8月20日の朝日新聞オピニオン欄「消えゆくヤクザ」から。
「暴力団対策法が成立して今年で30年。ピーク時で20万人近くいたとされる暴力団員は、3万人以下に減った。「ヤクザ」はこのまま消え去るのか。それは警察や社会の勝利なのか」
藪正孝・福岡県暴力追放運動推進センター専務理事の発言
・・・暴力団はかつて、義理と人情にあつい世界、といった肯定的なイメージで語られることがありました。しかし実態は、違法薬物の密売や特殊詐欺などを繰り返す「犯罪組織」であることは明らかです。社会に寄生し、市民社会から利益を不当に吸い上げていると言えます。
覚醒剤は、2019年に全国の押収量が過去最多の2トン超にのぼりました。特殊詐欺の被害額は、昨年1年間だけで約285億円。こうした犯罪の多くに暴力団が関係しており、犯罪収益が「上納金」として組に流れています。
また暴力団は、意に沿わない市民に、容赦なく暴力を振るいます。工藤会は「暴力団排除」を表明していたクラブに手榴弾を投げ込み、従業員ら12人に重軽傷を負わせました。山口組も放火で風俗店従業員3人を殺傷しています。
時に「ましなヤクザ」はいても、「いいヤクザ」などいない。彼らは最後は常に「暴力」なのです・・・
広末登・犯罪社会学者の発言
・・・ただ、新たな問題が表れています。10~18年の9年間で、暴力団を抜けた人は計5453人。そのうち就職者数は165人と約3%しかいません。暴力団離脱後の受け皿が社会にないのです。
たとえば各地の暴排条例には、離脱後も5年間は暴力団員とみなす「元暴5年条項」があり、銀行口座などを簡単には持てず、就職も容易ではありません。仕事がなければ家族を養えない。彼らは犯罪の技術やネットワークを持っているので、特殊詐欺や覚醒剤の密売といった違法行為に走ってしまう・・・
・・・暴力団員は、経済的困窮や家庭内暴力、ネグレクトといった境遇で育ったケースが多い。犯罪や非合法な行為が身近な環境で育ち、一般社会の適切な価値観に触れずに成長する場合も散見されます。なのに、そこから抜け出そうとしても、社会復帰の道は極めて険しい。ある人間が属性要件のみで排除される社会は健全とは言えません。
暴力団は弱体化しましたが、代わって「元暴アウトロー」や「半グレ」という別種の危険な存在が跋扈している。そんな裏社会のありようは、今の表社会の限界を示しているのかもしれません・・・
禁止し、罰を加えるだけでは、問題は終わりません。排除だけでなく、この人たちをどのように受け入れるかが重要なのです。