1月31日の朝日新聞オピニオン欄、イギリスのヨーロッパ連合離脱について、「勝者なき離脱」。山本圭・立命館大学准教授の発言「人々の憤怒、軽んじた左派」から。
・・・左派の関心は長らく、マイノリティーのアイデンティティーをいかに承認するか、ということでした。近年、その論調は変化を見せ、「左派も経済を語るべきだ」という声が大きくなってきました。「反緊縮」を唱える左派ポピュリズムの台頭もその流れにあります。しかし、多くの国で左派政党から人々が離れているのはなぜでしょう。
米国の著名な政治学者フランシス・フクヤマが、近著で興味深い指摘をしています。近年、自分たちのアイデンティティーが十分に承認されていないと感じる人が増えている。つまり、現在の政治では、人々の尊厳が問題になっているというのです。
ここで言う「尊厳」とは、経済的な損得では説明できない複雑な感情です。つまり、単に公正な再分配を訴えればいいというわけではない。尊厳には、「私たちを忘れるな」という純粋な自己承認を求める感情もあれば、その裏返しとして「なんでやつらばかりが優遇されるんだ」という他者攻撃にもつながる憤怒の感情も含まれます。
離脱派があおった排外主義やナショナリズムは、後者の感情を動員しやすい。ジョンソン首相の人気の秘密もここにあるのでしょう。ジョンソン首相は実際にEUを離脱した後も、人々の尊厳を満足させ続けられるかが問われるでしょう。
他方でEU残留派は、人々の尊厳の感情をうまく捉えきれなかったように思います。こうなると、いくらEUの大義やその経済的効果を訴えても、人々には響きません・・・