岡本裕一朗著『フランス現代思想史』(2015年、中公新書)に、挑戦しました。2か月も前のことです(すぐに読み終えたのですが、このページに書くのが遅くなりました)。構造主義、ポスト構造主義、ラカン、バルト、フーコー、デリダ・・・。かつて、手にとっては、投げ出していました。新書版で紹介してもらえるなら、読めると思い、取っ組んでみました。読み通すことができました。
冒頭、「ソーカル事件」が紹介されています。
・・今日、フランス現代思想史を書こうとするとき、避けて通れない問題がある。いわゆる「ソーカル事件」と呼ばれるもので、ニューヨーク大学の物理学教授アラン・ソーカルがしかけたイタズラだ。1995年に、ソーカルは「著名なフランスやアメリカの知識人たちが書いた、物理学や数学についてのばかばかしいが残念ながら本物の引用を詰め込んだパロディ論文」を作成し、現代思想系の『ソーシャル・テクスト』誌に投稿した。ところが、このインチキ論文は、何と掲載されてしまったのである・・
・・引用された文献の多くが、フランスの現代思想家たちの文章だったからである。今まで、フランス現代思想は「難解」だからこそ崇拝されてきたのに、実際にはむしろ、「ばかげた文章とあからさまに意味をなさない表現に満ちている」わかったのだ・・
これで、安心しました。私が理解できなくても、頭が悪かったのではないようです。翻訳が悪いのでもないようです。
著者は、勇気がありますね。大学教授には、自分が欧米で勉強したことを日本に輸入し、いかにそれが良いものかを売る「崇拝者」であり、「輸入代理店」の方もおられます。このように、客観的な評価を紹介した上で、解説と評価を述べるのですから。ソーカル事件は以前聞いて知っていましたが、このようにフランス現代思想史の解説書の1ページ目に出てくると、それが与えた影響や位置づけがわかります。
フランス現代思想のように、難しいことを新書版で紹介することは、とても難しいことです。よほどの理解者でないとできません。しかし、私たち素人には、入門書として、また概要を知るためにはありがたい手段です。「私も、フランス現代思想に手こずった」という方や、「なにか高尚なものだと思っていたけど、読めなかった」という方には、お薦めです。