カテゴリーアーカイブ:経済

20代と50代、賃金上昇に世代間格差

2026年4月1日   岡本全勝

3月15日の朝日新聞に「20代と50代、賃金上昇に世代間格差」が載っていました。

・・・若手の賃金が大きく伸びる一方で、中高年は伸び悩んでいます。賃上げの動きが広がるなか、世代間の賃金上昇のばらつきが新たな課題です。その傾向は20代と50代に象徴的に表れています。
厚生労働省「賃金構造基本統計調査(速報)」によると、2025年の大卒20代(20~24歳と25~29歳)は前年比4~5%台の伸び。一方で、大卒50代(50~54歳と55~59歳)は1%未満だった。
大卒の男女別もわかる24年の値で20年と比べると、就職期にあたる20~24歳の賃金は男性9・8%増、女性10・5%増。一方で、50~54歳は男性0・9%減、女性0・2%減だった。近年の賃上げ局面では年代による賃金上昇のばらつきが鮮明になっている。

第一生命経済研究所の熊野英生氏は「若手は転職が活発で、労働需給の逼迫(人手不足)が賃金上昇に反映されやすい。一方で50~54歳の就職氷河期世代は転職が少なく、世代間格差が生じている。氷河期世代の労働移動がもっと活発になるような環境整備が必要だ」と指摘する・・・

・・・賃金アップは、年齢などによる定期昇給と全体水準を底上げするベースアップ(ベア)に大きく分かれる。企業にとって悩ましいのは賃上げの原資の振り向け方だ。
人材採用のため、初任給は同業他社と比べて見劣りさせられない。初任給を上げれば若手の賃金も上げないと、既存社員と新入社員で逆転しかねない。賃上げ原資は若年層へまわりやすい構図にあるが、中高年層にも目配りしないと数多い社員の士気にかかわる。
経団連が労務担当役員らに聞いた「2025年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」でみると、ベアの配分方法(複数回答)は「一律定額」55%、「職務・資格別」24%に続き、「若年層(30歳程度まで)」への重点配分が23%と多い。「中堅層(30~45歳程度)」は9%、「ベテラン層(45歳程度以上)」は1%だった・・・

・・・職場では管理職と若手、家庭では親と子。その象徴的な年代の50代と20代を比べると、労働市場での違いが浮かび上がる。
人口は20代が1272万(26年2月)と50代より3割少なく、働き手として希少な存在。就職期の環境は50代後半がバブル経済末期、50代前半が就職氷河期と、同じ年代でも差が大きい。20代は学生時代や就職期にコロナ禍を経験し、デフレからインフレへの転換期を若手社員として過ごしている。
お金に対する意識はどのように違うか。金融経済教育推進機構(J―FLEC〈ジェイフレック〉)の「家計の金融行動に関する世論調査2025年」によると、経済的な豊かさを「実感」「ある程度実感」している世帯の合計は20代58%、50代35%と開きがある・・・

広告費の半分はネット広告

2026年3月21日   岡本全勝

3月17日の朝日新聞、小林美香さんへの取材「作られた像、誘われる有権者 ネット広告と衆院選、ジェンダー表象研究者に聞く」から。

・・・選挙期間を通して、ネット広告の多さは異様に感じました。特に自民党は、YouTubeのような動画プラットフォームだけではなく、写真を用いたバナー広告など、量で圧倒していたように見えます。
広告は数秒のビジュアルや短いメッセージで消費者の「内なる欲望」を喚起し、消費行動へと誘導するように設計されています。
「アテンションエコノミー」という言葉で言い表されるように、いかに短時間で人々の認知を獲得し、情報を刷り込むかが、商品やサービスの消費行動のみならず、投票行動にも大きな影響を与えます。有権者の多くが、政策や公約を比較し検討するよりも、膨大な広告費をつぎ込んで出稿された広告の単純接触効果によって、投票先を選択しているのではないか、と強い危機感を抱いています・・・

次のような数字が載っていました。
・・・電通が公開する「日本の広告費」によると、2024年の日本の広告費は7兆6730億円。同年度の防衛予算7・9兆円に近い金額です。うちネット広告費は3兆6517億円と総広告費の47・6%を占め、マスコミ4媒体(テレビ、新聞、ラジオ、雑誌)の広告費2兆3363億円を大きく上回っています。
今後も増加が予測される広告費は、私たちの価値観や生活に大きな影響を与えているのにもかかわらず、その機能や全体像がつかみづらいのが実情です・・・

二つの脳、直感と熟慮

2026年3月20日   岡本全勝

ダニエル・カーネマン著『ファスト&スロー―あなたの意思はどのように決まるか?』(上下)(原著2011年。2012年早川書房、204年ハヤカワ文庫に再録)を読みました。あるところで紹介されていたので。今ごろ読んだのは、「ファスト&スロー」という表題に、関心を持てなかったからです。私がつけるとしたら、「直感と熟慮ー意思決定の2つの型」でしょうか。

文庫本で上下巻あわせて、800ページを超える大著です。著者の主張は、人間の判断は必ずしも合理的ではないということです。それを、いくつもの実験で証明します。その功績で、ノーベル経済学賞を受賞しました。近代経済学は、人間は合理的に判断するものとして組み立てられています。その根底を覆すのですから、経済学会からは冷たい扱いを受けたようです。著者は経済学者ではなく、心理学者であり、行動経済学をつくった一人です。
本書を読むと、納得することばかりです。近代経済学の限界がよくわかります。経済学もこのような「実際の人間」を扱ってほしいです。そして、抽象的な数式を深めるのではなく、現実社会の問題に取り組んでほしいです。参照「スティグリッツ著『資本主義と自由』」

著者の結論は、次のようなものです。
人が判断する際には2つの型(システム)があります。システム1は早い思考をする直感的なもので、システム2は遅い思考をする熟慮型です。そして、システム2は時にはシステム1の監視をして、間違った判断を修正します。
直感は深く考えることなく、ものを見ると直ちに判断します。それはどうやら、人類が長年の進化の過程で身につけたようです。そして、個人も成長の過程で、身につけるようです。相手の顔、表情を見て、相手が何を考えているかを推測するとかです。あまり深く考えることなく判断するので、脳に負担をかけない、経済的効率的な判断です。しかし、しばしば間違います。本書にはその例がたくさん載っています。
それに対し熟慮は、二桁のかけ算のように「頭を使う」判断です。直感では答えが出ない場合に、仕方なく熟慮が働きます。

また、利得が得られる場合と損失を被る場合では、リスクの評価が異なること。痛みの記憶は、実際の体験とは異なって思い出されることなど、人間の判断と記憶がええ加減なことが、次々と示されます。

なるほどという事例が、いくつも出てくるのですが、次の例は興味深いです。将来予測はできないという話です。
ある証券会社の個人客1万人について、7年間の取引記録16万件を調べたところ、売買実績より、そのまま持っていた方が実績が良かったのです。これは平均ですから、うまくやった投資家もいたでしょうが、もっとまずいことになった投資家もいたでしょう(上巻374ページ)。著者やこの話を投資アドバイザー向けの講演でしたそうですが、無視されたそうです。
また、大企業の最高財務責任者に、翌年の株価指数連動型投信のリターンを予想してもらう調査でも、まったく外れでした。しかも、彼らは自分たちの予測能力のなさをまったく自覚していません(下巻62ページ)。

円の実力、ピークの3分の1

2026年3月15日   岡本全勝

2月21日の日経新聞に「円の「実力」ピークの3分の1 最低を更新、購買力の低下止まらず」が載っていました。

・・・日本の対外的な購買力の低下が止まらない。円の総合的な実力を示す指数は変動相場制移行後の安値を更新し、ピークを付けた31年前の3分の1の水準に沈む。「失われた30年」と呼ばれた長期間に及ぶ経済の落ち込みや低金利が背景にある。円の価値回復には、利上げにも耐えられるような経済の成長力を取り戻すことが重要になる。

国際決済銀行(BIS)の20日までの発表によると、2026年1月時点の実質実効為替レートは67.73。1973年に変動相場制に移行して以降で最も安い水準となった・・・
・・・円の実質実効レートが最も高かったのは1995年4月(193.95)で、それと比べるとおよそ3分の1に縮んだ・・・
・・・バブル崩壊後長期にわたった日本経済の低迷が大きな要因の一つだ・・・

政府の大規模財政支出を伴う産業政策

2026年3月7日   岡本全勝

2月20日に行われた、高市首相の施政方針演説、「2 経済力(1)国内投資促進のための「責任ある積極財政」」の中に、次のような文章があります。

「世界を見渡せば、政府が一歩前に出て、官民が手を取り合って重要な社会課題の解決を目指す新たな産業政策が大きな潮流となり、各国政府は、大規模かつ長期的な財政支出を伴う産業政策を展開しています。
世界が産業政策の大競争時代にある中、我が国として、経済成長を実現するために必要な財政出動をためらうべきではありません。」