失敗を許さない社会、失敗から学ばない社会

7月25日の読売新聞言論欄、喜連川優・国立情報学研究所所長の「ITと日本社会 データの時代 失敗する勇気」から。
・・・背景には、日本の社会が抱える様々な問題があると思います・・・
・・・もう一つの大きな問題は、失敗を許さず、失敗から学ぼうともしない風潮が目立つ点です。
ITは新しくて変化が速い世界です。私たちIT屋は少々の失敗は当たり前と考えます。それを恐れていては前に進めません。ところが日本の社会では、ささいな失敗も批判にさらされがちです。
また、未開の分野に挑んで失敗することは、他の国より早く知恵が得られることを意味します。失敗のデータはすごい価値があるのです。しかし、失敗は隠されることが多い。だから貴重な経験知を次に生かすことができません。
米国でIT分野の起業家などが好んで使う標語があります。
Fail fast、cheap、smartという言葉です。
直訳すれば「速く、安く、賢く失敗せよ」。「速く」はどうせ最初は失敗するのだから、とにかく試みる、「安く」は失敗は傷が浅いうちに、「賢く」は失敗から上手に学ぶ、という意味でしょう。

では、どうしたらいいのか。
私は「やんちゃ」と「ぬくもり」がカギを握ると思います。
ここで言う「やんちゃ」とは、誰もやっていない、 尖ったことを考え、周囲は気にせず、失敗も恐れず、勇気を持って行動に移してしまうような人のことです。
私は東大で二番手になるな、それどころかナンバーワンも目指すな、と教えられました。挑むべきなのはオンリーワン、つまり誰も手をつけていない分野だと。そんな先生に恵まれ、やんちゃな研究生活を送ることができました。
グーグルの創業者もやんちゃな若者でした。中国の起業家はやんちゃどころではない。日本だと「規則ができるまで待とう」となるが、「規則がないならやってしまえ」となる。良い悪いは別として、それが活力を生んでいます。
良い意味でのやんちゃを評価する社会や仕組みは今後の日本にとって欠かせません。私は情報処理学会の会長を務めた2013~14年、理事に「やんちゃ若手枠」を設けました。これも若い発想や活力を引き出したかったからです・・・