を置くか、それによって講義の組み立てが違います。目次ができれば、半分はできたようなものです。次の問題は、資料です。レジュメとともに、資料も作りかえなければなりません。私の授業は、「同時代的分析」が売りなので、資料は日々時代遅れになるのです。昨年の一橋大学院での資料も、大半は使えそうにありません。本棚から、その他の資料も引っ張り出し、この際思い切って整理と処分をしました。こうして、休日は過ぎていきます。

全要素生産性

日経新聞経済教室は、4月2日から5日まで、TFP(全要素生産性)を特集していました。聞き慣れない言葉ですが、生産性=経済成長(投入量に対する産出量の割合)のうち、労働要素(労働時間数)と設備要素(機械や工場などの資本)を除いたものです。
すなわち、「その他何でも」なのですが、技術革新だけでなく、労働者の質ややる気、技術や資源・人をどう有効に活用できるかといった社会制度や慣行も含まれます。ただし、TFPは引き算で出てくるので、その内容は数量的には正確には分かりません。
労働・資本・TFPの3つが上昇すれば、経済が成長するということです。労働時間が増えなくても、資本が増えなくても、TFPが上昇すれば生産性は上がるのです。JRなどは良い例ですね。従業員は減ったのに、売り上げは増えたのですから。
すると、政府・社会としては、どのようにしてTFPを引き上げるかが、重要な課題になります。工学的な技術革新だけでなく、それを生産・流通・消費に応用することが重要なのです。また、労働力の質を引き上げ、より必要なところに回すこと、資金をより成長する分野に投資することも、重要です。人や資金が従来型の生産性の低い分野にとどまることなく、成長分野に移すため、規制改革・社会の枠組み改革は、この意味からも重要なのです。
経済学での「需要と供給」では、供給の議論ですが、これが需要にも影響を及ぼすことも指摘されています。TFPは、経済財政諮問会議での、重要な議論の一つになっています。

2007.04.07

林宏昭先生と橋本恭之先生の「入門地方財政」第2版(中央経済社、2007年3月)が、出版されました。地方財政のわかりやすい教科書です。さらに、財政理論や地方財政の仕組みだけでなく、三位一体改革、道州制、民間活力の利用など、最新の状況も紹介されています。コンパクトでバランスの取れた、最も優れた教科書の一つでしょう。お勧めします。(2007年3月2日)
(地方財政学の理論書)
中井英雄近畿大学教授が、「地方財政学-公民連携の限界責任」(2007年3月、有斐閣)を出版されました。これまでの地方財政の教科書と違い、財政学でなく、地方財政学固有のテーマを取り上げておられます。
すなわち、足による投票、全国平均の行政水準保障と地域ごとの受益と負担、地方政府組織の選択、福祉給付の引き下げ競争、財政調整などです。それらが、制度解説でなく、経済学の理論、数式と図表で解説されます。その意味で「地方財政解説」や「財政学の地方適用」でなく、本当の地方財政学となっています。
さらに、コミュニティ・NPOなどを「私的プロバイダー」と位置づけ、国・地方団体だけでない地域のサービス提供主体を含めた、地方財政学となっています。副題の「公民連携の限界責任」がそれを示しています。そして、その観点から、イギリス・ドイツ・日本が、類型化されています。すると、地方財政は、世界各地で標準化されるモデルでなく、各地域の社会構造に規定されたものになります。
私は、この点に、とても納得します。経済学・財政学は、ものごとをモデル化・純化し、世界中で適用されると主張します。お金やモノの取引は、そうなのでしょう。しかし、私たちの暮らしを見たら、決してそうではありませんよね。
これまでの教科書を超えた、意欲的な本です。数式の部分はとっつきにくいかもしれませんが。冒頭に、リーディング・ガイドがついていて、全体像が分かるようになっています。ご関心ある方に、お勧めします。