アイケンベリー教授、新しい国際秩序

1月22日の朝日新聞オピニオン欄「米新政権 重い宿題」、ジョン・アイケンベリー・米プリンストン大教授の発言から。

――民主主義の混迷は米国だけの現象ではないようです。
「過去200年の間、民主国家の市民は自分たちの子供がより豊かな人生を送ることを期待できました。生産性の向上、世帯収入の増加、労働者の地位向上という果実とともに民主主義も前進しました」
「冷戦終結を祝福していた1990年代に停滞が始まります。先進民主国家は新技術導入やグローバル経済への適応で打開を図りましたが、かえって格差が拡大し、より良い生活をもたらす使命を果たせなくなったのです」

――国際秩序も曲がり角を迎えました。
「冷戦中から冷戦終結直後までの時期、いわゆるリベラルな国際秩序は先進民主主義国の社交クラブのような存在でした。『会員』になれば安全保障が約束され、貿易や投資へのアクセスも得られた。それがグローバル化の進展で誰でも出入りできるショッピングモールに変貌しました。民主主義へのコミットメントという『会費』を払わなくても、世界貿易機関(WTO)をはじめとする枠組みに中国などが仲間入りする時代になったのです」

――新政権で米国のリーダーシップは復活しますか。
「リベラルな国際秩序は米国が各国に指図する形だったのではなく、根幹は協調と相互依存です。米国の覇権的なリーダーシップではなく、同盟関係や国際機関を通じて協調を促す『内側からのリーダーシップ』なのです。バイデン政権でも日本やドイツ、韓国、豪州など同盟国の支えが欠かせないでしょう」

――国際主義への懐疑論にはどう向き合えばいいでしょう。
「自由貿易や同盟、国連に対する支持を米国人が捨ててしまったとは思いません。数々の世論調査は、国際主義への信頼が米国内に根強いことを示しています。しかし、自由貿易や国際協調を中間層が前向きに受け入れられるようにする努力は必要です。国際主義は、国境を取り払って単一システムに同化させることではありません。各国間の相互依存をうまく管理することです。外交政策と国内の再建を有機的に結びつける。米国人の日常にとって国際主義を身近なものとする。そうした工夫が欠かせません」

参考「トランプ大統領と中国と、リベラルな国際秩序